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2 第四王女を捜せ ① ※視点変更あり
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しばらくして、若い男性が二人、私の所へやって来て優しく抱き上げて、ハピパル王国に入国させてくれた。
「カーク様、フラル王国側に確認したところ、森での行方不明者の捜索依頼はないそうです」
「そうか。ありがとう」
カーク様は私を男性から受け取ると抱き上げた状態で、警備隊の人たちに命令する。
「いいか。彼女の名前はミリルで姓はない。親と森で生き別れてしまった少女だ。ミリルが先ほど、口にしたことは公言するな」
「承知しました!」
警備隊員たちが大きな声で返事をするから、私は驚いて体を縮こまらせた。すると、カーク様が優しく頭を撫でてくれる。
「いいか。君はミリルだ。ミーリルではない。ちゃんとした食事をとれていないようだから、これから、たくさん美味しいものを食べて、大きくなって強くなろうな」
「……はい」
どうして名前を変えるんだろう。
よくわからないけれど、本能的に頷かなければならないと思った。
あとになって教えてもらったのだけど、名前を大きく変えなかったのは、咄嗟に自分の名前をミーリルと言ってしまっても、何とか誤魔化せるだろうと思ったそうだ。
カーク様は私を連れて帰る前に、まずは家族や、王家に確認すると言って去っていった。私のことを任された警備隊員の若い女性が「お腹減ったよね?」と聞いてくれたので、「うん」と素直に頷いた。
女性は他の隊員に私を預けて姿を消すと、すぐに温かなスープを持ってきてくれた。城では毒見をしてもらっていたから、冷たい料理しか食べたことがなかった。温かい食事に明るい笑い声。初めての環境に戸惑いつつも、胸が温かくなった。
「寒かっただろ」と上着を貸してくれたり、「ミリルは偉い」「よく頑張ったな」など、褒めてくれる皆の言葉が嬉しくて涙がこぼれた。
お父様もお母様も、私のことが嫌いだから私を捨てた。お姉さまも弟も私のことを嫌っていた。だから、メイドたちだって、意地悪はしないけど優しくもなかった。
世界中の皆に嫌われていると思っていたけど、違ったんだ。
私の涙を見て、周りを囲んでいた皆は慌て始める。
「どうしたの? どこか痛むの? ……そうだわ! たしか、体が弱いと聞いたことがあるわ!」
「そういえばそうだったな。だから、公の場に出たこともないんだっけ」
「子供にはお菓子だろ。お菓子、誰か持ってねぇ!?」
「何言ってるんだよ! 病気なら薬だろ!」
慌てふためいている皆の姿がおかしくて「ふふふっ」と笑うと、皆は安堵したように笑った。
王城は遠いらしく、カーク様が戻ってくるまでは国境警備隊の浴場で体を洗い、隊員の子供のお下がりをもらって着替えた。仮眠室で眠る時には交代で誰かが一緒に眠ってくれた。誰かと一緒に眠ったり食事をすることは、私にとってとても幸せなものだった。
しかも、フラル王国を出てからの私は、体調が良くなり、今までは少し走れば息切れして倒れていたのに、長い距離を走っても倒れなくなった。
カーク様たちに保護された日から私の生活は一変した。
そして、変化があったのは私だけではなかった。私がハピパル王国に入ったその日から、フラル王国の王家に不幸が続くようになるのだった。
◇◆◇◆◇◆
(フラル王国のメイド視点)
私はフラル王国の王太子殿下、ロブ様付きのメイドだ。目の前にある大きな天蓋付きのベッドには、顔を赤くして意識が朦朧としているロブ様、そして、そんなロブ様を心配そうに見つめる両陛下と城のお抱えである、老人のお医者様がいた。
「ロブの熱が下がらないのはどうしてなんだ!」
「陛下、お言葉ですが、子供は高熱を出すものです。解熱薬も飲ませましたし、そのうち熱も下がるでしょう。ミーリル様もそうでしたので心配なさらなくても大丈夫ですよ」
「うるさい! ミーリルの話を持ち出すな!」
国王陛下は、すごい剣幕でお医者様を怒鳴りつけた。
