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2 兄弟だから似てるんですかね

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 陛下の言葉に、その場にいた全員が自分の耳を疑ったのか動きを止めてしまった。

 いやいや、どういう事ですか?!
 このままユウヤくんと結婚するなら、私はもう一人旦那様が必要になるって事?!

 ふと横のリアを見ると、ショックを受けたような顔をしている。

 まあ、それはそうだよね。
 もう一人、旦那さんが必要だなんて言われても困るよね。

 初耳だったのか王妃様までも動きを止めていたけれど、沈黙を破ったのも王妃様だった。

「それって、私もなのかしら?」
「いや。アレンの代、ユウヤとユウマの3人のみだ」
「そう。それなら良かったけれど、ユーニちゃんとリアちゃんが大変ね」

 王妃様が私とリアを気の毒そうに見つめてくる。
 その言葉と同時に男性陣が一斉にこちらに視線を向けた。

 え、やっぱり、そういう事ですよね。
 このままいけば、私とリアは旦那様をもう一人探さないといけない事になる。
 もしくは、ユウヤくんと結婚しないという選択肢も出てくるけど、それもなんか、その、嫌だし。

「そんなバカな事、認められるわけねぇだろ!」
「アレンの希望だ。まだ確定したわけじゃない」
「というか、アレンがリアちゃんを欲しいだけだろ! オレらは関係ねぇじゃねぇか!」
「うるさい。だから相談したいと言っただろう」

 ユウヤくんが敬語を忘れて陛下に食ってかかると、そのまま公衆の面前で家族喧嘩を始めてしまった。

 これ、拒否権ないやつなの?
 正直、アレンくんはユウヤくんが言うとおり、リアと結婚したいだけじゃない?
 
 ふと横を見ると、リアの表情がかたまっていて、心配になり名を呼ぶ。

「リア」
「ごめんね、ユーニ」
「え?」
「こんな事になるなんて思ってなかった」

 リアが私の腕をつかんで今にも泣き出しそうな顔で言った。

「リアは悪くないよ! なんでそんな事!」
「私がアレンくんに褒美の事、何も考えずに了承してしまったから」
「それは・・・・・」
 
 アレンくんはリアに一目惚れし、彼女にその場で告白してアプローチを続けていたけど、ユウマくんとの婚約が決定した時に、リアは彼にお断りの返事をはっきりしたらしい。
 けれどアレンくんは、もう少し返事を待ってほしいとリアに頼み、彼女もそれを了承してしまった。
 その時の話の事を言ってるんだと思う。

 けど、それはリアのせいじゃない。
 もちろん、はっきり断るべきだった、っていう考えもあるかもしれないけど、誰かに好きになってもらって嬉しい気持ちも大事だし、誰かを思い続ける事だって、いきすぎなければ悪いことじゃない。

 まあ、今回はいきすぎてるかもだけど。

「リア」

 ユウマくんがリアの元へ来ると、

「私、やっぱり」

 彼女は何か言おうとして口を開いた。

「言うな」

 ユウマくんは悲しそうな顔をして、リアを引き寄せると抱きしめた。

 う、うわああ!
 何、この展開!
 
 見てはいけないかも、と思い、両手で顔を覆うけど、やはり気になって指の間から見てしまう。
 だけど、そんなよこしまな気持ちはすぐに吹っ飛んだ。

 いつも強気で明るくて、私に何かあったら守ってくれたリアの身体が震えていた。

 リアは私やユウヤくんに迷惑をかけたと思ってる。
 それなのに私は・・・・・。

「リア、大丈夫だよ」

 彼女の名を呼んで近づくと、ユウマくんが腕をはなし、リアがこちらを向いた。

「私は大丈夫。だってリアと同じだもん。逆に私はリアだけが辛い思いするんじゃなくて良かったよ」

 リアは私の言葉を聞くと抱きついてきた。

「ありがとう。でもごめんね」
「許す」

 私は笑ってリアの背中を優しく撫でる。
 すると、私達の様子に気がついたユウヤくんが、陛下との喧嘩を止めてやって来ると、リアの頭を撫でた。

「ごめん。配慮が足りなかった。リアちゃんは悪くねぇのに」
「ううん。そんな事言ったらユウヤくんだって悪くないよ」
「巻き込んでごめんな」
「ユウヤくんが謝る事じゃないでしょ」

 リアは私から放れると、ユウヤくんにいつもの明るい笑顔で言った。

「らしくなかったよね」
「しょうがねぇよ」
 
 二人を見守っていたら、横からユウマくんが私の頭を撫でてくれた。

「ありがとな」
「どういたしまして!」

 たぶんリアはあの時、婚約解消を言い出そうとしてたと思う。
 そうすれば、アレンくんが案を撤回する可能性があったから。
 ユウマくんはそれに気付いて止めにかかった。
 貴族の前で婚約解消発言なんてしたら、その場のノリでは許されなくなる可能性も、って。

