上 下
9 / 11

9 私の婚約者が浮気をする理由 3

しおりを挟む
 ジェラ伯爵令嬢は、ニールからピロートークで聞いた話をララベルに教えてくれた。

 彼はまだ、ララベルを愛しているが、一番の関心はフィアンであり、今の彼の望みはフィアンの死だった。

 比べられる人間がいなくなり、楽になるからだという。
 何より、彼が死ねば、ララベルも彼を忘れるだろうと思った様だった。

(彼にフィアン兄様をそこまで憎ませたのは、私にも一因があるのね…。だけど…)

 ララベルは小さく息を吐いた後、呟く。

「ニール様は嘘をついていたんですね…」
「何がですか?」

 ジェラ伯爵令嬢に聞き返され、ララベルは、以前、ニールから聞いた話を彼女に伝える。

「私には、商売の女性としか関係を持っていないと…」
「最初はそうだったようです。でも、フィアン様への対抗意識が強くなってからは、特別な私だけは違いました」

 ジェラ伯爵令嬢はララベルに向かって、勝ち誇った様な笑みを浮かべた。 
 ララベルは相手の挑発は気にせずに、自分の聞きたい事を聞く。

「ニール様はフィアン兄様との縁談を断った方に声をかけていたんですか?」
「はい。何人かはお断りされた様ですが、何人かとは、どこかへ出かけたりされた様です。体の関係については、ないと信じています」

 ジェラ伯爵令嬢は、とにかく、ニールには自分しかいないと言いたい様だが、ララベルにはそんな事はどうでも良かった。

(どういう事なの? フィアン兄様は婚約者候補の人から断られてばかりで、今も婚約者はいない。ソフィーが言うには今の今まで、彼女もいないと言っていたわ…。ニール様がフィアン兄様をふった女性ばかりに声を掛けているというのは…、フィアン兄様への当てつけ? でも、伯爵令嬢にまで手を出すなんて…。しかも、複数回あるみたいだし)

「あなたのご両親はこの事を知っていらっしゃるんですの?」
「はい。知っています。実は…」

 ジェラ伯爵令嬢がその後に話した内容を聞いたララベルは頭を抱えたのだった。




 そして、次の日、ララベルは魔石を使って、メフェナム邸にやって来た。

 ニールは今までとは違い、彼女を屋敷のポーチで出迎えた。

「ララベル。やっと俺の気持ちを理解してくれたのか?」
「理解はできていませんが、お話したいと思っておりますの。今まで、私達は話し合いが足りていなかったと思いますので」

 メイドに応接室に案内されている途中で、ニールが話しかけてきたので、ララベルは苦笑して答えた。
 今回は侍女を1人連れてきていて、騎士と侍女には部屋の前で待っていてもらい、何か大きな物音がしたら、すぐに入ってきてもらう様にお願いした。
 メイドがお茶をいれて去っていった後、当たり前の様に隣に座っているニールに、ララベルは早速、本題を切り出す。

「ニール様。昨日ですが、私の元にジェラ伯爵令嬢がいらっしゃいました」
「……なんだって?」

 先程までの笑顔が消え、ララベルに聞き返したニールは眉根を寄せて続ける。

「彼女に何か言われたのか?」
「あなたとの関係をお聞きしました。商売の女性としか関係を持たれていないと仰っていましたが、あれは嘘だったのですね?」
「そ、それは…、彼女とは割り切った関係で」
「彼女はそう思っておられませんわよ?」

 ララベルは一度、目を伏せた後、ニールに顔を向けて続ける。

「あなたの考えていらっしゃる事がわかりません。あなたはどうして、浮気を続けているんです? 私がフィアン兄様を忘れられない事への抗議ですか?」

(その場合は、私に非があるわ。ここまで追い詰めてしまったのだから…)