ミーリル様はつい先日亡くなった、第四王女でロブ様の二つ年上の姉だった。生まれた時から王家の不幸をすべて引き受けていたかのような人で、ミーリル様だけが体が弱く、他の殿下たちは驚くくらいに健康で、彼らが行く場所の国民が雨を求めていれば雨が降り、晴れを求めていれば晴れるなど、驚くくらい運が良かった。
でも、ミーリル様が亡くなってから王家はおかしくなった。娘のショックで精神的に参ったというわけではなく、今までのことが嘘のように、不幸に見舞われるようになったのだ。
目の前のロブ様だけでなく、王女殿下全てが体調が悪いと訴えて寝込んでいるし、第二王女殿下はロブ様よりも厳しい状態にあるらしい。
「……ミーリルは幸運の存在だったというの? あの子がいたから、今までロブたちが元気でいられたということなの?」
王妃陛下は涙を流しながら、国王陛下に話しかける。
「あなた……、まだ、間に合うかしら」
「……生きているはずだ。だから、ロブが生きているんだろう」
「でも、狼に襲わせるために匂いのする食料を置いてきたんでしょう? 夜のうちに襲われているんじゃないの? しかも日にちも経っているわ」
「アレが死んだら、この様子だとロブや他の娘たちも死ぬだろう。幸運がなくなるということだからな」
「そんな……!」
「大丈夫だ。すぐに見つけて、地下牢で飼育すれば良い」
国王陛下は王妃陛下に優しく話しかけたあと、顔をこちらに向けて私を睨みつける。
「お前は外に出ていろ。そうだ。エイブランを呼んできてくれ」
エイブランとは陛下の側近の名前だ。
「承知いたしました」
慌てて私は部屋から出て、エイブラン様を呼びに行った。陛下の御学友だったエイブラン様は、卒業後、陛下の希望で側近になられた方だ。彼は執務室で仕事中だったが、すぐに切り上げてロブ様の部屋に向かってくれた。
さっきの話は何だったんだろうか。飼育って何かしら。ペットでも飼うつもり?
この後、どうすれば良いのかわからなかった私は、ロブ様の部屋の前の廊下で待つことにした。すると、部屋の中から悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「森の中に捨ててきたですって!?」
エイブラン様の声だった。すぐに陛下の怒鳴り声が聞こえてたけれど、その後は耳を澄ましても、たまにぼそぼそと話し声が聞こえるだけで、はっきりとした会話は聞こえない。
ミーリル様の遺体を確認したのはお医者様と両陛下だけだった。遺体を部屋から運んだのは兵士たちだし、ミーリル様の顔は知っているだろうから、ミーリル様の突然の死に、私も含めて多くのメイドは何の疑問も感じなかった。
もしかして、ミーリル様は森の中に捨てられた?
廊下に立っていた兵士たちを見ると、私と同じ考えに至ったのか、驚いた顔をしている。
兵士たちと顔を見合わせあった時、勢いよく扉が開いた。出て来たのはエイブラン様で私たちは知らないフリをしようとしたが無駄だった。
「話は聞こえていたでしょう」
「な、何の話でしょうか」
兵士の一人が聞き返した。エイブラン様はいらだった様子で眉根を寄せて叫ぶ。
「すぐに森に行くんですよ! 暗くなる前に戻りなさい」
「も、森に行って何を……」
「死んだはずの王女を捜しなさい」
兵士たちは戸惑ったようだったけれど、逆らうわけにもいかないのだろう。顔を見合わせて頷き合うと、自分たちの持ち場を離れていく。私はどうしたら良いのか迷っていると、エイブラン様に睨まれた。
「いいですね。今、聞いた話は他言しないように。誰かに話せば、どうなるかわかっているでしょうね?」
「承知いたしました」
そんな大事な話なら、大きな声でしないでちょうだいよ! まさか、わざと大声を出したわけじゃないわよね? だって、死んだはずの第四王女殿下を探さなければいけないんだもの。捜すものが何か教えてもらわなければ捜しようがないものね。
でも、もう手遅れのような気がするわ。第四王女殿下がいなくなってから、何日も経っている。
小さな子供が森の中で生きていけるはずがない。
それなのになぜ、エイブラン様は第四王女殿下を捜せなんて言ったのかしら? さっきの、国王陛下が言っていたことが関係するということ?
