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35 まだまだ強くなれない

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 次の日の昼を食べ終えてから、ラス様の所へ向かうことにした。
 午前のレッスンのあと、リアに話したい気持ちでいっぱいだったけど、知ったら私みたいに心配するだろうと思って止めておいた。
 城へ向かう途中の小道を歩いていると、休憩時間なのか、噴水近くのベンチで昼食をとりながら話をしている、メイドさんらしき三人の姿が見えた。
 ちょうど私に背を向けているから、挨拶はせずに通り過ぎようとしたところ、彼女達の話が耳に入ってきた。

「あの女のせいでしょ、ほんと、迷惑だわ」
「ラス様も大変だったわね」
「それを言ったらユウヤ殿下もだわ。それに二人が婚約者だなんて、あんなの二股じゃない!」

 どうやら、私の悪口で花が咲いているようだ。
 つい、立ち聞きは悪いと思いながらも、ついつい足を止めて聞いてしまう。

 それにしても二股か……。
 そう思われても仕方ないけど。
 というか、やっぱり二股かけてる事になるの?!
 うう。
 言い訳かもしれないけど、アレンくんのあんなお願いがなければ、私はここまでこじらせてなかったよ。
 ただ、今よりかはラス様とはぎくしゃくしてたかもしれないけど・・・。

「事情があるんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、そのせいでラス様は命を狙われたんでしょ?」

 ん?
 どういう事?

「どういう事?」

 事情があるんじゃないか、と言ってくれた人が、まるで私の代わりのように聞き返すと、一人が答えた。

「朝に紙が置いてあったらしいわ。婚約者の件からは手を引けって」
「そういえば、あの噂って本当なの? だから、二股かけても誰にも文句言われないの?」
「ちょっと言い方が悪いわよ」
「だって、ユウヤ殿下とラス様よ!」
「あなたはそれが羨ましいだけじゃない」

 庇ってくれている人をありがたく思いつつ、私は止めていた歩みを開始する。

 昨日のユウマくんの言ってた警告は、私の夫候補を辞退させたいがための事?
 だから、ラス様が狙われたの?
 私のせいなの?

 心臓がどくどくと早鐘を打つ。
 胸が苦しくなって、呼吸がうまく出来なくなってきた時だった。

「そろそろ来るかと思ってましたが、……どうしました? 顔色が悪いですよ」
「………ラス様」

 城の出入り口よりも少し手前のところで、ちょうど良いタイミングで、ラス様が待ってくれていて、私の様子を見ると駆け寄ってきてくれた。

「昨日の血のせいですか?」
「違うんです」
「じゃあ、どうしました?」
「昨日のって、私のせいなんですか」
「なんの話でしょう?」
「ラス様があんな事になったのは私のせいなんですか?!」

 ラス様に聞いても意味がない事はわかってる。
 けど、聞かずにはいられなかった。
 否定してもらえるなんて思ってない。
 ただ、物事を簡単に考えて、自分のことしか見えていなかった自分が本当に嫌になっただけ。
 ラス様は軽くため息を吐くと、落ち着かせるように私を抱きしめてくれた。

「落ち着いてください。ほら、ちゃんと息を吸って」
 
 ぽんぽんと私の頭に当てた手で撫でてくれる。

「どうしたら、いいんでしょう。私、ラス様に、返せるものもっ、ないしっ、ラス様の、身にっ、何かあっても、いや、なんですっ。やっぱり、ラス、様、以外、の人を選んだ方が良い、ん、でしょうか」
「今は話さなくていいですから、呼吸を整えてください」

 ラス様はそう言うと、息が荒くなって言葉がうまく話せない私の額に軽く口づけたあと、今度は背中を撫でてくれる。
 言われたように、息を吸って、それから大きく吐き出す。
 
「あなたが気にすることではないですよ。言い出したのはユウヤですし」
「でもっ、最終的に、頼んだのは、私です」
「それを受け入れたのは私ですよ。というか、私の顔を見るたびにそんな事になられると、会わないようにするしかなくなるんですが・・・」
「う・・・、ごめんなさい」

