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34 帰ってもらえますように

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 それからしばらくして、屋敷内での過ごし方について説明を終えたロード様が私の部屋にやって来た。

「あの、付き人の女性は一体何なのでしょうか。いくら何でも失礼すぎます」

 苦言を呈すると、まずはレジーさんの話をしてくれた。

 レジーさんは男爵令嬢で、スカディ様が王族になる前である、公爵令息時代に屋敷で働いていたメイドの娘なんだそうだ。

 二人は幼い頃から一緒に育った。
 ワガママな彼女はスカディ様を支配し始めた。
 スカディ様はスカディ様で、彼女に依存するようになってしまったそうだ。

「良いのか悪いのかはわからないが、レジー嬢は犬が好きみたいで、犬に触らせてくれと言われたが断った」
「それで良いと思います。偏見かもしれませんが、カッとなってメルちゃんやハヤテくんに攻撃するかもしれませんし」
「僕もそう思ったんだ。すると、レジー嬢は、犬が目の前にいるのに触らせてもらえないなんて拷問だと言ってきた。でも、向こうの要請は犬を違う所へ追いやれだったから矛盾してるんだよな」
「レジーさんには、スカディ様のお願いが伝わっていないということでしょうか。そもそも、犬を遠ざけろという話も知らない可能性がありますね」
「彼女のことはもっと詳しく問い合わせてみる。あまりにも態度が酷すぎるからね。苦情も入れるつもりだけど、あれじゃあ、何を言ってもきかなさそうだ。強制的に帰らせても良いか、兄上に確認してみるよ。問題は、他の国は受け入れていたんだから、期間の最後まで面倒を見るように言われる可能性があることかな」

 ロード様の脅しも、レジーさんにはきかないみたいだったし、ああいう人はどういう状況になったら自分が良くないと気付くのかしら。
 ……あの調子じゃ気付くことはないのかもしれない。

「レジーさんがこの国の民でしたら、ある程度の融通がきくのでしょうけれど、他国の付き人ですものね。低位貴族だからという理由で排除しようものなら、差別だという声が上がる可能性がありますし」
「そうなんだ。配慮なくやりすぎると、ただの独裁政権になるからね」

 貴族の力もあるけれど、それよりも多くの平民の力で国はまわっている。
 出資しているのは貴族や王族かもしれない。
 でも、働き手がいなければ意味がない。

「レジーさんの態度は常識的に酷すぎると思います。ですから、レジーさんだけでも帰ってもらえますように」
「……ミレニアはネイナカ国の国民性を知ってるかな?」
「国民性、ですか?」
「うん。国によっても色々と特徴があるだろう」
「そう言われてみればそうですね。全ての人が当てはまるわけではないでしょうけれど、どこどこの国の人は優しい人が多いという話を聞いたりしますものね」
 
 私はネイナカ国について詳しくないので、ロード様に聞いてみる。

「ネイナカ国の人たちはどんな感じの人たちなんですか?」
「基本は、自分は悪くない、相手が悪いというタイプが多いんだ」
「……だから、国が成り立たなくなったんですね」
「全ての人がそうというわけじゃない。現在の国王陛下と王太子殿下は、各国の指導もあったし、普通の考え方の人間だったから認められたんだ。今までの国王のように、自分が悪いのに人のせいにすることが当たり前だったら、他の国とも上手くいかない」
「ビジネスしたくない国ですね」

 呆れた声で言うと、ロード様は苦笑する。

「さっきの様子だと、スカディ殿下はまだマシなほうだな。レジー嬢はネイナカ国の典型的な女性といった感じだ」
「ということは、国に送り返そうとしても、レジーさんを管理できないこちらが悪いと言ってくる可能性もあるんですね」
「そうなんだ。それに、スカディ殿下がどうしてもレジー嬢と一緒にいたいってきかないんだ。そうなるとお帰りいただかないといけないけど、帰りたくもないって言うから面倒だ」
「スカディ様はレジーさんのことがお好きなんですか?」
「そうみたいだ。彼女と本当に結婚するつもりみたいだよ」

 ロード様が小さく息を吐く。

 すると、ロード様の太腿に顎を乗せて眠っていたメルちゃんが、勢いよく顔を上げて扉に顔を向けた。

 ハヤテくんも私の太腿の上で寝そべったままではいるけれど、顔を上げて扉を見つめている。
 誰かが近付いてきているみたいね。

 この家の使用人だったら、尻尾をゆるやかに振るんだけど、二匹とも尻尾が揺れる気配は見えない。

 私とロード様も黙って扉を見つめていると、声が聞こえてきた。

「ちょっと、グズグズしてないで早く犬にあわせなさいよ!」
「今、探しておりますので」

 聞こえてきたのは、レジーさんとそれに対応して困っているメイドの声だった。

 

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