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14  第三王女の止められない恋心 ②

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 学園の長期休みが終わるまでに、私は薬草学を学び、薬草を配合し薬を作ることまでできるようになった。
 薬を売ることは薬師の資格がないと無理だが、薬師の許可があれば無償で譲ることは可能になっている。
 私が特に学ぶことにしたのは身を守るためのものとはいえ、塗ったところに触れたら痛いなど、禁忌に近いものばかりだった。
 元々は、悪人から大事な物を守るために考えられたものだそうだが、悪戯や犯罪に使われるようになって、一般ではレシピが販売されなくなった。
 そのため、年配の薬師しか調合の仕方がわからない。

 私の薬草学の先生であるコニファー先生は薬師の資格を持っている、白髪のいつもニコニコしている穏やかな性格の可愛らしいおばあさんだった。背筋はピンと伸びているけれど、とても小柄のため、まるで子供みたいな体の大きさだ。

「どうして上手くいかないのかねぇ」

 悪臭が漂う可能性があるため、中庭にある小屋の近くでコニファー先生の作った薬草鍋と私が作った薬草鍋の中身を見比べながら、先生が首を傾げた。

 先生と同じ薬草を同じ分量入れて、同じ時間に煮込んだのだから、同じような見た目のものができるはずなのに、先生の鍋は緑色。私の鍋はなぜか紫と黒が混じった色になっているだけでなく、火にかけていないのに、なぜかぐつぐつと煮立っているように見える。

 鍋が悪いのかと思って、先生の使っている鍋と入れ替えても同じ結果になるので、どうも、私が作るとおかしな薬が出来上がってしまうらしい。

「同じ薬草を使っているから、毒にはならないと思うんだけどねぇ」
「腹痛を治すための薬なのに、飲んだらもっと悪くなりそうですね」

 コップに移してみても、液体はまだぐつぐつと動いている。

「まるで薬草が生きてるみたいだねぇ」

 毒ではないとのことなので、一口だけ飲んでみると、私の大好きなオレンジジュースの味がした。

「先生、美味しいです!」
「嘘でしょう? 苦いんじゃないの?」
「本当なんです、先生! 飲んでみてください!」

 コップを手渡すと、先生は恐る恐るといった感じで、私の作った液体の薬を飲んだ。最初は苦々しい顔をしていた先生だったけれど、ぱちりと目を見開く。

「あらあら、美味しいわ。オレンジジュースの味というよりかは、高級な紅茶といった感じねぇ」
「おかしいですね」

 違うコップに入れなおして、また一口だけ飲んでみたけど、やっぱりオレンジジュースの味がする。
 結果、一口だけといって騎士や兵士の人たちに飲んでもらってみた。最初はみんな見た目で気持ち悪がっていたけれど、飲んでみたら、それぞれが違う味だと言いつつも好評だった。そして、調べてみたところ、共通点は自分が一番好きな飲み物の味になっていた。

「ミリルは良い意味で恐ろしい力を持っているのかもねぇ」
「人の役に立てるでしょうか」
「薬が苦いといって飲みたがらない子供も多いから喜ばれるに違いないわ。だけど、あなたは薬師ではないから、販売は無理ねぇ」
「薬が飲みやすくなるのは良いことだと思うんで、資格を取ったほうが良いでしょうか」
「あなたの本当の目的は自衛ですからねぇ。見た目は酷いけれど、飲みやすい薬が作れると知られたら、あなたは他の薬師から恨まれる可能性があるわよぉ」
「自分の作った薬が売れなくなりますもんね」

 先生が頷いたのを確認して、私は宣言する。

「わかりました。皆には今回のことは口止めして、外に漏らさないようにしてもらいます。そして、違うものにトライして、今度こそ成功させようと思います!」

 そう考えた私は、他の初心者向けの調合を先生と一緒に挑戦することになったのだった。

 
*******


 そして、問題の新学期がやって来た。さすがに新学期の初日は休みづらかったので、私も学園に登校することにした。
 教室に入ると、予想通り、ノンクード様が私の所にやって来た。

「父上にはミリルには不必要に近づくなと言われているんだ。だから、僕と話したなんて言うなよ!」
「嘘をつく必要はありませんので、連絡させていただきます」
「やめてくれ! それよりもどうして、婚約破棄なんてするんだ! 君のせいでシエッタ殿下に役立たずと言われたんだぞ!」

 ノンクード様が大声で叫ぶものだから、クラス内の視線は私たちに集まった。

「私のせいにされても困ります」
「君が大人しく僕の言うことを聞いて、シエッタ殿下とリディアスさんの仲を取り持てば良かっただけなのに!」
 
 ノンクード様は手を出してはこなかったが、私に顔を近づけて続ける。

「まあいい。今頃、シエッタ殿下はリディアスさんと一緒にいる。今度こそ、リディアスさんは素直になることだろう! そうなれば僕の勝ちだ!」

 高らかに宣言したノンクード様は満足したのか、私から離れ、自分の席に戻っていった。

 ただ、愚痴りたかっただけかしら?
 何が言いたいのか、さっぱりわからないわ。

 不思議に思いながら、クラスのみんなの反応を窺ってみると、ノンクード様を見てあきれ返った顔をしていた。

 その後のノンクード様は大人しくしていてくれたので、無事に家に帰ることができた。しばらくすると、お兄様が不機嫌そうな顔をして帰って来た。

「お兄様、おかえりなさいませ。どうでしたか?」
「ただいま。……最悪だった」

 尋ねた私にきっぱりと答えたお兄様は、学園でどんなことがあったのかを教えてくれたのだった。
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