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21 駄目ですよね

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 レッスン後、昼食をリアと食べながら、朝のジンさんとの話を憧れている人の部分だけ除いて話すと。

「なんか、えらくこじらせちゃったわね」
「うん。ある意味、ジンさんがラス様みたいな性格だったら、ミランダ様の態度も理解できたのかもしれないけど」
「でも、それならミランダ様はジンさんを好きになってないでしょ」
「そっか」

 きっぱりと言われて、頷くしかない。

 なんか、いいアイデアはないものか。

「ミランダ様の本当の気持ちを、ジンさんが知ったとしたら、少しは意識したりするのかな?」

 サンドイッチを咀嚼したあと、リアに尋ねる。

「そりゃあするんじゃない? ジンさん自身がミランダ様を嫌ってるならまだしも、自分は嫌われてると思ってるだけで、最初から、そういう対象に入れてないだけだろうし」
「そっか。恋愛対象になってないだけか」
「ミランダ様のあのあがり症をなんとか出来ればいいんだけど」

 リアがテーブルに頬杖をついて言うので答える。

「簡単になおせたら、ここまでこじらせないでしょ」
「だよね。でも、ラス様はどうするつもりなんだろ」
「何が?」
「ジンさんの婚約者をミランダ様に上手く戻せるのかな」

 前途多難だな。
 リアの言葉に対し、どう返すか悩んでいると、彼女も私と同じように感じたのか、

「道のりは遠そうね」

 呟くように言った。





 午後からはレッスンがないので、リアと一緒にラス様のところへ行こうとしたけど、リアはリアで見せたいものがあるらしく、先に行くように言われたので、自分宛ての例の手紙を持って、在室しているであろう、彼の執務室に向かった。

「あ、今日はラス様はお休みですよ」

 事務官の人に止められたけど、笑顔で答える。

「そうなんですね。じゃあ、ソファを借りて、お昼寝させてもらいます」
「えっ?」

 昼寝なら部屋で、と言いたそうな顔をされたけど、これでも王子の婚約者なので、やはり口には出せなかったらしく、罰の悪そうな顔で私が部屋に近づいていくのを見守っている。
 が、執務室の中で音が聞こえ、足音が近づいてくるのがわかった。

 鍵を締められる!

 そう感じて、慌ててドアを開ける。
 と、やはりラス様が鍵をかけようとして近づいてきていたところで、勢い良く部屋に入った私とぶつかった。

「ひゃっ!」
「っ!」

 ラス様が私を受け止めてくれて、体勢を安定させようとしてくれたのか、腰に腕を回して、私の顔を覗き込む。

「何をしてるんですか」
「ラス様こそ、鍵を締めようとしないで下さいよ」
「今日は休みを取れ、と言われてるのに、いるのがバレたら面倒でしょう」
「ユウヤくんには言いませんから」
「しょうがないですね」

 ラス様の腕におさまったまま話をしていたせいか、事務官の人が立ち尽くして凝視してきたので、ラス様が呆れた声で、

「やましい事はありませんから」

 そう告げたあと、私を部屋に残したまま、ばたんと扉を閉めた。
 邪魔じゃない、と言われたようでホッとする。

「ラス様、ちゃんと休んでます?」
「寝てはいますよ」
「そんなのは当たり前です!」

 ラス様の背中を追いかけて、奥にある執務机に向かう。
 なんでこう、仕事で身を削ろうとするんだろう。
 体調が心配、っていうか、言っても聞かないなら、回復魔法でもかけちゃう?
 あ、それだと、また仕事しちゃうか。

