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24 泣き言は言っていられません

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「どうにかして逃げようと思ってるのかもしれないけど駄目よ。あなたがそんな事をしたら、メイドの家族を殺すわ」
「メイドの家族は関係ないでしょう!」

 カーミラ様が扉を閉めると、一気に真っ暗になり、慌てて私は階段の手すりにつかまった。

「どうせあなたは死ぬのだから冥土の土産に教えてあげるわ。どうして、私の夫が私と結婚したのかわかる?」

 魔法を使って丸い光の玉を作り、カーミラ様の顔を照らすと、踊り場から私を見下ろしていらっしゃるせいか、それとも狂気の表情なのか、とても恐ろしく感じた。

「政略結婚ではないのですか…」
「それもあるけれど、私との子供が欲しかっただけ」
「…どういう事ですか」
「私の実家は魔力が人一倍高くて、使える魔法も数え切れない。今の私の様にね。そして、あの人にはほとんど魔力がなかった。だから、魔力の多い私と結婚したの」

 カーミラ様はラルフ様のお父さまに本当は愛してもらいたかったという事なのでしょうか?
 彼女の仰ってる事は、政略結婚の意味合いと近いものです。
 他の方達だって、血統や爵位など、お互いにメリットを考えての結婚なのですから。

「悲しい事ですが、辺境伯以上の爵位を持つ方には、それが当たり前の世界なのです。もちろん、伯爵家以下でも、その様な方もいらっしゃいます」
「そうね。そうよね。あなたにはわからないわよね。まあいいわ。私は色々な魔法が使えるの。遠隔で人を殺す事だって可能。だから、メイドの家族を殺すのは今すぐにでも可能よ」
「では、なぜ今まで私を殺さなかったんですか」
「悔しいけれど、私よりも魔力のある人間が、あなたに魔法攻撃をはね返す魔法をかけているから無理なの」

 そんなものをかけてもらった記憶はありませんが、考えられるとしたらアンジェ様です。
 もしかすると、何度かお会いした時のどの日かに、私の知らない間にそんな魔法をかけてくださっていたのかもしれません。

「でも、私に魔法がかけられているなんて、どうしてそんな事がわかるのです?」
「そんな事、あなたに話す必要はないでしょう!」

 カーミラ様はムキになって話すのを拒まれます。
 もしかしたら、以前に私に何か魔法をかけようとしたけれど、自分に跳ね返ってきたのかもしれません。

「ラルフは腕の良い人間を見つけたようね。さっきの騎士も火傷で済んだようだけど、普通なら腕が消えてなくなっていてもおかしくないような魔法をかけたのに。彼らにもあなた程じゃないにしても守護の魔法をかけているようね」

 アンジェ様は本当にすごいのです!
 って、感動している場合じゃありませんね。

 話していると、カーミラ様の背後が騒がしくなってきて、扉が開けられました。
 真っ暗な中に一気に光が差し込んで、眩しさに目を細めたと同時に、カーミラ様が私を突き飛ばしました。
 なんとか手すりにつかまり、転げ落ちずに済みましたが、階段の中頃付近で手すりにぶら下がるようになってしまった為、両足を階段に強く打ち付ける形になってしまいました。

 痛いですが、泣き言は言っていられません。
 
「あら、落ちなかったの」

 カーミラ様が残念そうな顔をしながら、階段を降りてこられます。

「母上!」

 ラルフ様の声が聞こえ、カーミラ様が足を止めて振り返って叫びます。

「ラルフ、来ては駄目よ!」

 ラルフ様が扉よりこちらに入ってこようとするのを見て、私も慌てて叫ぶ。

「男性のみ新たな侵入を拒む魔法がかけられているようなのです! 入ろうとすると危険ですからお止め下さい!」

 私の言葉を聞いて、ラルフ様は横にいたケイン様に何か話しかけると、ケイン様は頷いて、その場を離れる。

「助けを呼びに行くつもりね? 魔力が高い人間を呼んでも無駄よ? 他人のかけた魔法は解除できないんだから」

 カーミラ様は笑いながら言われましたが、アンジェ様は女性ですし、中に入る事は出来ますから、魔法対決となりますと、アンジェ様に分がありそうです。

「母上、何をしようとしているんです。リノアをどうするつもりですか」
「ラルフ、あなたは騙されているのよ」
「なんの話ですか」
「彼女は駄目よ。彼女を選んだら、あなたは不幸になるわ! 彼女が来てから、不幸なことばかり続いてる! 彼女がいなくなれば、また昔の様に幸せな生活が送れるの」

 カーミラ様は私に背を向けておられるので、どんな顔をしておられるかはわかりませんが、声だけで判断すると、笑っているのだと思われます。
 今のうちに、カーミラ様を押し退けて外に出たいところですが、足が痛くて思うように動けません。
 膝の擦り傷は動けない程ではありませんが、足首を捻挫してしまったようで、立っているだけで痛いです。

「そんな生活を送れるわけがないだろう」

 逆光でラルフ様の顔ははっきりとは見えませんが、怒りや悲しみなどが入り混じったような表情をしておられるように見えます。

「大丈夫よ、ラルフ。私が目を覚まさせてあげる」

 カーミラ様はそう言うと、私の手をつかみ、階段を駆けおりたのです。
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