酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
5 / 25

1−4  オルザベート視点

しおりを挟む
 エアリスに会えなくなって、約一年がたった。
 子供が生まれたというのに、エアリスは何も連絡をくれなかった。
 久しぶりに会えると思ったのに…。

 カイジス公爵はエアリスに忘却魔法をかけると言っていたけど、エアリスは私の事を本当に忘れてしまったの?

 そんな事はないわよね。

 彼女の祖父母の形見が魔法の効果を解除してくれると、ティンカーが言っていたから、私の事を思い出してくれているはずよね?

 何より、エアリスの中で、私の存在は一番大きいんだから、私の存在がなくなれば、エアリスの心にぽっかり穴が開くようなもの。

 忘れられるはずがない。

「本当にエアルを置いていって良かったのかい?」
「ええ。エアリスは子供を育てた事はないかもしれないけど、カイジス家の誰かは育てた事があるはずだから苦労はしないはずよ」
「ならいいけど。僕達、こんな風に逃げて捕まったりしないかな」
「私達は警察に捕まっていたわけじゃないわ。あの家に閉じ込めていたのはカイジス公爵よ。私達はカイジス公爵から逃れたの。本当はあの男を破滅させたいけど、そうするとエアリスの生活が良くなくなるかもしれないから止めておくわ。エアリスとあなたとエアルと4人で幸せに暮らしせるようになってから考えましょう」

 微笑んであげると、ティンカーは頬を染めて頷いた。

 今、私達はティンカーが魅了魔法をかけた女性の家で暮らしている。
 解除されないかぎりは、私達がここで身を隠していられるはず。

 それにしても、解放感というのはこういうことね。

 エアルというのが私の息子の名前なのだけれど、エアルがいなくなってから、精神的に楽になった。
 
 本当は子供なんてほしくなかった。
 自分の子は可愛いというけれど、世話をしないといけないし、夜泣きはするしで大変だった。
 まあ、ほとんどティンカーが面倒をみてくれたんだけど。

 彼は自分の子供だと思っているみたいだけど、実際、ロンバートの子なのか、ティンカーとの子なのか、私にはわからない。
 同時進行で付き合っていたから。

 それは全部、私とエアリスの未来のため。
 
 あんなに苦しんで生んだ子なのに、全然、可愛いと思えなかった。
 それはきっと、エアリスが近くにいないから。

 まあ、こんな事を考えているって知ったら、真面目なエアリスの事だから、赤ちゃんを一番に考えなさいって怒るだろうから、再会しても、彼女には絶対にそんな事を言わないようにしなくっちゃ。

 エアリス。
 すぐには行けないけれど、少しずつ、あなたに近付いていくからね?

 それまで、私を信じて待っていてね?

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと
恋愛
16歳になるエミリア・ダートン子爵令嬢にはまだ婚約者がいない。恋愛結婚に憧れ、政略での婚約を拒んできたからだ。 ある日、理不尽な理由から婚約者を早急に決めるようにと祖父から言われ「三人の婚約者候補から一人選ばなければ修道院行きだぞ」と脅される。 それならばと三人の婚約者候補を自分の目で見定めようと自ら婚約者候補達について調べ始める。 その様子を誰かに見られているとも知らずに…。 *設定はゆるいです。 *この作品は作者の他作品『私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした』の登場人物第三王子と婚約者のお話です。そちらも読んで頂くとより楽しめると思います。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

彼女を選んだのはあなたです

風見ゆうみ
恋愛
聖女の証が現れた伯爵令嬢のリリアナは聖女の行動を管理する教会本部に足を運び、そこでリリアナ以外の聖女2人と聖騎士達と出会う。 公爵令息であり聖騎士でもあるフェナンと強制的に婚約させられたり、新しい学園生活に戸惑いながらも、新しい生活に慣れてきた頃、フェナンが既婚者である他の聖女と関係を持っている場面を見てしまう。 「火遊びだ」と謝ってきたフェナンだったが、最終的に開き直った彼に婚約破棄を言い渡されたその日から、リリアナの聖女の力が一気に高まっていく。 伝承のせいで不吉の聖女だと呼ばれる様になったリリアナは、今まで優しかった周りの人間から嫌がらせを受ける様になるのだが、それと共に他の聖女や聖騎士の力が弱まっていき…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっていますのでご了承下さい。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

処理中です...