まあいいわ。私は第四王女殿下が生きていようが死んでいようが、どちらでも良い。何も聞かなかった。それでいいのよ。
「カーク様、フラル王国側に確認したところ、森での行方不明者の捜索依頼はないそうです」
「そうか。ありがとう」
カーク様は私を男性から受け取ると抱き上げた状態で、警備隊の人たちに命令する。
「いいか。彼女の名前はミリルで姓はない。親と森で生き別れてしまった少女だ。ミリルが先ほど、口にしたことは公言するな」
「承知しました!」
警備隊員たちが大きな声で返事をするから、私は驚いて体を縮こまらせた。すると、カーク様が優しく頭を撫でてくれる。
「いいか。君はミリルだ。ミーリルではない。ちゃんとした食事をとれていないようだから、これから、たくさん美味しいものを食べて、大きくなって強くなろうな」
「……はい」
どうして名前を変えるんだろう。
よくわからないけれど、本能的に頷かなければならないと思った。
あとになって教えてもらったのだけど、名前を大きく変えなかったのは、咄嗟に自分の名前をミーリルと言ってしまっても、何とか誤魔化せるだろうと思ったそうだ。
カーク様は私を連れて帰る前に、まずは家族や、王家に確認すると言って去っていった。私のことを任された警備隊員の若い女性が「お腹減ったよね?」と聞いてくれたので、「うん」と素直に頷いた。
女性は他の隊員に私を預けて姿を消すと、すぐに温かなスープを持ってきてくれた。城では毒見をしてもらっていたから、冷たい料理しか食べたことがなかった。温かい食事に明るい笑い声。初めての環境に戸惑いつつも、胸が温かくなった。
「寒かっただろ」と上着を貸してくれたり、「ミリルは偉い」「よく頑張ったな」など、褒めてくれる皆の言葉が嬉しくて涙がこぼれた。
お父様もお母様も、私のことが嫌いだから私を捨てた。お姉さまも弟も私のことを嫌っていた。だから、メイドたちだって、意地悪はしないけど優しくもなかった。
世界中の皆に嫌われていると思っていたけど、違ったんだ。
私の涙を見て、周りを囲んでいた皆は慌て始める。
「どうしたの? どこか痛むの? ……そうだわ! たしか、体が弱いと聞いたことがあるわ!」
「そういえばそうだったな。だから、公の場に出たこともないんだっけ」
「子供にはお菓子だろ。お菓子、誰か持ってねぇ!?」
「何言ってるんだよ! 病気なら薬だろ!」
慌てふためいている皆の姿がおかしくて「ふふふっ」と笑うと、皆は安堵したように笑った。
王城は遠いらしく、カーク様が戻ってくるまでは国境警備隊の浴場で体を洗い、隊員の子供のお下がりをもらって着替えた。仮眠室で眠る時には交代で誰かが一緒に眠ってくれた。誰かと一緒に眠ったり食事をすることは、私にとってとても幸せなものだった。
しかも、フラル王国を出てからの私は、体調が良くなり、今までは少し走れば息切れして倒れていたのに、長い距離を走っても倒れなくなった。
カーク様たちに保護された日から私の生活は一変した。
そして、変化があったのは私だけではなかった。私がハピパル王国に入ったその日から、フラル王国の王家に不幸が続くようになるのだった。
◇◆◇◆◇◆
(フラル王国のメイド視点)
私はフラル王国の王太子殿下、ロブ様付きのメイドだ。目の前にある大きな天蓋付きのベッドには、顔を赤くして意識が朦朧としているロブ様、そして、そんなロブ様を心配そうに見つめる両陛下と城のお抱えである、老人のお医者様がいた。
「ロブの熱が下がらないのはどうしてなんだ!」
「陛下、お言葉ですが、子供は高熱を出すものです。解熱薬も飲ませましたし、そのうち熱も下がるでしょう。ミーリル様もそうでしたので心配なさらなくても大丈夫ですよ」
「うるさい! ミーリルの話を持ち出すな!」
国王陛下は、すごい剣幕でお医者様を怒鳴りつけた。
ミーリル様はつい先日亡くなった、第四王女でロブ様の二つ年上の姉だった。生まれた時から王家の不幸をすべて引き受けていたかのような人で、ミーリル様だけが体が弱く、他の殿下たちは驚くくらいに健康で、彼らが行く場所の国民が雨を求めていれば雨が降り、晴れを求めていれば晴れるなど、驚くくらい運が良かった。
