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26 公爵夫人の愚かな願望 ① ※途中視点変更あり
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ビサイズ公爵閣下が予想していたように、やはり、ジーノス様は私の正体に気がついたようだった。
成長するにつれて、私の顔立ちがフラル王国の王妃陛下に似てきたことには自分でも気がついていた。でも、そのことに気づく人がいるとは思っていなかった。
談話室でその話をすると、お兄様が言う。
「俺は母さんとミリルのほうが似ていると思うけどな」
「本当に?」
「ああ。一緒にいると似てくるって話を聞いたことがあるけど、俺もミリルと母さんの場合はそうだなって思ってる」
「……そうだと嬉しいな」
生みの親に似ていると言われるよりも、育ての親であるお母様に似ていると言われることは、本当に嬉しい。
血がつながっていなくても、家族は家族よね。
「ねえ、お兄様」
「ん?」
「お兄様はずっと、私の家族でいてくれる?」
お兄様でいてくれる?
と聞かなかったのは、その言い方をすると、お兄様を異性として拒絶したみたいに感じて言えなかった。
私の中でまだ答えが出せていないから、もう少しだけ考えさせてほしい。
「……そうだな。どんな形であれ家族だよ」
お兄様はそう言って私の頭を優しく撫でて微笑んでくれた。
兄と妹じゃなくても、家族という形はある。
ちゃんと口にしてもらったわけではないけど、お兄様の気持ちに、私もちゃんと向き合っていかなくちゃ。
「そういえば父さんから聞いたけど、フラル王国の王家が王城に戻ったのは良いけど、肩身の狭い思いをしているらしい」
「……どういうこと?」
「王族が長く城を空けていたのに特に困ったことはなかったみたいで、王族がいなくても国はまわるということを自分たちで証明した形になったんだ」
「そう言われればそうね。国政をあの人たちに任せる気にもならないでしょうし」
シイちゃんと私がこちらにいる以上、レドリー王家は滅びる。今の国王陛下が亡くなり、ロブ殿下が跡を継いでも長くは続かないでしょう。
王女たちに男児が生まれれば、ロブ殿下の跡継ぎになれるかもしれないけれど、きっとそれはシイちゃんが許さない気がする。
「で、王族の人たちは今はどうしているの?」
「城内で大人しくしているそうだ。第一王女と第二王女の婚約者もなんだかんだと理由をつけて会いにいくこともしていないってさ」
「それも失礼な気もするけど、婚約者が会いたがらない気持ちもわかるわ」
今までは魅力的に見えていた王女たちの本性がわかって、敬う気持ちもなくなったんでしょうね。
「今回は病気とかじゃなくて、彼らの信用を落としたみたいだな。もしかして、シエッタ殿下が俺を好きになったのも破滅に導くためなのかもしれない」
「その可能性もあるけど、それだけじゃないと思うわ。お兄様が魅力的というのもあるわよ」
「褒めても何もでないぞ」
「分かってます! それにもう十分大事にしてもらっているから、これ以上は望みません!」
褒めたら茶化すんだから困ったものね。
少し苛立ちながらお兄様を見てみると、平然とした顔をしているけれど耳が赤くなっているから恥ずかしかっているみたい。
それを見たら、苛立ちはなくなって笑いそうななった。
お兄様のためにも話題を変えたほうが良さそうね。
「ジーノス様はシエッタ殿下とノンクード様を上手くいかせたいみたいだけどどうするのかしら」
「近いうちに、こっちに連絡があるだろうな」
「……私を脅しにかかるってこと? でも、お父様が許すとは思えないわ」
「ミリルはデビュタントを控えてる。その時に公爵夫人を呼ばないわけにはいかない」
「その時に接触してくるだろうけど、絶対に一人にはならないし、物的証拠はないんだから脅しには負けないわ」
ジーノス様は王家に知られたくなければ自分のいうことを聞けと言うでしょう。
でも、絶対に認めないわ。
それに相手が公爵夫人でも、私には切り札があるもの。
来るなら来なさいってとこだわ!
◇◆◇◆◇◆
(ビサイズ公爵夫人語り)
私と夫はいわゆる親の決めた許嫁というやつだった。私には好きな人がいたけれど、それに気がついた両親が彼を他国に追いやった。
でも、私は彼を捜して見つけ出した。そして、深く愛し合ったのだ。
結婚前にその話を夫にすると「浮気は良くないことだ」と言われた。
そんなことはわかっているわ。だけど、私たちの愛は純愛だ。夫にはこんな愛情はもてない。
婚約破棄の話も出たけれど、両親が浮気はさせないと誓い、夫に頼み込んで私を妻にさせた。
夫は結婚は義務として捉えていたから、跡継ぎの問題を解決できれば、それで良かった。
一人目の子供を生んだ時点で、私はお飾りの妻を望んだ。妻としての義務を果たしたからだ。
夫は離婚を申し出てくれたけれど、それは断った。だって、贅沢な暮らしは捨てたくなかった。
私の愛する人は今は平民。愛はあってもお金のない暮らしは嫌だった。
最初は歩み寄ろうとしてくれていた夫も、私が拒否をすると、長男を可愛がるようになり、私には構わなくなった。
ノンクードは夫との子供ではない。夫もそれはわかっている。でも、長男であるテインが弟ができたことを喜んだから、夫は離婚を望まなかった。
でも、ノンクードが成人したら別だ。テインも自分とノンクードの父親が違うことに気づいている。
そして、テインへの私の愛がないということも。
きっと夫は私との離婚を望むでしょう。
それまでに私は居場所を作る。今と同じように贅沢ができる居場所を――
そのためにはミリルさん、いえ、ミーリル殿下、あなたを利用させてもらうわ。
成長するにつれて、私の顔立ちがフラル王国の王妃陛下に似てきたことには自分でも気がついていた。でも、そのことに気づく人がいるとは思っていなかった。
談話室でその話をすると、お兄様が言う。
「俺は母さんとミリルのほうが似ていると思うけどな」
「本当に?」
「ああ。一緒にいると似てくるって話を聞いたことがあるけど、俺もミリルと母さんの場合はそうだなって思ってる」
「……そうだと嬉しいな」
生みの親に似ていると言われるよりも、育ての親であるお母様に似ていると言われることは、本当に嬉しい。
血がつながっていなくても、家族は家族よね。
「ねえ、お兄様」
「ん?」
「お兄様はずっと、私の家族でいてくれる?」
お兄様でいてくれる?
