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47  フラル王国の王家の終わり ⑧

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 ディング陛下は私たちにも同席するようにとのことだったので「体調が悪くなった」などと言って、何とかして帰ろうとする二人を、私たちが無理やりに近い形で王城まで案内した。

 私から国王陛下にしたお願いの一つで、二人への多少の無礼については大目に見てもらえるという話になっている。だから『覚えていろよ。不敬罪で処分してやる! それを理由に連れ帰るからな!』と言われたけれど、すぐに忘れることにした。

 城に着くと、二人はディング陛下が待っていると言う場所に衛兵に連れて行かれることになり、私たちはそのすぐ後ろを付いて歩いた。
 ディング陛下が二人を招待した場所は、城壁のすぐ近くにある処刑場だった。
 ハピパル王国は大勢の前での公開処刑はしておらず、国家反逆罪や不敬罪など、王家や国にかかわる罪人を裁く場合は、この場所で処刑が行われる。

「世界ではギロチンと呼ばれる処刑器具が一般的だが、ハピパル王国ではあまり使われていない。じわじわと苦しめていくほうが、自分たちの犯してしまった罪がどんなものだったか考えられるだけでなく、後悔する時間にもなるだろう」

 四十代後半のガッシリとした体躯で、渋い顔立ちのディング陛下は、怯えきった表情の二人を見ながら豪快に笑った。

「……顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

 ぶるぶると震えている二人に尋ねると、国王陛下が口を開こうとしたけれど、その前にディング陛下が両陛下に話しかける。

「自分たちが悪いことをしていないのなら、何も恐れることはない。まさか、この俺の悪口やハピパル王国を狙うような発言をしたりしてないだろう?」
「……い、言うつもりはないが……」

 国王陛下が額に汗を流しながら答えると、ディング陛下は余裕の笑みを見せる。

「なら、そんなに怯える必要はない。この俺を嘘つき呼ばわりしたとか言うのなら、名誉毀損で容赦はせんがな。……ところで、貴方がたはどうして何の連絡もなしにここまで来たのだろうか」

 ディング陛下に尋ねられた二人は顔を見合わせたあと、用意していたのか国王陛下が答える。

「妻もそうなのだが、娘たちも老けてしまった。だから、薬を求めてきたのだ」
「……そうか」

 ディング陛下は王妃陛下に目を向けたあと頷いた。
 
 ディング陛下にはシイちゃんの話はしていないから、フラル王国の王妃陛下がどうしてこんなことになってしまったのか、不思議に思っているでしょうね。

「申し訳ないが、わが国には老化する病気を止める薬はない。違う国に行ってくれ。そんな薬があるとは聞いたことはないがな。他国にそのような薬があればフラル王国に連絡を入れるように伝えておこう。これで、あなた方の用事は終わりだ。子供たちが心配だろう? 早く帰ってやりなさい」

 こう言われてしまった以上、二人はハピパル王国に留まっているわけにはいかなかった。

 

◇◆◇◆◇◆
(フラル王国の国王)


 馬鹿にしやがって!
 ミリルがミーリルとわかっているくせに嘘をついているにもかかわらず、うそつき呼ばわりしたら今すぐに処刑するような口ぶりだった。
 どうして、こんなことになったんだ! 事前に行くと伝えているのに、わざわざ王都へ行くミーリルたちは本当に馬鹿としか言いようがない。
 いや、わざと出かけたのか?
 それならそれで何てたちが悪い人間なんだ。

 ほぼ強制的に帰らされることになった馬車の中で、考えれば考えるほど苛立つ気持ちが抑えられなかった。

 自分だけ助かろうとした王妃はもうどうでも良いが、苦しんでいる子供たちはどうにかしてやらなければならない。ロブは腹痛で苦しんでいるし、娘たちは王妃と同じく老婆のような顔になってしまった。
 年頃の娘だというのに可哀想に。

 ミーリルは王家にとって必要なで大事にしなければならないことは頭でもわかっている。でも、かなり前に捨てた娘だ。もう、愛情なんてものは消え失せている。損得勘定でしか見れない。

「これからどうするつもりなの?」

 王妃に尋ねられ、彼女を睨みつけながら答える。

「戦争する準備を整え次第、ハピパル王国に宣戦布告をする」
「戦争だなんて! 負けたら私たちは首を落とされるわよ!?」
「秘密裏に準備をして、勝てると確信を得てから攻めるんだ。そして、ミーリルを取り返す」

 ハピパル王国の王族もジャルヌ辺境伯家の人間もすべて皆殺しだ。取り返したミーリルは生かしておかなければならないから、奴らを目の前で処刑し、生き地獄を味合わせてやる。

 あの子を殺せば、不幸は一度にふりかかるかもしれないが、生かしておけば、不幸はミーリルがすべて受け止めてくれるのだから。

 私の可愛い子供たちを不幸にするハピパル王国を絶対に滅ぼしてやる。

 フラル王国の王城に戻り、苦しんでいる子供たちを見るまではそう思っていた。だから、その後、自分の身に恐ろしい出来事が降りかかるなど考えもしていなかった。

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