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16 待っている事にしようと思います

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 ソラがお父さまから聞いた話によると、お父さまからトーディ家に文書を送ったところ、トーディ男爵からはすぐに謝りの手紙が届いたそうなのです。
 けれど、それで終わりではなく、少ししてから、ランドン辺境伯からお父さま宛に「貴殿の躾がなっていないせいで、私の愛する人が悲しい目に合った」なんて内容のお手紙が届いたようです。

 パメル様が泣きついたのか、それともトーディ男爵が泣きついたのか、それとも他の第三者が介入したのか、一人、疑わしき人物はおりますけれど、まだはっきりとはわかりません。

 お父さまは社交場ではわりと顔が広い方ですから、トーディ男爵としては変な噂が流れるのを嫌って、表向きかもしれませんが、すぐに謝ってこられたのでしょうけれど、ランドン辺境伯はそんな事は関係ありませんから、苦情の手紙なんかを送ってこられたんでしょうけど。

「悲しい目にあった、という事ですけど、自分とお似合いと言われて悲しんでいるという事を本人は知っていらっしゃるんでしょうか?」
「知らないだろう。パメルがことを荒立てない様にしてほしくてランドンに頼み、ランドンがそれを真に受けて、何も調べずにブルーミング伯爵に手紙を送りつけたんじゃないか?」
「迷惑な話なのです」

 パメル様の言う事は何でもきくという事でしょうか。
 あ、何でもきいていたら、今頃は諦めていらっしゃいますかね。

「どうする? 俺が出ようか?」

 ラルフ様が私の頬に大きな手を当てて言いました。

「このままでは、お父さまがランドン辺境伯に謝らないといけなくなりますわよね」
「当主様はリノア様が悪い事をしていないなら、言いがかりだと反論されるそうです」
「そうなのですね」

 ソラの言葉を聞いて、ラルフ様の手の上に自分の手を当てて少し考えていると、ラルフ様が頬から手をはなし、そのかわりに当てていた私の手をつかまれます。

「ブルーミング伯爵は返信する必要はない。どうせランドンの事だ。手紙の返事なんて待ってられないだろう」
「そう言われてみればそうですわね」

 もしかしたら、私に文句を言う為に、すでにこちらに向かっているかもしれません。

「リノア」
「はい?」
「女性同士の戦いには割って入ってほしくなさそうだが、相手がランドンなら俺が出ても良いよな?」
「そうしていただけると助かります。相手は辺境伯様ですから、私の身分ではちょっと…。ただ、婚約者の身分ですのに、そんな事をお願いしてもよろしいのですか?」

 パメル様がどんな話をされたのか気になりますし、私がお相手しても良いかなとは思いますが、お馬鹿さんとはいえ、相手は辺境伯ですからね。
 何より、激高されて暴力でもふるわれてはかまいません。
 もちろん、わざと暴力をふるわせるという手もありますが、わざわざ痛い思いはしたくないのです。

「かまわない。元々、俺とアイツは仲が良くないしな。それと、俺の敷地内であったトラブルだから、俺からもトーディ家には連絡を入れる。これもトーディ男爵に送るのであって、パメルに送るのではない」

 ラルフ様の言葉は、本当ならパメル様に送りたいけれど、男性であるトーディ男爵に送ると言いたげです。

「…ラルフ様、もしかして怒ってらっしゃいます?」
「それはそうだろう。今だっておさえている方だ。もし熱いお茶をリノアにかけて、火傷でもさせていようものなら」
「熱いお茶を頭からかけられましたら、さすがの私も怒りますよ」
「怒るとかいう問題ではない。火傷していたらどうするんだ」

 ラルフ様は難しい顔をして言われましたが、すぐに優しい顔になって、私に言います。

「一つだけ良い事がある」
「何でしょう?」
「ミリーがまたうちで働きたいと言ってくれている」
「本当ですか!?」

 胸の前で両手を合わせて聞き返す。

 ケイン様とミリー様がうまくいってくれただけでも嬉しい事ですのに、クラーク邸で騎士に戻られるとなると、私もミリー様とお会いできる機会が増えるのです!

「ソラが出かける時は事前に言ってくれれば、ミリーを回そう」
「あと、休みがほしいです」

 ソラがきっぱりと言いました。

「そ、そうですね。ソラ、こちらに来てから、休む暇がないですよね」

 メイドに関しては元々のクラーク邸の方がいらっしゃいますから、交代で休めましたが、私の執事はソラしかいませんでしたからね…。

 廊下で長話をしていますと、ラルフ様の執事がやって来られました。

「お話中申し訳ございません。お客様が来られております」
「リノアにか?」
「ランドン辺境伯様がリノア様を出すように、とえらく興奮されておられまして」
「理由はわかっている。応接間に案内してしばらく待たせろ。遅いと文句を言い出しても絶対に部屋から出すな」
「かしこまりました」

 執事は一礼して、元来た道を戻っていきます。

「すぐには行かれないのですか?」
「約束もなしに押しかけてきたんだから、待たすくらいしないとな。どうする? リノアも一緒に行くのか?」
「もちろんです! ラルフ様がいらっしゃるなら暴力をふるわれたりする事もないでしょうし」
「そうだな。もしそんな事をしたら、あいつをこの世から消してしまいそうだ」

 ラルフ様は笑顔で言ってくださいましたが、内容はとっても怖いのです。
 とりあえず、ラルフ様が向かう気になるまで、私は部屋で待っている事にしようと思います。
 
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