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第26話 公爵令息の来訪

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「ディル…?」
「この人に謝る必要はない。ただの嫌がらせだからな。だから、こっちもやり返しただけだ」
 
 ディルは王妃陛下を睨んだまま、私の疑問に答えてくれた。

「あああっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 ディルが睨んでいる事などおかまいなしで王妃陛下は叫び続ける。

「そんなっ…! そんなつもりじゃなかったのよぉ!」

 あまりの叫び声に驚いて動けなくなっていると、ディルが立ち上がり、扉の方に向かうと、扉を開き、部屋の外にいた王妃陛下の侍女に叫ぶ。

「こんな状態じゃ話す事なんて無理だろ。連れ帰ってくれ」
「しょ、承知いたしました!」

 状況を把握した王妃陛下の侍女は焦った顔をして部屋の中に入ってくると、パニックになっている王妃陛下に声を掛ける。

「王妃陛下、しっかりなさって下さい!」
「いや、いや、許して…。許してぇ!」

 王妃陛下は涙をボロボロと流しながら叫んでいる。

 お気の毒にとも思うけれど、これはちょっと過敏すぎだと思うわ…。

 もしかして、ニール殿下の死は、私達の知らない何かがあったりするのかしら…?

 侍女は王妃陛下の体を支えながら、ゆっくりと歩き、部屋を出ていった。

 少しの沈黙の後、ディルが口を開く。

「ごめん。ああなるとわかっててやった。驚いただろ?」
「驚きはしたけれど、ディルが仮面をつけている理由は十分にわかりました。あの様な反応をされてしまったら、城内を歩くのも気が抜けないですものね」
「まあな…。それよりも大丈夫か…?」
「……私は大丈夫です」

 好きだった相手に意地悪をされたなら傷付きもするだろうけれど、何の感情も抱いていない相手にだったから、腹が立ちはしたけれど傷付いてはいない。

「助けてくれてありがとうございます」
「気にしなくていい。それよりもドボン公爵令息の件だが…」
「私に選択権はないようでしたが、ディルにはあるはずです。だから、ディル次第だと思います」
「そうか…。俺はレイアをドボン公爵令息に渡すつもりはない」

 ディルの言葉に胸が早鐘を打つ。

 何なの、この感覚。

 ディルを見ていられなくなって、視線をそらしてから言う。

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」
「それでレイア、さっきの話の続きなんだが…」
「さっきの…話の続き…ですか…?」

 心臓がうるさい。
 もしかして、心臓発作か何か…?
 お医者様に相談しないといけない…?

 胸をおさえて大きく深呼吸していると、ディルが心配そうな顔をして近寄ってくる。

「大丈夫か? 体調が悪いのか?」
「……はい。胸が苦しくて…」
「さっきの王妃陛下の件でショックを受けたのかもしれないな…。本当にごめん。部屋まで送る」
「大丈夫です。それよりも、話とはどんな話ですか?」
「いや、やっぱり今日はやめておく。これ以上、ストレスを与えたくないから」
 
 ディルが悲しげに微笑んで言った。

 正直にいうと、気になりはしたけれど、今は聞きたくなかった。

 だから、体調が悪くなって良かったと思ってしまった。

 ディルは私にどんな話をするつもりだったの?
 さっきの話というのは、ディルの選択権の話だったわよね…?

 ディルは何を言おうとしてたのかしら。

 気になるけれど、なぜか怖くて聞きたくなかった。

 だから、部屋に帰るまでに聞くチャンスは何度もあったのに、聞く事が出来なかった……。

 そして、次の日、私のもとにお客様がやって来た。

 約束をしていない相手だった。
 けれど、無視する事ができなかったのは、王妃陛下の命令で、どんなスケジュールだろうと、調整して会うようにと言われてしまったから。

 ディルは視察に出かけていて、城内にはいない。

 わざと、ディルがいない日にこちらに呼んだみたいだった。

 本来なら、昨日の内に話しておくつもりだったんでしょうけれど、あんな事があって無理になったんだわ。

 私を訪ねてきたのは、昨日、王妃陛下の口から出てきた名前の人、シンラ・ドボン公爵令息だった。

 まさか、本気で私を嫁にしようと思っているんじゃないわよね…?
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