 そんな事を考えているうちに、ラス様は仕事を再開してしまった。

「ラスさまー」

 隣に立ち、名前を呼んでみたけど無視される。

「ラスさま、カッコいい。頭いい。優しい。

 言いかけて何とか止められた。

 好きなのは間違いない。
 でも、これは私が言っていい発言じゃない気がする。

 ラス様は大きくため息を吐いてから、椅子を動かし、身体をこちらに向けると、私の腕をつかんで自分の方に引き寄せた。

「ラ、ラス様」

 背中に腕がまわされ、前のめりになる状態で抱きしめられた。
 鼓動が早くなる。
 本当は振り払わないといけないのかもしれない。
 でも、なぜか動けなかった。

「少しだけ」

 ラス様が小さく呟く。

 この状態が不思議と嫌ではなくて、腕は抱きしめ返さないけれど、彼の肩に顔を預ける。

「ありがとうございます」

 腕が放され立ち上がった私を見上げて、ラス様は疲れた表情のまま続ける。

「少し楽になりました」

 私がユウヤくんの腕の中にいると、すごくホッとするのと一緒なのかな?

 ラス様を抱きしめてあげたい気持ちになるけど。
 駄目だよね。

「ユーニさん?」
「は、はい」
「迷惑でしたか」
「え?! な、なんでですか?」
「ぼんやりしてるからです」

 ぼんやりって!

「ラス様の事を考えてたんですよ」
「へえ?」
「意地悪です!」

 意地悪な笑みを浮かべるラス様にそう言った時、扉がノックされ、返事を確認してからリアが入ってきた。

「あれ、お邪魔でした?」
「私はリアさんにお会い出来て嬉しいですよ」
「私もです! ラス様、好きです~」

 リアは駆け寄るなり、椅子に座っているラス様の頭を、自分の胸に引き寄せた。

 リアがやると自然なのはなんでなんだろう?

「リ、リアさん!」
「ラス様、お顔がお疲れですよ。私の胸でお休みになって!」
「永遠の眠りにつかないといけなくなる可能性がありますので、ご遠慮しておきます」
「大丈夫! そんな人を好きにはなりませんから、嫌いになることはあっても!」

 リアはラス様の頭を優しくなでながら言う。

「リアは自信があっていいなあ」
「何が?」
「ユウマくんはリアが止めるなら、そんな事はしないって思ってるんだよね?」
「そういう訳じゃないよ。ユウマくんがラス様を殺す訳ないって思ってるだけ」
「そう言われたら、ユウヤくんもそうか」

 なんだかんだ言って、二人はラス様に懐いてるもんなあ。

「色々と負い目があるんでしょう」
「どういう事ですか?」
「なんでもないです。だからリアさん、もう大丈夫です」

 珍しくラス様が焦っている。

 まあ、それはそうか。
 片方だけとはいえ、リアの胸が顔に当たってる訳だし。

「うふふ。本当に休みなのに仕事されてるんですね!」

 リアは執務机の脇に立ち、ラス様の顔を覗き込む。

「サナトラに行った分の仕事がたまってるんですよ」
「それは仕事をしていい理由にはなりません」

 言って、私から封筒3枚を受け取り、リアはバーベナ嬢からの手紙が入った封筒をちらつかせる。

「それは」

 ラス様が表情を変えて手を止めた。

「ね、気になるでしょ? お仕事やめましょうか」
「承知しました」

 ラス様は素直に書類を机の上に置き、他の書類と合わせて整えて立ち上がる。

「あちらで話をしましょう」

 ソファを手で示し、私達が座るのを確認すると、長くなりそうと思ったみたいで、城のメイドさんに一声かけて、お茶とお菓子を用意してくれた。

「本題に入る前に、いやに派手な封筒が目につくんですが」
「ああ、これですか」

 私達の向かいに座るなりラス様が言うので、リアが虹色の封筒を差し出すと、中身を見て眉間のシワが深くなった。

「ユウヤに見せましたか?」
「見せました」
「彼はなんと?」
「ミランダ様を誘って、行ってきたら、みたいな」

 私の言葉を聞いて、ラス様は立ち上がると部屋を出ていって、すぐに戻ってきた。

「どうかしました?」

 リアが聞くと、ラス様はイライラした様子で答えた。

「ユウヤを呼びました。なぜ、ここにいるかは、あなた方に呼び出された事にして下さい」
「どうして、ユウヤくんを?」
「それは本人の口から話させます」

 一体どういうことなのか、意味がわからず、リアと私は顔を見合わせた。
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