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多々ある中の1つのお話 2

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「ラルフ様!」

 フレイ様がいる別邸に行くと、別邸から出てきたラルフ様と出くわしました。

「リノア、き、いや、あなたはフレイに会わなくてもいい」
「ですが、アンジェ様が記憶を消されたのでしょう? フレイ様は私を覚えていないのなら、お会いしても良いはずです。私はラルフ様の婚約者なのですよね? ご挨拶するのはいけませんか?」

 ラルフ様は私の言葉を聞いて、眉間のシワを深くしたあと、大きく息を吐いて答えて下さいます。

「リノアが知っているフレイとは全く違うし、まだ、母上達の事も話せていないんだ。だから、リノアという婚約者がいる事も知らない」
「では、紹介して下さいませ」
「リノア、何を考えてる?」

 積極的に会おうとしている私を不思議に思ったのか、訝しげな顔で、ラルフ様は私を見られます。

「人は中々変われないものだとは思っています。ですが、フレイ様の場合、綺麗な状態の記憶しかないのであれば、今のうちに伝えられる事は伝えたいのです。記憶を取り戻した時に、自分がどんなにひどい事をしたか、わかっていただくために」
「綺麗な心の内に善悪を覚えさせたいんだな?」

 ラルフ様は私の言いたい事をわかって下さった様で、首を縦に振って下さいました。

「俺も一緒に行こう」
「駄目です。ラルフ様は少しお眠りになって下さい。カーミラ様の件もありますし、ほとんど寝ておられないのでしょう?」
「仮眠はとったから大丈夫だ」
「ですが」
「行こう」

 ラルフ様に促され、別邸の中にある投獄される以前のフレイ様のお部屋に向かいました。

「兄さん、どうしたんですか?」

 ベッドの上で上半身を起こしておられたフレイ様は、お風呂に入れてもらったのか、薄汚れていた肌は白くなり、ヒゲに関しては、昨日は無精髭状態でしたが、今はとても綺麗になっていて、ラルフ様と兄弟と言われて、納得できるくらい整った容姿になられています。

「お前に紹介したい相手がいてな」

 ラルフ様はそう言うと、私の背中を軽く押して、自分の前に出すと、私を紹介して下さいます。

「俺の婚約者のリノア・ブルーミング伯爵令嬢だ。彼女との婚約は政略的なものではない。ただ、俺が彼女を好きで無理矢理、婚約者になってもらった」
「リノア・ブルーミングと申します」

 深々と頭を下げて、ゆっくりと顔を上げる。

 もしかして、私を見たら記憶が戻ってしまうのではとドキドキしましたが、そんな事はなく、フレイ様は私に優しい笑顔を向けられました。

「弟のフレイ・クラークです。兄さんが無理矢理だなんて、よっぽど素敵な方なんですね」
「えっ!? いえ、そんな事はありません!」

 信じられません。
 これがあのフレイ様なのでしょうか。
 13歳の頃は純真だったという事でしょうか?
 一体、彼に何があって、あんな性格になってしまったのでしょうか。

「リノア?」

 固まってしまった私の顔をラルフ様が心配そうに覗き込んでこられます。

「申し訳ございません。少し、驚いてしまって…」
「そうだろうな。情けない話だが、俺の記憶のフレイもこのままの性格で止まっているんだ。それだけ、家族に注意を払わなかったという事でもあるがな」
「…何の話です? 5年分の記憶が消されたというのは聞きましたが、お2人の様子だと、俺はそんなに悪い事をしていたんですか?」

 困った様な表情のフレイ様に尋ねられ、この状態の彼になんと説明したら良いのかわからず、私とラルフ様は顔を見合わせたのでした。
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