 背中を撫でてもらっていると、呼吸が少し落ち着いてきて、頭も冷静になってきた。

「こんな事やってるから、色々と言われるんですよね」
「俺は嬉しいけど」
「えっ?!」

 敬語じゃなくて、自分の事を俺なんて、私に対して言われたことがなかったから、どきりとして、声を上げるけど、ラス様は何もなかったかのように話題を変えた。

「誰かに何か言われましたか?」
「言いつけたみたいになるから言いません」
「言われたのは確かなんですね」
「ああ・・・・・」

 なんで、私はこうバカ正直なの!!
 思わず、ラス様の服を握りしめてしまう。 

「いや、でも言われたことは間違ってませんから。どうせ、そうするならそうするで、言われてもいいんだ、って思うくらいの覚悟が私には足りないんですよ」
「それは・・・・って、あ」

 ラス様が言葉を止めて、私が元来た道の方を向くから、私も顔を上げると、リアが両手を口元に当てて、驚きとにやつきが入り混じった顔で私達を見ている姿が見えた。

「リアさん、誤解ですよ」
「そ、そうだよ。ちょっと気分が悪くなって」
「え? 大丈夫なの?」

 気分が悪い、という言葉にリアが反応してくれ、心配そうにこちらに駆け寄ってくると、ラス様は私の頭に置いてない手を、リアの方に伸ばした。

「リアさんもいかがです?」
「え! いいんですか?!」
「どうぞ」

 私もリアに向かって片方の腕を伸ばすと、

「なんかわかんないけど、わーい!」

 リアが私とラス様に抱きついてきた。
 
 なんか変な状況になってしまった。
 けど、軽い過呼吸のような状態になっていた私の呼吸は、すでに正常なものへと変わっていた。

「リアさんはどうされたんですか?」
「呼び出されたんですよ。陛下に」
「「陛下に?!」」

 私とラス様の声が重なる。
 リアは頷くと、ここに来た理由を教えてくれた。

「ユーニにも来てほしいみたいだったし、一緒に行こうって思ってたら、その前に城に向かったって聞いたから、ユウヤくんかラス様のところかなって思って、とりあえず来てみたの」
「というか、私も呼ばれてるってことは」

 もしかして、あの件?
 ラス様の事件もあったわけだし、そうであってもおかしくない。

 そう思ったその時だった。

「ラスが見当たらねぇから探すのを言い訳に、迎えに行こうとしてたんだが、何やってんだオマエら」
「いやー、ラス様怖い!」

 ユウマくんが城内から現れ、私達を見つけるなり、鬼の形相で駆け寄ってきた。
 リアはふざけて余計にラス様に抱きつく。
 しかも、ユウマくんだけでなく、ユウヤくんもいて、

「ユーニからはなれろ」
「はいはい」

 怒った顔で言うものだから、ラス様は私とリアの頭を撫でたあと、ゆっくり離れた。

「なんでそんなに怒るのよ。やましい事なんてないんだけど!」
「そうですよ。リアさんは私と二人だけの時は絶対にこんな事しませんよ。誤解を招かないよう線引はされてます」

 ラス様の言葉が胸に刺さる。
 私、全然線引できてない!
 
「どうした?」

 ユウヤくんに不安な思いをさせてるんだから気をつけなきゃ、って思ってるのに、全然できてない。

 両頬をおさえた私をユウヤくんが不思議そうに覗き込んでくるので、とりあえず謝る。

「ごめんなさい! 無理かもしれないけど、気をつけるようにします!」
「は?」
「いや、そのこっちの話です」
「どうしたんだよ」
「なんでもない。それより、陛下からお話って?」

 わざわざ懺悔の内容を話さなくても良いかなと思い、大事な本題の話に戻すと、表情が焦ったものに変わり、喧嘩をしているリアとユウマくんの方に振り返った。

「呼ばれてるんだった、急いで行くぞ」
「ラスもだぞ」

 静かにこの場から去ろうとしていたラス様に、ユウマくんが冷たい口調で言う。

「病み上がりなんですけどね」
「え? ラス様、体調悪かったんですか?」
「いえ、なんでもないです」

 体調不良で逃げようとしたみたいだけど、事情を知らないリアが心配そうにするものだから、ラス様はしょうがなくその言い訳を諦めたようだった。
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