と聞かなかったのは、その言い方をすると、お兄様を異性として拒絶したみたいに感じて言えなかった。
私の中でまだ答えが出せていないから、もう少しだけ考えさせてほしい。
「……そうだな。どんな形であれ家族だよ」
お兄様はそう言って私の頭を優しく撫でて微笑んでくれた。
兄と妹じゃなくても、家族という形はある。
ちゃんと口にしてもらったわけではないけど、お兄様の気持ちに、私もちゃんと向き合っていかなくちゃ。
「そういえば父さんから聞いたけど、フラル王国の王家が王城に戻ったのは良いけど、肩身の狭い思いをしているらしい」
「……どういうこと?」
「王族が長く城を空けていたのに特に困ったことはなかったみたいで、王族がいなくても国はまわるということを自分たちで証明した形になったんだ」
「そう言われればそうね。国政をあの人たちに任せる気にもならないでしょうし」
シイちゃんと私がこちらにいる以上、レドリー王家は滅びる。今の国王陛下が亡くなり、ロブ殿下が跡を継いでも長くは続かないでしょう。
王女たちに男児が生まれれば、ロブ殿下の跡継ぎになれるかもしれないけれど、きっとそれはシイちゃんが許さない気がする。
「で、王族の人たちは今はどうしているの?」
「城内で大人しくしているそうだ。第一王女と第二王女の婚約者もなんだかんだと理由をつけて会いにいくこともしていないってさ」
「それも失礼な気もするけど、婚約者が会いたがらない気持ちもわかるわ」
今までは魅力的に見えていた王女たちの本性がわかって、敬う気持ちもなくなったんでしょうね。
「今回は病気とかじゃなくて、彼らの信用を落としたみたいだな。もしかして、シエッタ殿下が俺を好きになったのも破滅に導くためなのかもしれない」
「その可能性もあるけど、それだけじゃないと思うわ。お兄様が魅力的というのもあるわよ」
「褒めても何もでないぞ」
「分かってます! それにもう十分大事にしてもらっているから、これ以上は望みません!」
褒めたら茶化すんだから困ったものね。
少し苛立ちながらお兄様を見てみると、平然とした顔をしているけれど耳が赤くなっているから恥ずかしかっているみたい。
それを見たら、苛立ちはなくなって笑いそうななった。
お兄様のためにも話題を変えたほうが良さそうね。
「ジーノス様はシエッタ殿下とノンクード様を上手くいかせたいみたいだけどどうするのかしら」
「近いうちに、こっちに連絡があるだろうな」
「……私を脅しにかかるってこと? でも、お父様が許すとは思えないわ」
「ミリルはデビュタントを控えてる。その時に公爵夫人を呼ばないわけにはいかない」
「その時に接触してくるだろうけど、絶対に一人にはならないし、物的証拠はないんだから脅しには負けないわ」
ジーノス様は王家に知られたくなければ自分のいうことを聞けと言うでしょう。
でも、絶対に認めないわ。
それに相手が公爵夫人でも、私には切り札があるもの。
来るなら来なさいってとこだわ!
◇◆◇◆◇◆
(ビサイズ公爵夫人語り)
私と夫はいわゆる親の決めた許嫁というやつだった。私には好きな人がいたけれど、それに気がついた両親が彼を他国に追いやった。
でも、私は彼を捜して見つけ出した。そして、深く愛し合ったのだ。
結婚前にその話を夫にすると「浮気は良くないことだ」と言われた。
そんなことはわかっているわ。だけど、私たちの愛は純愛だ。夫にはこんな愛情はもてない。
婚約破棄の話も出たけれど、両親が浮気はさせないと誓い、夫に頼み込んで私を妻にさせた。
夫は結婚は義務として捉えていたから、跡継ぎの問題を解決できれば、それで良かった。
一人目の子供を生んだ時点で、私はお飾りの妻を望んだ。妻としての義務を果たしたからだ。
夫は離婚を申し出てくれたけれど、それは断った。だって、贅沢な暮らしは捨てたくなかった。
私の愛する人は今は平民。愛はあってもお金のない暮らしは嫌だった。
最初は歩み寄ろうとしてくれていた夫も、私が拒否をすると、長男を可愛がるようになり、私には構わなくなった。
ノンクードは夫との子供ではない。夫もそれはわかっている。でも、長男であるテインが弟ができたことを喜んだから、夫は離婚を望まなかった。
でも、ノンクードが成人したら別だ。テインも自分とノンクードの父親が違うことに気づいている。
そして、テインへの私の愛がないということも。
きっと夫は私との離婚を望むでしょう。
それまでに私は居場所を作る。今と同じように贅沢ができる居場所を――
そのためにはミリルさん、いえ、ミーリル殿下、あなたを利用させてもらうわ。
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