4 / 49
4 第四王女を捜せ ③ ※王の側近視点
しおりを挟む
「エイブラン様、森にこんなものが落ちていました」
そう言って、兵士が持ってきたのはピンク色のリボンだった。かなり汚れていて、ところどころに切れている部分もあり、リボンだったものという言い方のほうが正しいかもしれない。
黙ってリボンを見つめている私に、兵士が話しかける。
「もう、捜しても無駄なのではないでしょうか。あの森の中で子供が生きているとは思えません。何人もの兵士が狼に襲われています」
「いや。捜すんだ。森の中にいないのであれば、国境警備隊に確認しなさい」
「子供の足ですよ? そんなに簡単に国境付近にたどり着けるものではありません! それに相手にはなんと確認すれば良いのです?」
そんなことまで私が指示しなければならないのか。
舌打ちしそうになるのを抑えて、兵士に答える。
「……子供を見かけなかったかで良いではないですか。別にその子供がミーリル様だと言わなければ良いのです」
「女の子を保護していないか聞けば良いのですね?」
「そうです。わかったなら、すぐに捜索を再開してください」
「承知いたしました」
兵士は不服そうな顔をしつつも頷くと、重い足取りで部屋から出て行った。
兵士が嫌がる気持ちもわからないでもない。私だってミーリル様はもう、この世にはいないと思っているからだ。でも、捜すことをやめられないのは、陛下から見せてもらった王家に伝わる書物に書かれていたことのせいだった。
王家にとって第四王女が災厄か幸運をもたらす存在ということも初めて知って驚いたが、災厄をもたらすかもしれないといって、わが子を捨てる親がいることにも驚いた。
書物を読んでみると、今までの王族は、第四王女が災厄をもたらす子供だったとしても捨てるようなことはなかった。その場合、第四王女が一生を全うすると、王家の不幸はなくなったという。
それなら、どうして王太子殿下や王女殿下たちの体調が悪いままなのか。
と考えると、ミーリル様はまだ生きているということになる。しかも、捨てられてから王家に不幸が続いているということは、彼女は災厄ではなく、幸運をもたらす第四王女である可能性が高い。
今までは王家の不幸をミーリル様がすべて請け負っていた。だから、病弱だったのだろう。幸運をもたらす第四王女は、自分以外の王家に幸運をもたらしていたのだ。
でも、その王家に捨てられたミーリル様は、家族のために使っていた幸運を無自覚かもしれないが、自分を守るためだけに使っているのかもしれない。
ミーリル様が見つからないのは、彼女にとって見つからないことが幸せだからだろうか。そうだったとしても、彼女には戻って来てもらわなければならない。
今回、ミーリル様を捜すことに手間がかかるのは、表立って捜索隊を出せないことだ。彼女の死は病死として世界には知れ渡っている。
実は不幸を呼ぶ子だと思って捨てたんです。
なんてことが知られたら、大変なことになる。本当になんてことをしてくれたんだ!
それから数時間後、戻って来た兵士からミーリル様が行方不明になった日に、隣国から子供の迷子の問い合わせがあったと知らされた。
しかし、数日後にはミーリル様ではなかったという連絡が隣国側からあったそうだ。迷子になっていたのは、平民の子供で親も見つかったらしい。そんな子を保護するくらいなら、ミーリル様を保護してくれれば良かったのに……。
そう思ったが、そんなことになっていたら、この王家はもう終わっていただろう。娘を捨てるような王家など、国民が許すはずがない。
王家に付くことで甘い蜜を吸っている私には痛手でしかない。どうにかして、ミーリル様を見つけ出し、ミーリル様ではない誰かとして王城に戻さなければならない。
幸運をもたらす王女が戻れば、全てがうまくいくはずだ。そうだ。隣国が保護した子供も怪しいといえば怪しい。身元が分かったと言われているが、一応、調べさせておこう。
私には贔屓にしている情報屋がいる。情報屋というのは、その名の通り、頼めば知りたい情報を教えてくれるし、その情報を持っていなければ、金を払えば調べてくれる。
すぐに彼に連絡を取り、隣国側が保護した少女を調べさせた。数日後には手紙が届き『確認したが、王家の遠い親戚の平民で、身元も確認ができた。見た目もあなたが探している女児の見た目と、まったく違う』と書かれていた。
そう簡単に見つかるはずがないか。
私はため息を吐いて、その手紙を破ると暖炉の火の中に放り入れた。
「あんな幼い子が一人で森の中で生きていくなんて無理だ。まさか、狼が保護しているのか? そんな馬鹿なことはないだろう」
ぶつぶつと独り言を言いながら、部屋の中を歩き回った。
でも、ミーリル様を見つけ出す良い案が導き出せない。両陛下は自分の子供たちのことで頭がいっぱいで、ミーリル様のことは、私が押し付けられているから相談する相手もいない。
幸運をもたらす第四王女が戻らなければ、安泰だと思われていた私の未来が無茶苦茶になる!
