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19 家族ではありません①
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お父様のことは先生に任せて、騎士と共に馬車へと急いだ。
すると、馬車を待たせている裏口の扉の前にお母様の姿が見えて足を止めた。
「ああ! 私の可愛いリウ!」
お母様はわたしと目が合うと、甲高い声で叫んで駆け寄ってくる。
可愛いリウとか言われても嬉しいどころか気持ちが悪い。
わたしが逃げようとする前に騎士がガードしてくれて、お母様に話しかけた。
「マダム、申し訳ございません。あなたはリウ様に近づくことはできません」
「どうしてよ! 私はリウの母親なんですよ! 近づくなだなんて言われる理由はありません!」
「わたくし共の主人からの命令です。ご了承ください」
「そ、そんな! まだ、結婚もしていないのに娘を縛り付けると言うの!? わたしはこんなに娘を愛しているというのに!」
両手で顔を覆ってお母様は泣き始めた。
悲劇のヒロインになったつもりかしら。
こうなったら、お望み通りにしてあげましょう。
ヒロインかどうかはわからないけど、悲劇のお母様くらいにはしてあげられるわ。
笑顔を作り、鳴き真似を続けているお母様に話しかける。
「お母様、わたしはもうあなたと関わり合いたくないんです。大体、縁を切ると言い出したのはそちらでしょう」
「悪かったわ! 謝るわよ! しょうがないじゃないの! あの時は気が動転していたのよ!」
「しょうがないという言葉は謝ったとは言わないと思いますけどね」
「こんなところでは謝れないわ。ファーシバル公爵邸に入れて頂戴。公爵邸には客室がたくさんあるでしょう?」
「謝ってもらわなくて良いので、公爵邸には入れません。では、帰ります。さようなら」
騎士に任せて歩き出すと、お母様は叫び始める。
「この薄情者! そんな娘に育てた覚えはないわ! あなたのせいで私たちがどれだけ苦労してきたかわかっていないのでしょう!? 私たちを助けなかったら、リウの悪い噂をばら撒いてやるわよ!」
「そんな娘に育てた覚えはないのですか。では、わたしはあなたの娘ではないのでしょうね」
足を止めてお母様に微笑みかけたあと、騎士に話しかける。
「母だと思っていたから我慢していたけれど、彼女はわたしの母ではないみたい。彼女の夫が銀行に迷惑をかけているから、すぐに警察が来て彼は捕まるでしょう。その時にここにいる彼女も一緒に捕まえてもらって」
「承知いたしました」
「ちょ、ちょっと待って! どうして私が捕まらないといけないの!?」
「悪い噂をばら撒くと言って、わたしを脅しましたよね」
お母様は焦った顔になり、逃げ場を探すようにあたりを見回す。
騎士がわざと逃げやすい場所を作ると、その場所に目を向けたお母様の動きが止まった。
「私は何もしていないわ。誤解よ。そうだわ。主人のところへ行かなくちゃ」
案の定、お母様はわざと騎士が作った隙間に走っていったけれど、それは予想していたことなので、お母様はすぐに騎士に取り押さえられた。
「ど、どうしてこんなことをするの!? こんな仕打ちは酷いじゃないの! リウ、助けて! あなたは私たちと違って優しいのでしょう!? こんなことをしてはいけないわ!」
「あなたにそんなことで説教されるとは思っていませんでした」
「リウ! リウちゃん! 一度だけ! 一度だけで良いから助けて! 借金を返済できなかったら、デッスンが売られてしまうのよ!」
お兄様を担保に、良くない所からお金を借りたのね。
テングット家のお金を盗んだのは借金の返済に当てるためだったのかしら。
レイ様はそのことも調べると言っていたし、早く帰って確認しましょう。
調べた結果がそうだったとしたら、この件で悪い人たちを捕まえることができてちょうど良いかもしれない。
