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18 何かおかしな事を言いましたかね?

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「これは、不敬じゃないかな?」
「ケイン様、ミリー様」

 ランドン辺境伯の言葉を聞いてから、私が小さく息を吐いて名を呼ぶと、二人がしまったという顔をして手を下ろします。

「まあ、女性の方は許しても良いとしても、男の方は許せないかな。君、ラルフのお気に入りじゃないか」
「お待ち下さい。指示を出したのは私です。彼はその指示に従ったまでです」
「リノア様! そんな訳ありません! 俺が!」
「少し黙りなさい」

 ケイン様を軽く睨みつけると、困ったような顔をして口を閉ざされました。

「ランドン辺境伯様。髪の事を言われ、カッとなって命令してしまいました。無礼をお許し下さいませ」

 頭を下げながら、考える。
 ケイン様の称号は騎士だから、伯爵令嬢の私が前に出た方が罰が軽くなるはず。
 けれど、この方、何を言ってくるかわからないのです。
 それよりも、何か思い出す事があるはず。
 なんでしたっけ?
 この方に関しての噂が何かあったはずなのです。

「許してもいいけど、お願いを聞いてくれないかな」
「…お願い、ですか?」

 顔を上げると、ランドン辺境伯は私の顎をつかんで言いました。

「ラルフと婚約を解消して、僕と結婚するんだ。僕はラルフの悔しがる顔が見れるし、彼女と手が切れて万々歳だ」
「何を!!」

 声を上げるケイン様とミリー様を手で制してから、大きく息を吸う。
 思い出しました。
 今の発言のおかげで。
 この方。

「あなたは、もしかしてミラルル様の婚約者ではないのですか…?」

 この状態での婚約破棄、手が切れる、で思い出しました。
 噂で聞いた事があります。
 どこかの辺境伯の長女と、ランドン辺境伯に縁談が出ていると。
 けれど、お互いの気が乗らないため、結婚には至らず、婚約者状態が続いていると…。
 
「どうして、わかったんだ」

 ランドン辺境伯の瞳は怒りに染まり、私の顎をつかむ手が強くなりました。

「社交界で流れている噂ですわ」
「はは。この可愛い顔に傷をつけたくなってきた」
 
 よっぽど触れられたくなかったようです。
 ランドン辺境伯の表情が恐ろしいものに変わりました。

「ごめんなさい、リノア様!」
「すみません、リノア様!」
「黙って見ていられません!!」

 私の苦痛の表情を見たからか、ミリー様とケイン様が声をそろえ、止めに入ろうとした時でした。
 私の手をつかんでいるランドン辺境伯の手首をつかむ方がいました。

「…ラルフ様」

 お顔を見た途端、なぜかホッとしてしまって、足に力が入らなくなってしまいましたが、片腕でラルフ様が私の身体を支えて下さいました。
 
「大丈夫か?」

 ラルフ様は片手でランドン辺境伯の腕をひねりあげながら、もう片方の腕で私を支えたまま、優しい表情で尋ねてくださいます。

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「なら良い。…ケイン」
「…はい」
「こいつがリノアに話しかけたら殺せと伝えたはずだが?」

 ラルフ様が現れて安心したはずでしたのに、ケイン様に凄むラルフ様を見ると、ちょっと怖くなってしまいました。

「申し訳ございません」

 ケイン様が頭を下げられるので、ラルフ様に慌てて言う。

「違うのです。ケイン様は何も悪くありません。私が出しゃばってしまったのです」
「ちょ、ラルフ! 話をするのはいいんだが、この手をはなしてくれないか!」

 相変わらず、ランドン辺境伯の手首をひねりあげたままだったので、彼が言うと、手首をはなされた瞬間、ラルフ様はランドン辺境伯の顔を殴られたのです!

 ランドン辺境伯は、近くにあったテーブルと椅子に倒れ込んだため、先程のミリー様の一件もあり、店の中はめちゃくちゃです。
 
「店主、すまないな。今日は仕事にならんだろう。備品代や迷惑料も込めて、後日、ミリーに請求額を伝えてくれ」
「かしこまりました」

 店のカウンターの向こうで、やれやれといった感じで成り行きを見守っていた年配の方がラルフ様の言葉に頷きました。

「ケイン、ミリー、行くぞ」
「はい!」

 ラルフ様に促され、二人が声を揃えて返事をした時、起き上がったランドン辺境伯が言います。

「僕を置いていくつもりかい? せっかく遊びに来てあげたのに。それにそこの騎士は不敬罪だぞ!」
「心配しなくていい。俺がお前を殺しても良いと許可しているし、他の者がお前を別邸まで連れて行ってやる。姉上に会いに行け。お前が放置しているせいで、色々と迷惑している。それが無理なら婚約を破棄しろ。姉上の嫁ぎ先は今度は俺が決める」
「お前は知らないだろうが、お前の家族はクズだよ。あんな家族がいるとわかれば、クラーク家の評判は地に落ちるだろう。そうなれば誰もお前の嫁になんて来てくれやしない。跡継ぎも残せず」
「いますよ?」

 くるりと身体をランドン辺境伯に向けて、言葉を続ける。

「クラーク家の評判が地に落ちても、私は嫁に行きますよ? ある意味、ミラルル様達が別邸からいなくなって下さった方が私には楽ですが。ですので、ランドン辺境伯様はミラルル様と早くご結婚なされては?」

 笑顔で言うと、ランドン辺境伯はぽかんとした表情で私を見つめます。
 何かおかしな事を言いましたかね?
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