上 下
12 / 33

第11話 仮面舞踏会

しおりを挟む
 次の日、朝早くから家族会議が開かれ、改めて私の意思確認がされた。

 私がセレン様の代わりに嫁に行く事に対して異議はない事を再度伝えると、お父様達も断れるはずがない事をわかっていたから、私の言葉に頷いた後、「守ってやれずに申し訳ない」と何度も謝ってくれた。

 でも、良い様に考えれば、マシュー様の所に嫁ぐよりもディルの所に嫁いだ方が良いと思うのよね。

 もちろん、いじめられたりする可能性はあるけれど、ディルは味方になってくれると思うし、なんとかなるはずだわ…、と、思いたい。

 マシュー様の場合は味方になってくれそうにないし。

 くよくよしていても始まらない。
 だって、もう、あの頃には戻れないんだから。
 というか、もう戻りたくもないけど…。

 マシュー様の婚約破棄については、ロマウ公爵と昨日のうちに今日の朝に会う約束をしていたので、朝早くから我が家に来てくださり、婚約破棄の手続きがとられた。

 慰謝料について話されたけれど、私の家も公爵家でお金に困っていない事もあり、金銭ではなく、プラウ家に何かあった時には必ず助力してもらうという約束をした。

「セレン様はどうなるのでしょうか? マシュー様と結婚を…?」
「いや、マシューは公爵令息ではなくなるから、セレン様との婚約は無効になるだろう」
「そういえば、セレン様はどうなるのでしょうか?」

 ロマウ公爵は私の質問に首を傾げた後、苦笑して答えてくれる。

「両陛下だけで罰を決めるのは甘くなる可能性があると言われているから、元老院が決めると思う」

 元老院というのは、陛下に助言したり、政治を行う人達の事で、多数決性になる為、両陛下が甘い判断を下したとしても、元老院の人達が過度ではなく適度な罰を与えてくれるでしょうね。

 そういえば…。

「マシュー様とミーヨ様の事はどうされるんですか?」
「…その事なんだが、二人共、昨日は屋敷には帰ってきていないんだけど、何か知らないか?」
「えっ?」

 ロマウ公爵の言葉に、驚きの声を上げつつ、昨日の事を思い出して考えた。

 まさか、殺したりなんかはしていないわよね?
 そこまでの罪じゃないはずだし…。

「どうなったか、ディルに確認しておきます」

 ロマウ公爵は昨日のことを知らないから、どうしてディルの名前が出てくるのか不思議そうにしていたけれど、深くは聞いてこられなかった。

 ミーヨ様達のせいで、ロマウ家はそれどころじゃないものね。

 ロマウ公爵が帰られた後、私とお父様はディルが滞在している別邸に向かうと、昨日のヨツイ夫人が出迎えてくれた。

 簡単な挨拶を済ませた後、メイドとヨツイ夫人が応接室に案内してくれる事になり、後を付いて歩いていると、夫人が声を掛けて下さった。

「昨日はお疲れ様でございました」
「こちらこそ…。私の元婚約者がご迷惑を…」
「とんでもございません。躾け甲斐がございます。まだまだ教育が必要ですので、こちらに滞在している間は面倒を見させていただきます」
「し、躾け甲斐…?」

 どんな事をされているのか気になったけれど、内容が怖くて聞けなかった。

「ロマウ公爵に連絡を入れてもよろしいでしょうか? 探しておられましたし、離縁の手続きもあるかと思うのです」
「ええ。承知いたしております。レイア様達が到着されたと同時に家に帰らせております」
「そ、そうなんですね…」
「もちろん、足枷をつけておりますので、逃げることは出来ません」 

 ヨツイ夫人はニコニコと温和な笑みを浮かべて私を見た。

「そ、そうですか…」

 なんと返したら良いのか分からなくて、曖昧な答えを返した。
 そこで、応接室の前まで来たところでヨツイ夫人とはお別れし、ディルと側近の人2人と私、私のお父様の5人で今後について話し合う事になった。

 私とディルとの婚約はターリー国の国王陛下に無事に認められ、準備が出来次第、ターリー国に来るようにとの指示があった。
 王太子妃教育に関しては何も言われていないけれど、呼ばれたという事はあるのかもしれない。

 その際には、私の侍女を連れて行くつもりだけれど、出来れば早い内に国に返してあげたい。
 ターリー国は山を越えれば3日でたどり着けるけれど、山には山賊がいて護衛がいなければ襲われる可能性が高いから危険が伴うので、そう何度も里帰りは出来ないと思う。
 侍女達は皆、良い子だから、私が他国で1人は心細いだろうからと、嫁入りの際には一緒に付いていくと言ってくれてはいるけれど、何だか申し訳ないもの。