「わたしはあなた方とは赤の他人ですので、デッスン様がどうなっても悲しいニュースを聞いたくらいにしか思いません」
冷たく言い放つと、御者が馬車の扉を開けてくれたので中に乗り込んだ。
*****
レイ様に確認してもらった結果、お兄様は闇金業者に捕まっていた。
もし、約束の時間内にお金が返せなければ、体の一部を売らなければならなかったらしい。
ローラム王国は医療が発達していないので、体の一部を売るだけで死に直結するから、売られるのは一部だけではなかったかもしれない。
レイ様が介入してくれたことにより、裏世界の業者は捕まり、お兄様は助かった。
でも、この件でネイロス家の評判は一気に落ちた。
「結婚の届けは、すぐにでも出したほうが良いみたいだ。国王陛下からいつになるか確認が来た」
「結婚式も新婚旅行もなくてもかまいません。レイ様が迷惑でなければ、わたしを妻にしてくれますか」
「迷惑なんかじゃないよ」
レイ様は微笑んで、優しく頭を撫でてくれた。
わたしももう大人なのに、レイ様はまだ子供扱いするんですね、と文句を言いたいけど、こういうところも子供なんだろうと反省する。
公爵夫人になったら、そんなことを考えている暇なんてない。
気を引き締めなくちゃ。
「お父様とお母様は警察に捕まって拘置所にいるみたいですが、お兄様は今はどうしているんでしょうか」
「婚約者の家に行ったと聞いてる。それからまだ動きがあったという報告はない」
「そうでした。お兄様は婚約者がいたんでしたね。そういえば、お兄様の婚約者のメイ様はお兄様が女性と遊んでいたことを知っているのでしょうか」
「教えてあげることにしようか」
「そうですわね。婚約者ということは、いつか結婚するかもしれませんし、お兄様がどんな方か教えるのは相手のためになりますもの」
早速、わたしはメイ様に手紙を書いた。
ファーシバル公爵邸からメイ様の家であるルールー子爵家はそう離れていないので、すぐに返事が届いた。
そこにはわたしへのお礼の言葉や、浮気を理由にお兄様との婚約は破棄させてもらい、彼を家から追い出したと書かれていた。
すると、馬車を待たせている裏口の扉の前にお母様の姿が見えて足を止めた。
「ああ! 私の可愛いリウ!」
お母様はわたしと目が合うと、甲高い声で叫んで駆け寄ってくる。
可愛いリウとか言われても嬉しいどころか気持ちが悪い。
わたしが逃げようとする前に騎士がガードしてくれて、お母様に話しかけた。
「マダム、申し訳ございません。あなたはリウ様に近づくことはできません」
「どうしてよ! 私はリウの母親なんですよ! 近づくなだなんて言われる理由はありません!」
「わたくし共の主人からの命令です。ご了承ください」
「そ、そんな! まだ、結婚もしていないのに娘を縛り付けると言うの!? わたしはこんなに娘を愛しているというのに!」
両手で顔を覆ってお母様は泣き始めた。
悲劇のヒロインになったつもりかしら。
こうなったら、お望み通りにしてあげましょう。
ヒロインかどうかはわからないけど、悲劇のお母様くらいにはしてあげられるわ。
笑顔を作り、鳴き真似を続けているお母様に話しかける。
「お母様、わたしはもうあなたと関わり合いたくないんです。大体、縁を切ると言い出したのはそちらでしょう」
「悪かったわ! 謝るわよ! しょうがないじゃないの! あの時は気が動転していたのよ!」
「しょうがないという言葉は謝ったとは言わないと思いますけどね」
「こんなところでは謝れないわ。ファーシバル公爵邸に入れて頂戴。公爵邸には客室がたくさんあるでしょう?」
「謝ってもらわなくて良いので、公爵邸には入れません。では、帰ります。さようなら」
騎士に任せて歩き出すと、お母様は叫び始める。
「この薄情者! そんな娘に育てた覚えはないわ! あなたのせいで私たちがどれだけ苦労してきたかわかっていないのでしょう!? 私たちを助けなかったら、リウの悪い噂をばら撒いてやるわよ!」
