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22 ○○○になりたい子爵令息

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 その後、お父様は慌ててわたしに謝ると、このまま、お店で頑張って働くことを誓った。
 わたしが過去のことを許すことなんてありえない。
 だけど、人のためになることをするというのなら、いつか許してもらえるのだと思わせておくことにした。

 私にしてみれば、許してもらえると思っていることが不思議でしょうがない。

 しばらくすると、元貴族が接客してくれるカフェがあるということで有名になり、お母様たちが働いているカフェも含めて人気店になった。

 お姉様は顔が可愛らしいこともあって、冷たくあしらわれる接客を楽しめる人に人気で、特に男性の客が多いらしい。
 フサス様に婚約破棄されてしまい、お嫁にもらってくれる人がいなくなったのだから、運が良ければ、その中にいるお客様と結婚できるかもしれない。
 と思ったけれど、お姉様の性格上、難しいでしょうね。

 お母様は昔の知り合いが店に訪ねてきたことでショックを受け、今は皿洗いと調理場の掃除の仕事だけしているという。

 お兄様はわたしに認められようと必死で、今は働きながら料理人になろうとしていると聞いた。

 お父様たちの目的は相変わらずで、いつかわたしに許してもらって公爵邸に住み、贅沢な暮らしをすることだ。

 そんな夢は叶わない。
 でも、そう思わせておくことで真面目に働くのならそれで良いし、馬鹿にしていた人たちをそうじゃないと思える日もいつか来るかもしれない。

 メリットが多いように見えるけど、店の利益が一部とはいえ、ミンステッド伯爵家に入るのは良い気分ではなかった。
 でも、お店が繁盛すれば働いている人たちの給料も上がり、材料をおろしている人たちの売上にも繋がるので良いと思うことにした。

 店が繁盛したおかげでミンステッド卿がお店で平民を差別するような発言をしていたことが、より多くの人に伝わり、貴族の屋敷で働いている使用人たちからミンステッド伯爵夫妻の耳にも届けられた。

 今までは息子を自由にしていた伯爵夫妻だったけれど黙っていられなくなり、お詫びをしたいと家族揃って、わたしにコンタクトを取ろうとしてきた。

 公爵夫人としての仕事もあり、個人的に会う時間は取れなかったし、取りたくもなかったので、ミンステッド家のことは徐々に忘れ始めていた。
 


******


 レイ様の仕事が落ち着いてきたある日、わたしたちは、ルモ公爵が開く夜会に出席した。
 今までは忙しくて夜会には出席していなかった。
 でも、ルモ公爵にはお世話になっているので参加しないわけにはいかなかった。

 ルモ公爵邸に向かう馬車の中で、隣に座るレイ様に話しかける。

「久しぶりの夜会なので緊張します」
「緊張している暇がないくらいに今日は忙しくなると思うぞ」
「……どうしてですか?」
「今まで君に酷い態度を取っていた人間は君に謝りたくてしょうがないだろうからな」
「謝られても嬉しくないんですけど」

 眉根を寄せると、レイ様は子供をあやすようにわたしの頬を撫でる。

「別に許す必要はない。だから、無理して笑う必要もないからな」
「ありがとうございます」

 レイ様は今日も顔面が良い。
 いや、姿だけでなく性格も声も良いので、わたしにとってはレイ様の全てが良いと言うべきだろうか。

 レイ様を見つめていると、照れているのか優しく微笑んでくれる。

「そういえば、シルバートレイで父親を殴ったらしいな」
「ど、どうしてそれを知ってるんですか!」

 そのことを知ったら絶対に笑われる。
 そう思ったので、ティアトレイを友人がプレゼントしてくれたとしか、わたしからは伝えていなかった。

「リウの侍女から聞いた。リウがシルバートレイをとても気に入って、毎日素振りをしていると教えてくれたんだ。その時に武勇伝も話してくれた」

 侍女にはあの時のことを口止めしていなかった。
 だから、わたしが悪い。

 口止めされていないんだから、公爵であり、わたしの旦那様に質問されたら答えるのが普通だもの。

 それに侍女はあの時のことを、心から褒めてくれているのだから余計にだ。

「……毎日素振りって」

 レイ様の笑いのツボにはまってしまったのか、しばらくの間笑われてしまった。

 少しだけ嫌な気分にもなったけれど、レイ様が笑ってくれるなら、それはそれで良いと思ってしまうのは惚れた弱みというやつなのだろうか。



*****



 レイ様が予想していた通り、パーティーが始まる前から、わたしたちの所には挨拶に訪れる人が後を絶たなかった。

 平民と仲良くするという考えを以前から素敵だと思っていたなどと、明らかな嘘をつかれると余計に嫌な気分になった。

 順番待ちのように列ができ、一人ひとりに挨拶していると、わたしたちの前にフサス様が現れた。

「あの、リウ様、本当に申し訳ございませんでした」

 フサス様は深々と頭を下げたかと思うと、すぐに顔を上げて叫んだ。

「ファーシバル公爵夫妻にお願いがあります! 俺を……、いや、私をペットとして飼っていただけないでしょうか!」
「飼うわけないだろ」
「嫌よ」

 そう答えた時、今日のパーティーに一緒に出席していた侍女から、ティアトレイを手渡されたので、何も考えることなくフサス様のお腹を突いた。

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