でも、ミーリル様が亡くなってから王家はおかしくなった。娘のショックで精神的に参ったというわけではなく、今までのことが嘘のように、不幸に見舞われるようになったのだ。
目の前のロブ様だけでなく、王女殿下全てが体調が悪いと訴えて寝込んでいるし、第二王女殿下はロブ様よりも厳しい状態にあるらしい。
「……ミーリルは幸運の存在だったというの? あの子がいたから、今までロブたちが元気でいられたということなの?」
王妃陛下は涙を流しながら、国王陛下に話しかける。
「あなた……、まだ、間に合うかしら」
「……生きているはずだ。だから、ロブが生きているんだろう」
「でも、狼に襲わせるために匂いのする食料を置いてきたんでしょう? 夜のうちに襲われているんじゃないの? しかも日にちも経っているわ」
「アレが死んだら、この様子だとロブや他の娘たちも死ぬだろう。幸運がなくなるということだからな」
「そんな……!」
「大丈夫だ。すぐに見つけて、地下牢で飼育すれば良い」
国王陛下は王妃陛下に優しく話しかけたあと、顔をこちらに向けて私を睨みつける。
「お前は外に出ていろ。そうだ。エイブランを呼んできてくれ」
エイブランとは陛下の側近の名前だ。
「承知いたしました」
慌てて私は部屋から出て、エイブラン様を呼びに行った。陛下の御学友だったエイブラン様は、卒業後、陛下の希望で側近になられた方だ。彼は執務室で仕事中だったが、すぐに切り上げてロブ様の部屋に向かってくれた。
さっきの話は何だったんだろうか。飼育って何かしら。ペットでも飼うつもり?
この後、どうすれば良いのかわからなかった私は、ロブ様の部屋の前の廊下で待つことにした。すると、部屋の中から悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「森の中に捨ててきたですって!?」
エイブラン様の声だった。すぐに陛下の怒鳴り声が聞こえてたけれど、その後は耳を澄ましても、たまにぼそぼそと話し声が聞こえるだけで、はっきりとした会話は聞こえない。
ミーリル様の遺体を確認したのはお医者様と両陛下だけだった。遺体を部屋から運んだのは兵士たちだし、ミーリル様の顔は知っているだろうから、ミーリル様の突然の死に、私も含めて多くのメイドは何の疑問も感じなかった。
もしかして、ミーリル様は森の中に捨てられた?
廊下に立っていた兵士たちを見ると、私と同じ考えに至ったのか、驚いた顔をしている。
兵士たちと顔を見合わせあった時、勢いよく扉が開いた。出て来たのはエイブラン様で私たちは知らないフリをしようとしたが無駄だった。
「話は聞こえていたでしょう」
「な、何の話でしょうか」
兵士の一人が聞き返した。エイブラン様はいらだった様子で眉根を寄せて叫ぶ。
「すぐに森に行くんですよ! 暗くなる前に戻りなさい」
「も、森に行って何を……」
「死んだはずの王女を捜しなさい」
兵士たちは戸惑ったようだったけれど、逆らうわけにもいかないのだろう。顔を見合わせて頷き合うと、自分たちの持ち場を離れていく。私はどうしたら良いのか迷っていると、エイブラン様に睨まれた。
「いいですね。今、聞いた話は他言しないように。誰かに話せば、どうなるかわかっているでしょうね?」
「承知いたしました」
そんな大事な話なら、大きな声でしないでちょうだいよ! まさか、わざと大声を出したわけじゃないわよね? だって、死んだはずの第四王女殿下を探さなければいけないんだもの。捜すものが何か教えてもらわなければ捜しようがないものね。
でも、もう手遅れのような気がするわ。第四王女殿下がいなくなってから、何日も経っている。
小さな子供が森の中で生きていけるはずがない。
それなのになぜ、エイブラン様は第四王女殿下を捜せなんて言ったのかしら? さっきの、国王陛下が言っていたことが関係するということ?
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