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22 気づかない国王と王妃 ②
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新しく私のところにやってきた石はくっつけてみると、シイちゃんに飲み込まれるように合体した。一緒にそれを見ていたお兄様が驚いた顔で言う。
「まるで生きているみたいだな」
「私もそう思う。だって、シイちゃんたちには意思があるみたいなんだもの」
石だけに意思が。
そんなくだらないことが頭に浮かんで、無意識にお兄様を見ると、私の考えたことがわかったのか呆れた顔をする。
「そんなことを考えられる余裕があるってことだな」
「余裕があると言っていいのかわからないけど、シイちゃんが守ってくれているような気がするの」
シエッタ殿下が家にやってきて慌ただしく帰った日の夜、私の部屋でお兄様と話をしていた時、お父様が部屋にやってきた。
「フラル王国の王族がもうすぐ国に帰ることは知っていると思うが、お前たちに見送りに来てほしいと言っていると連絡がきた」
「私とお兄様にですか?」
「ああ。シエッタ殿下はリディアスに、ロブ殿下はミリルに最後に会っておきたいんだそうだ」
他国の王族の見送りを拒否する理由が思い浮かばないし、行かざるを得ないのでしょうね。
「私は断る理由はないですし、お見送りいたします」
「でも、見送りってことはフラル王国の両陛下もいるんだ。ミリルがミーリルだと気づかれる可能性があるぞ」
隣に座っているお兄様が焦った顔をして言った。
「それはわかっているわ。だけど、向こうもわかってもどうしようもないはずよ。公にはミーリルは死んだことになっているんだから、感動の再会! なんて馬鹿なことは言えないもの」
「それでも捜しているということはお前に戻ってきてほしいってことだろ?」
「私は絶対に戻らない」
「ミリルがそう思っていても誘拐されたらどうするんだ」
お兄様は心配そうな表情で私を見つめた。向かいに座るお父様も難しい表情だ。
姉弟が気づかなくても、親なら気づく可能性が高いと思っているのでしょう。私の家族だった人たちが普通の家族だったなら、私もそう思ったと思う。でも、子供を捨てるような人は親じゃない。
「誘拐については私も十分に気をつけますが、そんなことにはならないようにしてくれるとお兄様やお父様を信じています。それに、シイちゃんも助けてくれると思うんです」
シイちゃんを手のひらに乗せて、二人に見せると、シイちゃんは返事をするようにキラキラと輝いた。
「私もリディアスもミリルを守るつもりではいるが、万が一ってことがあるだろ」
「会わなくても怪しまれます。それなら、会って私がミーリルではないと思わせたほうが良いでしょう」
「……だが、本当に石が助けてくれるかは」
難色を示したお父様の額にめがけて、突然、シイちゃんが飛んでいった。
「……っ! 今のはなんだ?」
お父様はシイちゃんをキャッチすると、訝しげな顔をして私に返してくれる。
「たぶん、シイちゃんはうだうだ言わずに自分に任せろと言っているんじゃないかと思います」
「この石は一体、何なんだろうな」
お兄様がシイちゃんを見つめて呟いた。そして、少し考えてから続ける。
「ミリルを王族に近づけようとしているのは、自分の半身を集めるためかもしれないな」
「私がフラル王国の王家を見送る時に、残りを集め切ろうとしているのかしら」
「その可能性はあると思う」
お兄様が頷くと、お父様が私に尋ねてくる。
「……ミリルはその不思議な石について、何か思い当たるような記憶はないんだな?」
「はい。私には教える必要がないと思われて、教えてもらえていなかったんだと思います」
見送りの時に、さりげなくシイちゃんについて聞き出すことはできるかしら。
「世間話として、俺がシエッタ殿下に小袋のことについて聞いてみる。その話をする見返りを求めてくるようなら、そこで話は打ち切る。それでもいいか?」
「いきなり小袋の話をするの?」
「今日みたいにシイがきっかけを作ってくれたら助かる」
お兄様もシイちゃんのことをシイと愛称で呼んだ。シイちゃんもそれが嫌じゃなかったのか「任せてくれ」と言わんばかりにキラリと光った。
そして、次の日の夜、改めて家族会議が開かれた。
見送りにはハピパル王国の両陛下はいらっしゃらないけれど、外務大臣や王太子殿下が来られるとのことだった。
シイちゃんの力は私たち家族だけの秘密にすること。そんな状況にはならないと思うけれど、絶対に一人にならないことを約束した。