 この事に関しては、セレン様はターリー国に行く婚約者としては適任だったかもしれないわ。
 他国に1人で行く事に苦はなさそう。
 もちろん、他の事に関しては、国際問題に発展する可能性もあるから、私が嫁にいく方がマシだと思うけれど。

 用意された書類にサインをして、私は正式にディルの婚約者になった。

 書類にサインすると、お父様と側近の方達は、他に話があるからと応接室から出ていかれ、私とディルだけになった。
 その時にディルから、パーティーに一緒に行ってほしいとお願いされた。

 しかも、そのパーティーというのが…。

「仮面舞踏会ですか?」
「ああ。元々は俺とセレン殿下との婚約を祝って招待されてたんだ。向こうはセレン殿下がお目当ての様な感じだったけどな。仮面舞踏会にしたのは、俺が仮面だからだろ」
「気を利かせてくださったのかどうなのか、判断がしにくいですね…。どなたからのお誘いなんです?」
「リビンノ国の王太子、キズレイ・キートン」

 ディルから相手の名前を聞いて、私は思わず眉をひそめた。
 そんな私の様子を見て、ディルが聞いてくる。

「無害だと聞いてるけど?」
「政治に関しては無害だと思いますが、彼はかなりのナルシストだと聞いた事があります」
「ナルシスト…?」
「はい。悪い事ではないと思うのですが、自分の顔に自信を持っていらっしゃいます。良くないのは、他者の顔を悪気なく貶す事です」
「セレン殿下と同じタイプか?」
「セレン様はわかっていて、人を貶すタイプですから、セレン様よりかはマシだと思うのですが…」

 婚約者の変更については、ターリー国の方からリビンノ国に連絡を入れてくれたらしい。
 仮面舞踏会に行く事に関しては異議はなかったけれど、嫌な思いになる様な事を聞かされる。

「キズレイ殿下はセレン殿下に会う事を望んでいるから、彼女を彼に会わせないといけない。それに関しては、ロトス国にお願いするけどな」
「……セレン様への罰は仮面舞踏会後に執行されるという事になりますね」
「ああ。ただ、鉢合わせしない様に、セレン殿下の動向は信頼している人間に見張らせる」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません…」
「また、俺に近付いてこられても困るから、そうするだけだよ」

 ディルは昨日のセレン様の様子を思い出したのか、大きく息を吐いて言ったのだった。





 そして、それから数日後、私はディル達と一緒にリビンノ国に向かって旅立った。

 リビンノ国にはパーティーの日の前日入りをし、旅の疲れを少しだけ癒やしてから出席した。
 ちなみに、私の仮面はディルとお揃いにした。

 そこまで本格的にする必要はないと言われたけれど、おかしいわけでもないので同じにした。
 その方がわかりやすいと思ったから。

 当日、パーティー会場に行ってみると、色々な仮面や被り物をつけている人達がいて、とても興味深いんだけれど、仮面のせいで視界がほとんどなくて、じっくり見る事は出来なかった。

 この世界での仮面舞踏会は、相手の素性に触れないようにするのがマナー。
 だから、婚約を祝ってくれているパーティーなのに仮面舞踏会というのが謎だわ。
 祝の余興として開かれる事はあるみたいだから、そういう意味合いなのかしら?

 ディルと一緒に会場の端で話をしていると、近寄ってくる人がいた。

「ようこそ我が国へ。今日のパーティーでは僕の美しい顔をぜひとも堪能していって下さい」
「……それはどうも」
「……あ、ありがとうございます」

 私とディルは礼を言い、話しかけてきた相手を見つめた。

 長身痩躯で金色の髪にエメラルドグリーンの瞳、自分で美しい顔というだけに、かなりの美丈夫だった。
 
 噂通りの美しさといえば美しさだけれど、どうして、この人は仮面をしていないのかしら?

 キズレイ殿下は目にかかりそうになった前髪を優雅に払いながら、私達に尋ねてくる。

「うーん。君達はどうして仮面をしているんだい? 仮面をしているという事は、やはり不細工なんだね?」
「……」
「はあ?」

 ディルが眉根を寄せて聞き返した。

 その気持ちはよくわかるわ。

 だって、今日って、仮面舞踏会なのよね?

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

処理中です...