上 下
47 / 52

41 どうして、近付いてくるの?

しおりを挟む
 私が動きを止めてしまったからか、くうーんとメルちゃんが心配そうに鳴いた。

 スカディ様とレジーさんがどんな話をしているかなんて、メルちゃんにはわからないから、どうして私がここで立ち止まっているのかわからないものね。

「ごめんね。もう少しだけ待ってくれる?」

 メルちゃんとハヤテくんの頭を撫でて言うと、2匹共にお利口さんで、待つよと言わんばかりにお座りをしてくれた。

 スカディ様とレジーさんの会話を聞いてみる。

「ちゃ、ちゃんと責任を取れってどういうことかな?」
「普通の令嬢ならこんなことは言わないんでしょう? 私をこんな風にさせてしまった責任をとってほしいんです!」
「レジー、わかっているなら、どうして無茶ばかり言うんだよ」
「皆が甘やかすからじゃないですか! 私だって叱ってほしかったんです!」
「叱っていたじゃないか!」
「でも、許してくれていたじゃないですか!」
「じゃあ、許さなかったらいいのか!?」

 痴話喧嘩を聞いていても退屈ね。

 そう思った私は、2人をそのままにして立ち去ろうとした。
 すると、それに気が付いたスカディ殿下が叫ぶ。

「待ってくれ、ミレニア! 君はどっちの言い分が正しいと思う!?」
「……はい?」
「君も聞いていただろ? 僕の言い分とレジーの言い分、どちらが正しいか君が判断してくれ!」

 どうして私がそんなことを!?

 私が動揺しているからか、メルちゃんが「どうする? やっつける?」と言わんばかりに、片方の前足をちょいちょいと私の足に当てて見上げてきた。

 こればかりはメルちゃんにどうこうしてもらえるものじゃないわ。

 それにしても、どちらが悪いかと聞かれても、どっちもどっちの様な気がするわ。

「あのっ」

 わかってもらえないことを承知で言ってみることにする。

「どんな発言をしても不敬にはならないと約束していただけますでしょうか」
「暴言を吐いたりしなければ大丈夫だよ」

 スカディ様から許可が下りたので、言わせてもらうことにする。

「あの、一度、お二人共国に帰って、そのお話をなされば良いのではないでしょうか」
「は……?」

 私の発言に、スカディ様とレジーさんが声を揃えて聞き返してきた。

「く、国へ帰れですって!? 帰りたくないから、あなたに文句を言いに来たんじゃないの!」

 叫んだあと、レジーさんは我に返ったかのように続ける。

「そうよ! 私はあなたに文句を言いに来たんだったわ!」

 本来の目的を忘れていたみたいで、レジーさんは座り込んだまま両頬をおさえた。

 視線を感じて、ダイニングルームのほうを見ると、メイドたちがどうすれば良いのかわからないといった感じで私を見つめている。

 彼女たちはさすがに介入できないものね。

 私は一応、貴族だし、この屋敷の当主の婚約者だから良いとしても、スカディ様のような王族と話をするなんて、一般の人間ではありえないことだもの。

「バウ!」

 その時、しびれをきらしたハヤテくんが吠えた。

 メルちゃんは我慢強い子だけれど、ハヤテくんはワガママなところも多い。
 いつまで待てばいいの?
 という感じで私に「バウバウ!」と何度も吠えてくる。

「ごめんね、ハヤテくん」

 抱き上げると、満足したのか顔を舐めようとしてくるので、頭を撫でて落ち着かせた。

 すると、スカディ様がよろよろとこちらに近づいて来る。

 どうして、近付いてくるの?

「どういうことなんだよ、ミレニア、君は僕に国に帰ってほしいのか?」
「……そうですね。スカディ殿下は犬がお嫌いですし、この屋敷で過ごすのは大変かと思います。レジーさんはロード様に迷惑をかけていますので」
「私は迷惑なんてかけていないわ!」

 レジー様は叫びながら立ち上がり、私に向かってこようとした。
 でも、お座りしていたメルちゃんが立ち上がり威嚇する。

「何なのよ、このバカ犬は!」

 レジーさんはドレスの裾をまくりあげて、メルちゃんを蹴ろうとした。

「おやめ下さい!」

 私が叫んだと同時、メルちゃんは素早くレジーさんの足を避けて、噛みつこうとした。

「メル! やめろ!」

 声が聞こえて、メルちゃんはびくりと反応して動きを止めると、くるりと向きを変えて声のした方向に走っていく。

 振り返ると、そこには険しい表情をしたロード様が立っていた。
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...