「シエッタ殿下がノンクード様に接触したとビサイズ公爵から連絡があった。泳がせて何を考えているのか探り、手は打ってくれるそうだが、ミリルにも警戒はしておいてほしいと連絡がきた」
「承知いたしました」
ノンクード様は同じクラスだから面倒だわ。でも、みんながいる前ではさすがに馬鹿なことはできないでしょう。……って、この油断が禁物なのよね。
「ノンクード様を泳がしてどうするつもりなんでしょうか」
お兄様が尋ねると、お父様は苦笑する。
「あそこの家は複雑でな。追い出す理由を作ろうとしているのかもしれない」
利用されているような気がして、嫌な気持ちにならないことはないけど、ビサイズ公爵にはお金をたくさんもらっているから、多少の協力はしましょうか。
公爵に恩を売っておいて悪いことはないものね。
******
見送りの当日の朝は、フラル王国の王家が帰ってくれることを喜んでいるかのような快晴だった。
「娘の我儘を聞いてくれてありがとう」
「いえいえ。王女の我儘を制御できないのですから仕方がありませんよ。こちらは子供の我儘くらいでしたら、多めに見てあげる余裕がありますし、駄目なものは駄目だとお伝えしております。あなた方が国政に携わらないのは賢明な判断ですね」
お礼を言うフラル王国の国王陛下に、ハピパル王国の王太子殿下は爽やかな笑みを浮かべて嫌味を言った。
フラル王国の王家がやっていることってくだらないことばかりだし、敬う気にもなれないのよね。国政にも携わっていないから、ハピパル王国側としては真面目に相手をする必要がないといったところかしら。
「わ、私がいなければ、フラル王国は終わるんだぞ!」
「そうなんですね」
「失礼だぞ!」
国王陛下もそのことに気がついたのか、顔を真っ赤にして言い返している。
二人の話を後ろで聞いていると、王妃陛下が近づいてきて私に話しかけてきた。
「こんにちは、あなたがミリルさんね」
「はい。ミリル・ジャルヌと申します。フラル王国の王妃陛下にお会いできて光栄に存じます」
笑顔でカーテシーをすると、王妃陛下は眉根を寄せた。
もしかして、私がミーリルだと気づかれた?
腰に巻いたリボンの中に忍ばせているシイちゃんに触れると、シイちゃんが温かくなった気がして、心が落ち着いてきた。笑みを浮かべ続けていると、王妃陛下は私から目を逸らし、がっかりしたように大きなため息を吐いた。
「まるで生きているみたいだな」
「私もそう思う。だって、シイちゃんたちには意思があるみたいなんだもの」
石だけに意思が。
そんなくだらないことが頭に浮かんで、無意識にお兄様を見ると、私の考えたことがわかったのか呆れた顔をする。
「そんなことを考えられる余裕があるってことだな」
「余裕があると言っていいのかわからないけど、シイちゃんが守ってくれているような気がするの」
シエッタ殿下が家にやってきて慌ただしく帰った日の夜、私の部屋でお兄様と話をしていた時、お父様が部屋にやってきた。
「フラル王国の王族がもうすぐ国に帰ることは知っていると思うが、お前たちに見送りに来てほしいと言っていると連絡がきた」
「私とお兄様にですか?」
「ああ。シエッタ殿下はリディアスに、ロブ殿下はミリルに最後に会っておきたいんだそうだ」
他国の王族の見送りを拒否する理由が思い浮かばないし、行かざるを得ないのでしょうね。
「私は断る理由はないですし、お見送りいたします」
「でも、見送りってことはフラル王国の両陛下もいるんだ。ミリルがミーリルだと気づかれる可能性があるぞ」
隣に座っているお兄様が焦った顔をして言った。
「それはわかっているわ。だけど、向こうもわかってもどうしようもないはずよ。公にはミーリルは死んだことになっているんだから、感動の再会! なんて馬鹿なことは言えないもの」
「それでも捜しているということはお前に戻ってきてほしいってことだろ?」
「私は絶対に戻らない」
「ミリルがそう思っていても誘拐されたらどうするんだ」
お兄様は心配そうな表情で私を見つめた。向かいに座るお父様も難しい表情だ。
姉弟が気づかなくても、親なら気づく可能性が高いと思っているのでしょう。私の家族だった人たちが普通の家族だったなら、私もそう思ったと思う。でも、子供を捨てるような人は親じゃない。
「誘拐については私も十分に気をつけますが、そんなことにはならないようにしてくれるとお兄様やお父様を信じています。それに、シイちゃんも助けてくれると思うんです」
