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42 王族がそれでいいんですか?!

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「決めるのは彼女だろ?!」
「婚約者のオレ達にだって、多少の権利はある」

 ユウヤくんがそう答えると同時に、ラス様も前に出て、二人で私の姿を隠すようにした。

「僕は王族なんだぞ」
「奇遇だな。オレもだよ」
「そっちは違うだろ! 兄様が調べたけど、公爵家の跡取りなだけじゃないか」
「まあ、そうですね。ですけど、陛下の命令ですので」

 二人共私よりも背が高いので、隠されてしまうと、彼らの表情も殿下の表情も全く見えない。

「じゃあ、父上がそう命令したらいいのか?」

 何を言ってるんだ。
 子供だと思ってたけど、子供なんじゃなくて、ただのワガママ。
 だいたい、私を可愛いだなんて、こんな暗闇だから思うんだ。

「あの!」

 二人の背中の服を引っ張って訴える。

「どうした?」
「どうしました?」
「私から、いいですか?」

 お願いしてみると、二人が間をあけてくれたので、アルストロ殿下の目をまっすぐに見つめながら、二人より少し前に出る。

「な、なんだよ」
「可愛いと言っていただけたのはとても光栄です。ですけど、申し訳ありませんが、殿下にはまったくドキドキしないんです。それに、殿下は暗闇だから私の姿がよく見えていないだけだと思います。私は可愛くなんかありません」
「ユーニは可愛いぞ?」
「可愛いですよ」

 後ろから、ユウヤくんとラス様に言われ振り返ると、二人共こちらを見ているのがわかって、一瞬にして顔が熱くなる。

 な、なんで、今、そんな事を!!
 しかも二人から!!

「意識してもらってるんですね」
「やっぱ可愛い」

 っていうか、暗いから顔が赤くなってるのとかわからないでしょう!!
 というか、動揺してるから?
 わかりやすすぎる?!

「わかりますよ」

 言って、ラス様は私に近づくと、頬に触れて笑う。

「熱いです」
「な、な、ななな」
「自分に自信ないから、オレは今まで助かってたけどな。自分の魅力に気付いてたら、他の男にとられてたかも」

 今度はユウヤくんが近づいてきて、ラス様が触れた方の頬とは逆の頬に手を当ててきた。

「そっ! そんな訳ないし!」

 し、死ぬ。
 死んでしまう!
 恥ずかしすぎる!
 なんで毎回、二人でこう、私を褒め殺そうとするの?!

「も、もういい、もういいです! って、あの、アルストロ殿下には申し訳ありませんが、意識してると私はこういう風になるのが普通なんです!」

 後ろに後ずさって二人からはなれ、殿下の方に振り返って続ける。

「だから、諦めてください」
「嫌だ」

 即答だった。
 
 ちょっと、本当に勘弁してほしい。
 可愛いといってもらえるのはありがたい。
 でも、一目惚れされるような可愛さではないはず。
 というか、私は相手がたった一人で、これだけ面倒・・・いや、困ってしまうくらいだから、リアは本当に苦労してたんだろうな、と、こんな時にしみじみ思ってしまう。

「嫌だもくそもねぇんだよ。自分達のことしか考えてねぇからサナトラと開戦するはめになったんだろ」
「では、ユウヤ殿はアネモネをサナトラの王太子に嫁がせれば良かったと?」
「国民のためを思うならな。っていうか、断っても良かったんだろうけど、どうせ、そっちがサナトラを怒らせるような返答でもしたんだろ」

 ユウヤくんはそう言ってからラス様の方を見る。
 無言で説明を求められたラス様は顔の熱がおさまった私の腕をとり、ユウヤくんとラス様の後ろに戻させてから口を開く。

「サナトラ側から聞いた話ですと、えらくアスラン王太子殿下を侮辱する内容の手紙を送りつけたそうですね」
「し、知らん。そういうのは父上や兄上の仕事だ」
「では、真相はお二方にご確認ください。ただ、サナトラ側は売られた喧嘩を買っただけだ、と言ってましたがね」

 何を言っても無駄だ、と諦めたのか、ラス様はため息を吐く。
 ラス様は和平交渉に行っているから詳しい内容はわかっているはず。
 だから、間違っている事を言ってるとは思えない。
 それに、アルストロ殿下の様子やアネモネ姫の奔放ぶりを目の当たりにしていると、そういう事を言い出しかねない国かもしれないと思ってしまう。

