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第27話 プロポーズ
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「突然、押しかけてしまい申し訳ございません」
ドボン公爵令息は、金色の髪に青の瞳を持つ、がっしりとした体躯の青年で、白い歯を見せて爽やかに笑う人だった。
王妃陛下と関わっていると知らなければ、好印象な人だったと思われる。
ディルがいないのは困るけれど、今はヨツイ夫人がいてくれて、婚約者以外の殿方と2人にはさせられないと言ってくださり、今は私の隣に座ってくれていて、とても心強い。
「ご用件はなんでしょうか?」
警戒しながら尋ねると、ドボン公爵令息は微笑む。
「そんなに警戒しないで下さい。ヨツイ夫人もいらっしゃいますし、あなたを無理に口説こうなんて思っていませんから」
「それは当たり前の事だと思います。私はディル殿下の婚約者として、こちらに参りましたから。そんな事をされますと不敬になりますよ?」
「その件ですが、王妃陛下からは何もお聞きになられていないのですか?」
ドボン公爵令息が不思議そうな顔をするので、簡単に答えを返す。
「お話の途中で王妃陛下のご気分が優れなくなったので、詳しい話はお聞きできていません」
「……そうですか。では、僕から改めて言いましょう。……僕と結婚して下さい」
「ドボン公爵令息、あなたは、自分が何を言っていらっしゃるか理解されていますか?」
「もちろんですよ」
「そうとは思えません。理解されているのなら、そんな事を口に出す事は出来ないはずです」
「気持ちを伝える事の何がいけないのですか」
ドボン公爵令息は、悲しげな顔をして聞いてくる。
この表情が演技なのかどうなのかは、見るだけではわからない。
でも、彼はルシーナ達のお兄様だもの。
信用なんてできない。
「ドボン公爵令息」
「シンラとお呼びください」
「……シンラ様、何度も申し上げますが、私はディル殿下の婚約者です。あなたのお気持ちは有り難く思いますが、受け入れる事はできません」
「レイア様、少しだけ考えていただけませんか。今度の婚約披露パーティーで答えを聞かせてください。それまでに、僕はあなたに愛してもらえる様に努力します」
この人は何を言っているの?
この人がそんな事を決める権利なんてないでしょう?
「王妃陛下の許可を取っていると仰るのでしょうか?」
黙って聞いていたヨツイ夫人が口を開いた。
「そうです。王妃陛下から許可をいただいております」
ヨツイ夫人の問いに答えた後、シンラ様は言う。
「レイア様、僕はあなたに幸せになって欲しいんです。だからぜひ、僕の手を選んでほしいと願っています」
「ディル殿下が相手だと、私は幸せになれないと仰るんですか?」
「そうです。あなたには僕がふさわしい様に、ディル殿下にはもっとふさわしい方がいらっしゃいます」
「……それが本音ですか…」
ディルの婚約者から私を辞退させて、ドボン公爵家の長女のリシーナ様とディルを結婚させようとしているのね?
王妃陛下は私とディルをどうしても結婚させたくないみたい。
それはどうしてなのかしら?
ディルの事が好きじゃないから、ディルを結婚させたくない?
ううん、違うわね。
私と結婚させたくないだけなのかも…。
「レイア様、僕は本気です。あなたの気持ちを必ず僕に向けてみせます」
「ドボン公爵令息、その様な戯言はその辺にして下さいませ。レイア様はお忙しいのです。今日はもうお暇願えますか?」
ヨツイ夫人に邪魔をされ、一瞬、シンラ様は面白くなさそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔を作って頷いた。
「これは失礼いたしました。そうですね。本日は失礼致します。突然の訪問に関わらず、ご対応いただき、ありがとうございました」
「いえ。幸せを願ってくださっているお気持ちは大変嬉しいですわ。もちろん、突然、訪ねてこられる事はマナー違反ですけれど」
「レイア様、僕は本気であなたを幸せにしたいと思っています」
「幸せは自分で見つけますわ」
ニコリと微笑むと、シンラ様は何か言いたげにしたけれど、ヨツイ夫人の方を見て諦めた様だった。
ヨツイ夫人がいてくれて、本当に助かったわ。
シンラ様が部屋から出ていった後、ヨツイ夫人に礼を言う。
「ヨツイ夫人、ありがとうございました」
「とんでもございません。それにしても、勝手な申し出でございましたね…」
「本当に……」
ヨツイ夫人と顔を見合わせて、ため息を吐いた。