シイちゃんを手のひらに乗せて、二人に見せると、シイちゃんは返事をするようにキラキラと輝いた。
「私もリディアスもミリルを守るつもりではいるが、万が一ってことがあるだろ」
「会わなくても怪しまれます。それなら、会って私がミーリルではないと思わせたほうが良いでしょう」
「……だが、本当に石が助けてくれるかは」
難色を示したお父様の額にめがけて、突然、シイちゃんが飛んでいった。
「……っ! 今のはなんだ?」
お父様はシイちゃんをキャッチすると、訝しげな顔をして私に返してくれる。
「たぶん、シイちゃんはうだうだ言わずに自分に任せろと言っているんじゃないかと思います」
「この石は一体、何なんだろうな」
お兄様がシイちゃんを見つめて呟いた。そして、少し考えてから続ける。
「ミリルを王族に近づけようとしているのは、自分の半身を集めるためかもしれないな」
「私がフラル王国の王家を見送る時に、残りを集め切ろうとしているのかしら」
「その可能性はあると思う」
お兄様が頷くと、お父様が私に尋ねてくる。
「……ミリルはその不思議な石について、何か思い当たるような記憶はないんだな?」
「はい。私には教える必要がないと思われて、教えてもらえていなかったんだと思います」
見送りの時に、さりげなくシイちゃんについて聞き出すことはできるかしら。
「世間話として、俺がシエッタ殿下に小袋のことについて聞いてみる。その話をする見返りを求めてくるようなら、そこで話は打ち切る。それでもいいか?」
「いきなり小袋の話をするの?」
「今日みたいにシイがきっかけを作ってくれたら助かる」
お兄様もシイちゃんのことをシイと愛称で呼んだ。シイちゃんもそれが嫌じゃなかったのか「任せてくれ」と言わんばかりにキラリと光った。
そして、次の日の夜、改めて家族会議が開かれた。
見送りにはハピパル王国の両陛下はいらっしゃらないけれど、外務大臣や王太子殿下が来られるとのことだった。
シイちゃんの力は私たち家族だけの秘密にすること。そんな状況にはならないと思うけれど、絶対に一人にならないことを約束した。
「シエッタ殿下がノンクード様に接触したとビサイズ公爵から連絡があった。泳がせて何を考えているのか探り、手は打ってくれるそうだが、ミリルにも警戒はしておいてほしいと連絡がきた」
「承知いたしました」
ノンクード様は同じクラスだから面倒だわ。でも、みんながいる前ではさすがに馬鹿なことはできないでしょう。……って、この油断が禁物なのよね。
「ノンクード様を泳がしてどうするつもりなんでしょうか」
お兄様が尋ねると、お父様は苦笑する。
「あそこの家は複雑でな。追い出す理由を作ろうとしているのかもしれない」
利用されているような気がして、嫌な気持ちにならないことはないけど、ビサイズ公爵にはお金をたくさんもらっているから、多少の協力はしましょうか。
公爵に恩を売っておいて悪いことはないものね。
******
見送りの当日の朝は、フラル王国の王家が帰ってくれることを喜んでいるかのような快晴だった。
「娘の我儘を聞いてくれてありがとう」
「いえいえ。王女の我儘を制御できないのですから仕方がありませんよ。こちらは子供の我儘くらいでしたら、多めに見てあげる余裕がありますし、駄目なものは駄目だとお伝えしております。あなた方が国政に携わらないのは賢明な判断ですね」
お礼を言うフラル王国の国王陛下に、ハピパル王国の王太子殿下は爽やかな笑みを浮かべて嫌味を言った。
フラル王国の王家がやっていることってくだらないことばかりだし、敬う気にもなれないのよね。国政にも携わっていないから、ハピパル王国側としては真面目に相手をする必要がないといったところかしら。
「わ、私がいなければ、フラル王国は終わるんだぞ!」
「そうなんですね」
「失礼だぞ!」
国王陛下もそのことに気がついたのか、顔を真っ赤にして言い返している。
二人の話を後ろで聞いていると、王妃陛下が近づいてきて私に話しかけてきた。
「こんにちは、あなたがミリルさんね」
「はい。ミリル・ジャルヌと申します。フラル王国の王妃陛下にお会いできて光栄に存じます」
笑顔でカーテシーをすると、王妃陛下は眉根を寄せた。
もしかして、私がミーリルだと気づかれた?
腰に巻いたリボンの中に忍ばせているシイちゃんに触れると、シイちゃんが温かくなった気がして、心が落ち着いてきた。笑みを浮かべ続けていると、王妃陛下は私から目を逸らし、がっかりしたように大きなため息を吐いた。
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