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17 血の気が多すぎませんか?

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「リノア様、ここは私にお任せ下さい」

 ミリー様は満面の笑みを見せてくれたあと、酔っぱらいの男性と対峙されます。
 すると、ケイン様の警告により動けなくなっている男の急所に思い切り蹴りを入れたあと、しゃがみこんだ彼の髪をつかみ、近くにあったテーブルに顔を打ち付けさせました。

「いっ!」
「リノア様はこちらへ」

 ケイン様が剣を鞘におさめ、自分の身体でミリー様の行動を隠そうとして下さいますが、何をしているかは音でわかってしまいます。
 ミリー様が一方的に暴力をふるっているようですが、心配なのは心配なので聞いてみます。

「あの、ミリー様は男爵令嬢なのですよね?」
「そうですよ。でも、つい最近までは俺達のいる騎士隊にいました」
「え!?」
「あいつ、優秀ですよ。力はやはり男にはかないませんが、魔法のコントロールも魔力量も半端なくて、まあ、体術にかんしても、あんな感じですしね。あ、見ては駄目ですよ」

 ケイン様は自分の手で私の目を覆い隠しながら続けます。

「リノア様、ほら、外を見ませんか。いいお天気ですよ」
「あの、ケイン様。先程から、後ろで大きな音が…」

 がちゃん、どすん、という音と共に「助けて…」という男の声が聞こえます。
 
「あの、ケイン様」
「リノア様。今日は帰りましょうか」

 ケイン様が私の背中を押し始めると音がやみました。

「やっば、やりすぎたかな」
「そうだね、やりすぎかな」

 ミリー様の言葉に答えを返したのは、私でもケイン様でもありませんでした。
 振り返ると、ランドン辺境伯が椅子に座ったまま、気絶して倒れている男性を足で踏みながら、こちらを見ていました。

 なんだか嫌な感じの人です。
 ランドン辺境伯について、あまり詳しい事はわかりません。
 全く興味がなかったものですから!
 パーティーでお見かけした事はありますが、お話した事はありませんし、挨拶をした事もないような?
 だけど、何か、噂を聞いた気がします。
 弟のヒナタから社交界のゴシップとして、彼に関する話を聞いたはずなのです。
 それが何だったか、すぐには思い出せないのですが…。

「お騒がせしてしまった事はお詫びいたします。ですが、ラルフ様の婚約者の方に手を出そうとされたため、危険人物と判断し対処させていただきました」

 ミリー様はぺこりと悪びれた様子もなく頭を下げられました。

「へえ。彼女がラルフの婚約者なんだ」

 ランドン辺境伯が私に興味を持たれると、ケイン様が顔を背けて舌打ちされました。
 もしかして、出かける前にラルフ様と話をしていたアイツとは、この方の事なんでしょうか。

「はじめまして。リノア・ブルーミングと申します」
「クリス・ランドンだ」
「お会いできて光栄ですわ」
 
 カーテシーをすると、ランドン辺境伯は満足そうな顔をして笑ったあと、すぐに口元を歪められました。

「ラルフはあなたの何が良かったのかなあ?」
「さあ。私もさっぱり」

 嫌味には動じず、にっこり微笑んで答えると、立ち上がって口を開いたランドン辺境伯は紳士らしからぬ発言をされたのです。

「黒色の髪の女を選ぶなんてラルフらしくないなぁ。紺色の髪じゃないと良い跡継ぎが生まれないだろ。ラルフに似ればいいよねぇ。ブルーミング嬢の汚れた黒髪じゃなく」

 ランドン辺境伯はそこで言葉を止めました。
 なぜなら、ケイン様が横から剣の切先を、ミリー様が近くのテーブルに置いてあったテーブルナイフの切先を、ランドン辺境伯の懐に入って、彼の喉元に当てたからです。

「おー、こわいこわい。こっちは丸腰だよ?」

 笑いながら、ランドン辺境伯は両手を挙げられました。
 
 彼の発言の何が駄目だったかというと、紺色の髪は魔力が高く、貴族の中ではエリートです。
 けれど、それ以外の髪色は魔力が低い者が多く、黒髪の私も紺色の髪を持つ方より、魔法を使える量が少ないのです。
 貴族の間では紺色と比べる事は差別なはずなのですが、まさか、辺境伯になるようなお方がこんな事を仰るなんて。

 というよりも、この状況は不味いです。
 黙らせるために、騎士と男爵令嬢が辺境伯の喉元に剣をつきつけるなんて!
 血の気が多すぎませんか?
 でも、お二人は私のために動いてくれたのです。
 ここは私がなんとかしなければ。
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