それから数時間後、視察から帰ってきたディルが自分の部屋には戻らずに、直接、私の部屋にやって来たのだった。
ドボン公爵令息は、金色の髪に青の瞳を持つ、がっしりとした体躯の青年で、白い歯を見せて爽やかに笑う人だった。
王妃陛下と関わっていると知らなければ、好印象な人だったと思われる。
ディルがいないのは困るけれど、今はヨツイ夫人がいてくれて、婚約者以外の殿方と2人にはさせられないと言ってくださり、今は私の隣に座ってくれていて、とても心強い。
「ご用件はなんでしょうか?」
警戒しながら尋ねると、ドボン公爵令息は微笑む。
「そんなに警戒しないで下さい。ヨツイ夫人もいらっしゃいますし、あなたを無理に口説こうなんて思っていませんから」
「それは当たり前の事だと思います。私はディル殿下の婚約者として、こちらに参りましたから。そんな事をされますと不敬になりますよ?」
「その件ですが、王妃陛下からは何もお聞きになられていないのですか?」
ドボン公爵令息が不思議そうな顔をするので、簡単に答えを返す。
「お話の途中で王妃陛下のご気分が優れなくなったので、詳しい話はお聞きできていません」
「……そうですか。では、僕から改めて言いましょう。……僕と結婚して下さい」
「ドボン公爵令息、あなたは、自分が何を言っていらっしゃるか理解されていますか?」
「もちろんですよ」
「そうとは思えません。理解されているのなら、そんな事を口に出す事は出来ないはずです」
「気持ちを伝える事の何がいけないのですか」
ドボン公爵令息は、悲しげな顔をして聞いてくる。
この表情が演技なのかどうなのかは、見るだけではわからない。
でも、彼はルシーナ達のお兄様だもの。
信用なんてできない。
「ドボン公爵令息」
「シンラとお呼びください」
「……シンラ様、何度も申し上げますが、私はディル殿下の婚約者です。あなたのお気持ちは有り難く思いますが、受け入れる事はできません」
「レイア様、少しだけ考えていただけませんか。今度の婚約披露パーティーで答えを聞かせてください。それまでに、僕はあなたに愛してもらえる様に努力します」
この人は何を言っているの?
この人がそんな事を決める権利なんてないでしょう?
「王妃陛下の許可を取っていると仰るのでしょうか?」
黙って聞いていたヨツイ夫人が口を開いた。
「そうです。王妃陛下から許可をいただいております」
ヨツイ夫人の問いに答えた後、シンラ様は言う。
「レイア様、僕はあなたに幸せになって欲しいんです。だからぜひ、僕の手を選んでほしいと願っています」
「ディル殿下が相手だと、私は幸せになれないと仰るんですか?」
「そうです。あなたには僕がふさわしい様に、ディル殿下にはもっとふさわしい方がいらっしゃいます」
「……それが本音ですか…」
ディルの婚約者から私を辞退させて、ドボン公爵家の長女のリシーナ様とディルを結婚させようとしているのね?
王妃陛下は私とディルをどうしても結婚させたくないみたい。
それはどうしてなのかしら?
ディルの事が好きじゃないから、ディルを結婚させたくない?
ううん、違うわね。
私と結婚させたくないだけなのかも…。
「レイア様、僕は本気です。あなたの気持ちを必ず僕に向けてみせます」
「ドボン公爵令息、その様な戯言はその辺にして下さいませ。レイア様はお忙しいのです。今日はもうお暇願えますか?」
ヨツイ夫人に邪魔をされ、一瞬、シンラ様は面白くなさそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔を作って頷いた。
「これは失礼いたしました。そうですね。本日は失礼致します。突然の訪問に関わらず、ご対応いただき、ありがとうございました」
「いえ。幸せを願ってくださっているお気持ちは大変嬉しいですわ。もちろん、突然、訪ねてこられる事はマナー違反ですけれど」
「レイア様、僕は本気であなたを幸せにしたいと思っています」
「幸せは自分で見つけますわ」
ニコリと微笑むと、シンラ様は何か言いたげにしたけれど、ヨツイ夫人の方を見て諦めた様だった。
ヨツイ夫人がいてくれて、本当に助かったわ。
シンラ様が部屋から出ていった後、ヨツイ夫人に礼を言う。
「ヨツイ夫人、ありがとうございました」
「とんでもございません。それにしても、勝手な申し出でございましたね…」
「本当に……」
ヨツイ夫人と顔を見合わせて、ため息を吐いた。
それから数時間後、視察から帰ってきたディルが自分の部屋には戻らずに、直接、私の部屋にやって来たのだった。
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