この時の私は自分の保身のことばかり考えて、人というものがどんなものかを忘れていた。情報屋も人であり、同情する心もある。そして、金をもらえば、嘘の情報を流すこともできるのだということを――
そう言って、兵士が持ってきたのはピンク色のリボンだった。かなり汚れていて、ところどころに切れている部分もあり、リボンだったものという言い方のほうが正しいかもしれない。
黙ってリボンを見つめている私に、兵士が話しかける。
「もう、捜しても無駄なのではないでしょうか。あの森の中で子供が生きているとは思えません。何人もの兵士が狼に襲われています」
「いや。捜すんだ。森の中にいないのであれば、国境警備隊に確認しなさい」
「子供の足ですよ? そんなに簡単に国境付近にたどり着けるものではありません! それに相手にはなんと確認すれば良いのです?」
そんなことまで私が指示しなければならないのか。
舌打ちしそうになるのを抑えて、兵士に答える。
「……子供を見かけなかったかで良いではないですか。別にその子供がミーリル様だと言わなければ良いのです」
「女の子を保護していないか聞けば良いのですね?」
「そうです。わかったなら、すぐに捜索を再開してください」
「承知いたしました」
兵士は不服そうな顔をしつつも頷くと、重い足取りで部屋から出て行った。
兵士が嫌がる気持ちもわからないでもない。私だってミーリル様はもう、この世にはいないと思っているからだ。でも、捜すことをやめられないのは、陛下から見せてもらった王家に伝わる書物に書かれていたことのせいだった。
王家にとって第四王女が災厄か幸運をもたらす存在ということも初めて知って驚いたが、災厄をもたらすかもしれないといって、わが子を捨てる親がいることにも驚いた。
書物を読んでみると、今までの王族は、第四王女が災厄をもたらす子供だったとしても捨てるようなことはなかった。その場合、第四王女が一生を全うすると、王家の不幸はなくなったという。
それなら、どうして王太子殿下や王女殿下たちの体調が悪いままなのか。
と考えると、ミーリル様はまだ生きているということになる。しかも、捨てられてから王家に不幸が続いているということは、彼女は災厄ではなく、幸運をもたらす第四王女である可能性が高い。
今までは王家の不幸をミーリル様がすべて請け負っていた。だから、病弱だったのだろう。幸運をもたらす第四王女は、自分以外の王家に幸運をもたらしていたのだ。
でも、その王家に捨てられたミーリル様は、家族のために使っていた幸運を無自覚かもしれないが、自分を守るためだけに使っているのかもしれない。
ミーリル様が見つからないのは、彼女にとって見つからないことが幸せだからだろうか。そうだったとしても、彼女には戻って来てもらわなければならない。
今回、ミーリル様を捜すことに手間がかかるのは、表立って捜索隊を出せないことだ。彼女の死は病死として世界には知れ渡っている。
実は不幸を呼ぶ子だと思って捨てたんです。
なんてことが知られたら、大変なことになる。本当になんてことをしてくれたんだ!
それから数時間後、戻って来た兵士からミーリル様が行方不明になった日に、隣国から子供の迷子の問い合わせがあったと知らされた。
しかし、数日後にはミーリル様ではなかったという連絡が隣国側からあったそうだ。迷子になっていたのは、平民の子供で親も見つかったらしい。そんな子を保護するくらいなら、ミーリル様を保護してくれれば良かったのに……。
そう思ったが、そんなことになっていたら、この王家はもう終わっていただろう。娘を捨てるような王家など、国民が許すはずがない。
王家に付くことで甘い蜜を吸っている私には痛手でしかない。どうにかして、ミーリル様を見つけ出し、ミーリル様ではない誰かとして王城に戻さなければならない。
幸運をもたらす王女が戻れば、全てがうまくいくはずだ。そうだ。隣国が保護した子供も怪しいといえば怪しい。身元が分かったと言われているが、一応、調べさせておこう。
私には贔屓にしている情報屋がいる。情報屋というのは、その名の通り、頼めば知りたい情報を教えてくれるし、その情報を持っていなければ、金を払えば調べてくれる。
すぐに彼に連絡を取り、隣国側が保護した少女を調べさせた。数日後には手紙が届き『確認したが、王家の遠い親戚の平民で、身元も確認ができた。見た目もあなたが探している女児の見た目と、まったく違う』と書かれていた。
そう簡単に見つかるはずがないか。
私はため息を吐いて、その手紙を破ると暖炉の火の中に放り入れた。
「あんな幼い子が一人で森の中で生きていくなんて無理だ。まさか、狼が保護しているのか? そんな馬鹿なことはないだろう」
ぶつぶつと独り言を言いながら、部屋の中を歩き回った。
でも、ミーリル様を見つけ出す良い案が導き出せない。両陛下は自分の子供たちのことで頭がいっぱいで、ミーリル様のことは、私が押し付けられているから相談する相手もいない。
幸運をもたらす第四王女が戻らなければ、安泰だと思われていた私の未来が無茶苦茶になる!
この時の私は自分の保身のことばかり考えて、人というものがどんなものかを忘れていた。情報屋も人であり、同情する心もある。そして、金をもらえば、嘘の情報を流すこともできるのだということを――
1,994
お気に入りに追加
3,412
あなたにおすすめの小説
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる