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16 可愛くないですからね!

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 アリスさんに連絡をとってみると、一般的に知られていることなら教えてもいいけど、好きな食べ物などは教えないでほしいと言われてしまいました。
 なぜなら、大量に送られてきたら迷惑だから。
 という理由で。
 ランドン辺境伯の事ですから、考えもなしにたくさん送りつける可能性がありますものね。
 アリスさん曰く、好きなものでも一度に多くは食べれないらしいです。
 限度があるというのもわからます。
 捨ててしまうのも、もったいないですし。

 そして、夜会当日は、アリスさんのおかげなのか、私に対する嫌がらせは全くなく、先日のパーティーで、私の足を踏んできた令嬢も、私の顔を見るなり駆け寄ってきて謝ってくれました。

 本当に悪いと思っているのかは不明ですが…。

「アリスさんは一体、何者なんでしょうか…」
「さあな。ただ、色々と事情があるらしいぞ。気になるなら本人に聞いてみればいい」
「ラルフ様は聞いておられるのですか?」
「俺はテツと彼の兄から聞いた」
「そうなのですね…」

 私が聞いてもいい話なのか、教えて下さるかもわかりませんが、今度、駄目元で聞いてみる事にしましょう。

「アリスのおかげで噂はだいぶマシになったし、俺も日々の仕事がしやすくなった。一時は、隣国の動きが激しくなって、そちらにかかりきりだったからな」
「そうだったのですね…」

 そんな事になっているなんて全く知りませんでした。
 だから、ラルフ様も余計にお忙しくしておられたのでしょうね。
 ラルフ様の信用度が落ちれば、領民の士気が下がるでしょうから、隣国はそれを思って、戦争を始めようとしたのかもしれません。
 ラルフ様の誹謗中傷をするという事だけで腹が立つところですのに、国民が巻き込まれそうになっていたと考えると、余計に腹が立ちます。

「絶対に許せないのです。もし噂が今の様におさまっていなければ、失われなくてもいい命が失われてしまっていたかもしれないのですから!」
「そうだな。まあ、そうなった時はあいつ自身も命で償う必要はあるがな」
「ああいう方って戦場でも上手く逃げ回りそうではないのですか?」
「そうなった場合は、俺が事故に見せかけて」
「その先は聞かなくてもわかりますので大丈夫です」

 慌てて背伸びをして、ラルフ様の口を両手でおさえる。

 改めて見てみると、ラルフ様は黒のスーツがとてもお似合いで、いつもよりもカッコ良く見えます。
 もちろん、いつも素敵な事に変わりはないのですが。

「リノア、そんなに見つめられると、さすがに照れる」

 私の手を優しく握って、口からはなしながら、ラルフ様は優しい笑顔で言われたので、私も笑顔で言葉を返す。

「申し訳ございません。ついつい見惚れてしまったのです」
「…! リノアはそういう事は照れずに言えるんだな。お世辞でも嬉しいよ」 
「お世辞ではありません!」
「やれやれ、新しい恋を始めたとはいえ、傷心の俺の前でいちゃつくなんてひどい奴らだな」

 パーティー会場の端の方で話をしていると、ランドン辺境伯が現れました。
 性格や言動は残念な方ですが、見た目は良い方なので、見るだけなら良いのですが、出来れば話をしたくはありません。
 けれど、今日はしょうがないのです。
 それに、気になる事もあります。

「お久しぶりです。ランドン辺境伯様。髪をお切りになったのですね」

 以前、私が見た時の彼は、紺色の髪が肩までのびていたのですが、頭を丸く刈り上げておられ、貴族の男性では見たことのない頭になっておられます。

「アリスがすすめてくれたんだ。失恋や反省した時にわかりやすいパフォーマンスになると」
「パフォーマンスとかいって大丈夫なんですか?」
「アリスが言うんだから、間違いないだろう」

 なぜか誇らしそうに言うランドン辺境伯に呆れて、二の句が継げなくなり、思わずラルフ様と顔を見合わせる。

「本人が納得してるんならそれでいいんじゃないか」
「ラルフ様、もう面倒くさがってますね。良いですよ。アリスさんのお話は私がいたしますから」
「2人にさせるのは良くない」

 ラルフ様が難しい顔をして首を横に振られると、ランドン辺境伯が言います。

「安心しろよ、ラルフ。俺はお前の婚約者に手を出さないから。そんな事したら、俺へのアリスの評価が下がるだろうからな」
「もうすでにマイナスだとは思いますが…」
「俺もそう思う。まあ、これ以上下がらないように努力するという意味だろう」
「そうだ。それにマイナスから入った方が好感度が上がりやすいだろう?」

 また誇らしげに言うランドン辺境伯を冷たい目で見てしまいましたが、我に返って尋ねます。
 
「今日はユディット伯爵令嬢と一緒に来られたんですか?」
「ああ、そうだが」

 彼女の姿を探そうとしたのか、ランドン辺境伯が後ろを振り返り、人混みの中から彼女の姿を見つけて指さした時でした。
 目を細めないといけないくらいの距離でしたが、ピンク色のドレスに身を包んだユディット伯爵令嬢の向かいに立っている人物を見た時、思わず「えっ!」という声が出てしまい、すぐに口をおさえた。

 ちょっと待って下さい。
 私の視界に映ったのは、驚いた表情のユディット伯爵令嬢と、紫色のイブニングドレスに身を包んだ、今日は来ないはずの彼女でした。

「どうした、リノア」
「アリスさんが来てます」
「は?」

 ユディット伯爵令嬢から向かって右に指を向けると、ラルフ様も気が付いたのか、大きな息を吐かれました。
 アリスさんもこちらに気付かれたようで、笑顔で手を振りながら、人をかきわけてこちらに寄ってこられると、開口一番に言いました。

「来ちゃった」

 語尾にハートマークがつきそうな感じの可愛らしい表情と可愛い声で言われましたが、全然、可愛くないですからね!
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