「そんな娘に育てた覚えはないのですか。では、わたしはあなたの娘ではないのでしょうね」
足を止めてお母様に微笑みかけたあと、騎士に話しかける。
「母だと思っていたから我慢していたけれど、彼女はわたしの母ではないみたい。彼女の夫が銀行に迷惑をかけているから、すぐに警察が来て彼は捕まるでしょう。その時にここにいる彼女も一緒に捕まえてもらって」
「承知いたしました」
「ちょ、ちょっと待って! どうして私が捕まらないといけないの!?」
「悪い噂をばら撒くと言って、わたしを脅しましたよね」
お母様は焦った顔になり、逃げ場を探すようにあたりを見回す。
騎士がわざと逃げやすい場所を作ると、その場所に目を向けたお母様の動きが止まった。
「私は何もしていないわ。誤解よ。そうだわ。主人のところへ行かなくちゃ」
案の定、お母様はわざと騎士が作った隙間に走っていったけれど、それは予想していたことなので、お母様はすぐに騎士に取り押さえられた。
「ど、どうしてこんなことをするの!? こんな仕打ちは酷いじゃないの! リウ、助けて! あなたは私たちと違って優しいのでしょう!? こんなことをしてはいけないわ!」
「あなたにそんなことで説教されるとは思っていませんでした」
「リウ! リウちゃん! 一度だけ! 一度だけで良いから助けて! 借金を返済できなかったら、デッスンが売られてしまうのよ!」
お兄様を担保に、良くない所からお金を借りたのね。
テングット家のお金を盗んだのは借金の返済に当てるためだったのかしら。
レイ様はそのことも調べると言っていたし、早く帰って確認しましょう。
調べた結果がそうだったとしたら、この件で悪い人たちを捕まえることができてちょうど良いかもしれない。
「わたしはあなた方とは赤の他人ですので、デッスン様がどうなっても悲しいニュースを聞いたくらいにしか思いません」
冷たく言い放つと、御者が馬車の扉を開けてくれたので中に乗り込んだ。
*****
レイ様に確認してもらった結果、お兄様は闇金業者に捕まっていた。
もし、約束の時間内にお金が返せなければ、体の一部を売らなければならなかったらしい。
ローラム王国は医療が発達していないので、体の一部を売るだけで死に直結するから、売られるのは一部だけではなかったかもしれない。
レイ様が介入してくれたことにより、裏世界の業者は捕まり、お兄様は助かった。
でも、この件でネイロス家の評判は一気に落ちた。
「結婚の届けは、すぐにでも出したほうが良いみたいだ。国王陛下からいつになるか確認が来た」
「結婚式も新婚旅行もなくてもかまいません。レイ様が迷惑でなければ、わたしを妻にしてくれますか」
「迷惑なんかじゃないよ」
レイ様は微笑んで、優しく頭を撫でてくれた。
わたしももう大人なのに、レイ様はまだ子供扱いするんですね、と文句を言いたいけど、こういうところも子供なんだろうと反省する。
公爵夫人になったら、そんなことを考えている暇なんてない。
気を引き締めなくちゃ。
「お父様とお母様は警察に捕まって拘置所にいるみたいですが、お兄様は今はどうしているんでしょうか」
「婚約者の家に行ったと聞いてる。それからまだ動きがあったという報告はない」
「そうでした。お兄様は婚約者がいたんでしたね。そういえば、お兄様の婚約者のメイ様はお兄様が女性と遊んでいたことを知っているのでしょうか」
「教えてあげることにしようか」
「そうですわね。婚約者ということは、いつか結婚するかもしれませんし、お兄様がどんな方か教えるのは相手のためになりますもの」
早速、わたしはメイ様に手紙を書いた。
ファーシバル公爵邸からメイ様の家であるルールー子爵家はそう離れていないので、すぐに返事が届いた。
そこにはわたしへのお礼の言葉や、浮気を理由にお兄様との婚約は破棄させてもらい、彼を家から追い出したと書かれていた。
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