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12 見守らねばいけません!

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「長い間、片思いしていた相手が自分を選ばずに、他の男と結婚したらしくて、それをウダウダと、相手の男より俺の方がとか言うから、相手を知らないけど、あんたよりはマシだと思うって言ってやったの」
「アリスさん、やっぱり優しくないのです」
「どうしてよ。慰めてあげてるのよ?」
「今の言葉は、慰めにはならないのでは!?」

 驚いて言うと、アリスさんは眉を寄せたあと、首を大きく横に傾けて言います。

「だから、相手の女性は幸せだからいいじゃないって意味だったんだけど」
「失礼しました。そこまで言われたのなら大丈夫ですね」
「言ってないわよ?」
「アリスさん!」

 うう。
 このままでは、話が前に進みません。
 黙って聞く事にしましょう。

「で、わんわん泣き始めたから、イライラして平手で頭を」
「暴力で解決しようとしてはいけません!」
「リノアって、ツッコミタイプね?」
「なんの話です!?」

 ああ。
 黙って聞こうと決めたはずなのに…。

「頭を殴って説教したら、君は俺に気があるな? って気持ち悪い事を言われたの」
「それはまあ、気持ち悪いですね…」

 心底嫌そうな顔をしているアリスさんに同情しながら頷く。

「だから、まだ酔っ払っているみたいね、って頭にもう一発入れたの。お腹に蹴りを入れたわけじゃないから、優しいと思わない?」
「え、えっと優しい…ですかね」
「それを何度か繰り返していく内に、君と話していたら、嫌な気分がなくなってきたって言い出して」
「え、殴られてるのに嫌な気分がなくなるんですか…」
「らしいわよ」

 人それぞれ好みはありますから、それに対して何か言ってはいけませんよね…。

「そうしている内に、人が来たから後は任せて帰ったんだけど、ユディット伯爵令嬢から謝罪の手紙をもらった次の日に、今度は苦情の手紙が来たのよ」
「どういう事です?」
「人の婚約者を誘惑するなって。誰があんな奴を誘惑なんてするのよ。ふざけないでほしいわ」

 アリスさんの表情がとても恐ろしくて、よっぽど不快な思いをされた事が伝わってきます。

「ランドン辺境伯は殴りながらも、慰めてくれたアリスさんに恋してしまったわけですね」
「そうなるのかしらね。一体、どこに恋する要素があったのかわからないけど」
「どんなタイプが好みかは人それぞれですし、ランドン辺境伯が昔好きだった方も気の強い方でしたよ」
「気が強ければ誰でもいいのかしら?」

 アリスさんが大きくため息を吐かれたあと続けられます。

「ここ最近、変な奴にばかり告白されてるの。1人なんとかなったと思ったら、また新たに出できたもんだから本当に迷惑だわ。だけど、ある意味、潰しやすくなったのは確かなのよね」
「どういう事です?」
「わざとラルフ様の事を褒めたくってみて、どんな反応するかを試せるじゃない。ああいうタイプは負けず嫌いだから、絶対に張り合おうとするだろうし、ランドンがデマを流してる張本人なら言質も取れてちょうどいいし」
「恋心を利用するようで、少し可哀想な気もしますが、ラルフ様の悪い噂を故意に流した罪を問う際の証拠にもなりますよね」
「魔道具を使って録音しておくから!」

 さっきまで嫌そうな顔をしていたのに、悪巧みを考えているからか、今のアリスさんの表情はキラキラしています。

「テツくんは苦労されておられるのでしょうね」
「あいつの場合はこんなの日常茶飯事だから。今となっては大人しい私の方が気持ちが悪いんじゃないかしら」
「テツくんに同情するのです」
「あら、ひどいわね。今から、リノアやラルフ様の為に頑張ろうと思ってるのに」
「…今から?」

  眉を寄せて聞き返すと、アリスさんはにんまりとした笑顔を浮かべて言われます。

「だって、私に会いにここに来てるんでしょ? なら、相手してあげなくちゃいけないわよね?」
「暴力はいけませんよ?」
「こんなにか弱い私が暴力なんてふるうわけないじゃない」
「明らかにさっきの話では暴力をふるわれてましたよ!?」

 両拳を握りしめて言う私の頭を、アリスさんは笑顔でなでて下さったあと言います。

「大丈夫。無茶はしないから」
「危ないことだけは止めてくださいね」
「心配してくれてありがと」
「心配するのは当たり前なのです」

 アリスさんは普通の令嬢では無茶だと思う事を普通にやってのけられてます。
 ですから、アリスさんにとっての無茶は、私の予想をこえてくるものだと思うので安心できません。
 アリスさん1人では危険ですし、テツくんと一緒にアリスさんを見守らねばいけません!

 
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