「そろそろ戻るか」
「そうですね」
「ユーニ」

 私の方に振り返ったユウヤくんから差し出された手をとって、無言で頷く。
 ラス様も手を差し出してくれたから、あいている方の手をのせて、まさに両手に花の状態。
 
 うわあ、贅沢。
 こんなに幸せだと何か悪い事が起きそうな気がしてしょうがない。

「では、アルストロ殿下、失礼いたします」

 ラス様が頭を下げて、私達を促して歩きだすと、

「どうせ、ユウヤ殿下はアネモネのものになるのに」

 そんな言葉が背中にかけられて、ユウヤくんが立ち止まる。

「どういう意味だ?」
「そのままだよ。いくら第二王子妃が強くてもラナンにはかなわないし、たとえ、ラナンに勝ててもダグラスには勝てない」

 そこまで言って、アルストロ殿下は言いすぎたと思ったのか、自分の口を押さえる。
 そんな彼を残して会場に戻ると、すぐにリアが駆け寄ってきた。

「なんか、今から発表する事があるらしいわよ」

 ユウマくんもすぐに合流して、五人で固まって待っていると、しばらくしてからマヌグリラの国王陛下が現れ、話し始めた内容は、それはもうこちらとしては受け入れがたい話だった。

 内容は、魔物が多く住む森の奥深くにある薬草をどれだけ早く持って帰ってこれるか、というもの。
 一番に早く帰ってこれたものの願いを叶えてくれるらしい。
 参加する条件は男女ペアであれば他に制限はない。

 ちなみに、マヌグリラの王家からはラナン&ダグラス組が出ると発表され、彼らの願いは、ユウヤくんがアネモネ姫と、ラナンさんはユウマくんと結婚できるようにしてほしい、という願いだった。
 ダグラスさんは何も言わなかったから、仕事として付き合わされてるだけなんだろうか?

「こんな王族で、よく今まで国が続いてきてたわね」
「今の代からが駄目なだけかもね」

 リアが辟易した顔をするので、私も同じような表情で頷く。
 すると、王様のところにアルストロ殿下が近づいていくのが見えた。

 なんか、嫌な予感。

 王様は彼の言葉に何度か頷いたりしたあと、アルストロ殿下がはなれていくと、すぐにこちらに向き直って言った。

「ラナン&ダグラス組の願いを追加する」

 王様は一呼吸置いたあと、

「先程の二人の婚約者である二人を、息子の嫁としてもらい受ける」

 とんでもない事を言った。

「ふざけるなよ」
「駄目よ」

 ユウマくんが前に出ようとするのをリアが止める。

「だってよ」
「大丈夫。勝てばいいだけだから」
「そりゃそうかもしんねぇけど」

 リアはユウマくんの手を握って無言で見つめる。

「わかったよ・・・」
「わかればよろしい」

 ユウマくんをおさえておくためなのか、リアは彼の手を握った状態で、心配そうにしている私達の方に顔を向けた時、王様から、またもやとんでもない発言が飛び出る。

「アダルシュ側からの出場者に関しては、こちらから決めさせてもらう」

 会場内がざわざわし始める。
 さすがにまともな人間はこの王族達が非常識なことを言っていることに気がついたんだろう。
 だけど、残念ながらそれを止める人間はいない。

「女性はリア、だったか。君だ」

 王様は人の群れの中から、私達の輪を見つけ出してリアを指さした。
 元々、リアはわかっていたことだから、あまり驚いた様子はない。

「男性の方だが、さて、誰にしようか。ユウヤ殿やユウマ殿ではこちらが不利になるやもしれんからな」

 なんて事いうんだ、この人!
 っていうか、王様だからなんでもかんでも許されるわけじゃないでしょ!
 
 私の後ろに立っていたラス様がなぜかため息を吐いたので、後ろを振り返ると、ラス様は顔を上げて、なぜか王様達がいる方向ににこりと笑顔を向けた。

「ラス様?」

 意味がわからなくて、名を呼んだその時だった。

「そこのお前! 私の妻を誘惑しようとしたな!!」

 王様が烈火のように怒り始めて、立ち上がってラス様の方を指さした。
 
「陛下、やめてください!」

 王妃様は慌てて止めにかかるけど、王様は聞き入れようとしない。

「その娘の相手はお前だ! 魔物にやられてしまえ!」

 王様の言葉を聞いたラス様は、頭を下げて、にやりと笑った。

「ちょろいな」
「ラス様、もしかしてわざと」

 リアの言葉にラス様は顔を上げて、今度は優しく微笑む。

「変な貴族を指名されるより、私の方がマシでしょう? 駄目元で王妃に声をかけておいて良かった」
「うっわ、こっえー。見かけないと思ってたら王妃にちょっかいかけてたんか」
「うるさい。ちょっかいじゃない。愛想を振りまいただけだ。もしもの時の保険だったんだよ」

 ラス様はユウマくんの向こう脛を蹴り飛ばした。

 それにしても、こんな国を隔てたワガママ、許していいもんなの?!
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