 今、めちゃくちゃ人がいますね。
 めちゃくちゃ視線を感じる。
 
「ふふ。ありがとうユーニちゃん。もう少しで可愛いお嫁さんが一人逃げちゃうところだったわ」
 
 王妃様が場を和ますかのように優しい声音で声をかけてくれた。

「あの、いいですか!」

 空気が穏やかになりそうだった、その時、空気が読めない奴が現れた。
 さっき、私を鼻で笑った男だ。

「僕、立候補したいです」

 はーい、と言わんばかりに呑気に手を挙げる紺色の髪を持つ男は、ヘラヘラ笑いながら言った。

 それと同時に、場の空気が凍りついた。

「忘れてくれ!」

 空気読めない男と一緒にいた、さっきの中年男性が間髪入れずに叫ぶ。

「うちの愚息が申し訳ない」
「なんで父さんが謝るんですか。僕が殿下の妃を嫁にできたら、うちの家はもっと」
「それ以上、何も話すな!」

 いやいや、お兄さん。
 どこのどなたか存じませんが、言おうとしていたそれ、言ったらだめなやつでは?
 自分の家の勢力を増したいなんて、こんな所でよく言えるな。

 私が思うのだから、他の人も思わないわけがない。
 この場にいる全員に睨まれたせいか、バカ息子は口を尖らせながらも引き下がった。

「あの人、誰なの?」

 ユウヤくんに近付き、そう尋ねた時だった。
 陛下のもとに側近の人が駆け寄り、何か耳打ちするのが見えた。
 陛下は頷くと、私達の方を見て言う。

「アレンが帰ってきたようだ。先程の話については、明日に再度改めて話す事にする」

 そう言い残し、陛下は足早に去っていく。
 王妃様もやはり息子が無事に帰ってきたのが嬉しいらしく、満面の笑みで陛下を追っていってしまった。
 残された公爵達もここにいても意味がないので、私達に頭を下げてから部屋を出ていく。
 最後に、私達4人が残された。

「アレンくん、一体何を考えてるんだろ」

 呟くと、ユウヤくんが眉間にシワを寄せて答える。

「ここまでリアちゃんに執着するとはな」
「・・・・・そっかあ」

 執着、その言葉を聞いて、私とリアはそろって納得の声を上げた。

「なんだよ?」
「アレンくんって、ユウヤくんとユウマくんの兄弟なんだよね」
「そうだけど」
「母親は違うけどな」

 私の言葉に二人は律儀に答えてくれたけど、そこが問題なんですよ。
 ユウヤくんもユウマくんも。
 私とリアに対する執着が強すぎる。

「たとえば、私とリアが他の誰かを好きになったらどうする?」
「オレをもっかい好きになるまでとじこめる」
「それ!!」

 見事に兄弟で声をそろえて答えてくれたので、私もリアと声を合わせて続ける。

「アレンくんもやり方が違うだけで同じような事しようとしてる!!」
「あ」

 これ、ユウヤくんかユウマくんがアレンくんの立場だったとしても、結局同じような事になってる気がする。

「とりあえず、アレンくんに会いにいくわ。どうにか諦めてくれないか話をしてみる」
「オレも行く」
「ありがと。ユーニ、また後で部屋に行っていい?」
「うん! 待ってる」

 私が頷くと、リアはユウマくんと共に部屋から出ていく。

「私達は今日は部屋に戻る?」

 二人を見送ってから、もうすぐ夕食の時間だから、と思い話しかけると、

「話したい事もあるし、ちょっといいか?」

 ユウヤくんにそう言われ、特に何も予定がないので頷く。

「うん。でも、話したい事って?」
「アレンが撤回しなかった時の事を考えねぇと」
「撤回しなかった時の話?」

 聞き返すと、ユウヤくんは渋面をして言った。

「オレ達が結婚したら、オマエは他の男とも結婚しなきゃならないだろ」

 悲しそうな表情で、私の頬に触れると続ける。

「フリかもしれねぇけど、他の男とオマエがなんて考えられねぇ」
「私もだよ」

 私の頬に触れている手に両手を重ねて頷く。
 ユウヤくん以外の人とどうこうなるなんて、今まで考えた事がなかった。

「でも、どうしてもって場合、信用できる奴が一人だけいる」

 ユウヤくんが誰のことを言っているか、すぐにわかった。
 
「あの人の事を言ってる?」
「それしかないだろ」
「でも」
「とりあえず、夕飯になりそうなものを見繕って、あいつの仕事部屋行くか。アレンが帰ってきたならあいつも帰ってるだろうし、仕事人間だから仕事部屋に顔出すだろ」

 ユウヤくんは不満そうにしている私の頬にキスをすると、手を握る。
 私は無言で頷いて、彼と一緒に歩き出した。

 私とユウヤくんが頭の中に浮かべた相手は、今回、アレンくんと一緒に戦地に赴いたもう一人であり、次期公爵である、

 ラス・イッシュバルド。

 彼は、約2ヶ月前、私に告白してくれ、その思いを忘れようとしてくれている人だ。
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