「…違う」
「では、何なのですか? 私を悲しませたい? 怒らせたい? 何なのですか? お願いです、ニール様。あなたは、どうして浮気をされるんですか? その理由を教えていただけませんか?」
「話を聞いても、俺を嫌ったりしないなら…」
「承諾しませんと、教えていただけないのですわよね?」
「…ああ」
「わかりました。嫌わない、という事だけはお約束します」

 ララベルが頷くと、ニールはホッとした様に口を開く。

「最初は…、君に嫉妬してほしかった」
「…最初は?」

 ララベルが聞き返すと、ニールはぽつりぽつりと話し始めた。

「ああ。だけど、だんだん、フィアン様が憎らしくなっていく気持ちの方が強くなった。君が思いを寄せているだけじゃない。友人も多く、賢くて、滅多な事じゃ怒らない。俺が嫌味を浴びせても、素直に謝るだけで、自分が悪いと思った場合は、素直に非を認めるんだ」

(将来、公爵になるという事で、フィアン兄様は感情のコントロールを、ミーデンバーグ公爵に幼い頃から教えられているから、そのせいなのよね…。ソフィーが言っていたけれど、学園時代は、朝は鍛錬、夜は学園の授業の予習など、他人にわからないとことで努力をしていたというし…。でも、ニール様には、努力をしていないのに、何でも出来る様に見えてしまったのね)

「でも、非を認めて詫びるのは当たり前の事ではないのですか?」
「それはそうかもしれないけど、何か腹が立つじゃないか。少しは表情を変えろと思ったんだ!」
「…ニール様、結局、あなたが浮気していた理由は、フィアン兄様への嫉妬なのですか?」
「似てるけど、違う」
「…?」

 ララベルが無言で答えを促すと、ニールはララベルに笑顔で言う。

「フィアン様は、誰とも付き合った事がないんだ。女を知らない。だから、俺が先に女を知った。フィアン様は女性と付き合った事もない。俺には君という婚約者はいるけれど、付き合った事はなかった。だから、フィアン様を断った女性と付き合う事にしたんだ。彼にはなびかなかった女性を俺のものにする。俺は、フィアン様に勝ったんだ!」

 ニールの浮気の理由は、ただ、フィアンよりも自分が勝っているものを見つけたいだけだった。

「……ジェラ伯爵令嬢と関係を結ぶ必要はあったのですか」
「それは君の為だ。女性経験を積んでおいた方がいいだろう? 彼女は割り切った付き合いをしてくれると約束もしてくれた。君と結婚した後に、どんなデートをしようか、一緒に考えてくれた」
「…本当に、割り切った付き合いなのでしょうか」

 ララベルは太ももの上で両手を握り合わせ、震える声で尋ねた。

「…シェルが何か言っていたのか?」

 シェルというのはジェラ伯爵令嬢の名前のミシェルの愛称だった。

「ジェラ伯爵令嬢は、あなたと何回か関係を持ったそうですね。しかも、避妊もせずに」
「いや、彼女には避妊薬を飲ませてあるから大丈夫だ」
「飲んでおられません」
「…は?」
「彼女は、あなたが欲しくなったんです。だから、彼女はあなたと関係を持ち始めた時から、避妊薬を飲むふりをして、飲まなかったそうです」

 ララベルの言葉に、ニールは顔を歪めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
「どういうことですか・・・?私は、ウルブス様の婚約者としてここに来たはずで・・・。その女性は・・・?」 城に来た初日、婚約者ウルブス王子の部屋には彼の愛人がいた。 デンバー国有数の名家の一人娘シエリ・ウォルターンは呆然と王子ウルブスを見つめる。幸せな未来を夢見ていた彼女は、動揺を隠せなかった。 なぜ婚約者を愛人と一緒に部屋で待っているの? 「よく来てくれたね。シエリ。  "婚約者"として君を歓迎するよ。」 爽やかな笑顔を浮かべて、ウルブスが言う。 「えっと、その方は・・・?」 「彼女はマリィ。僕の愛する人だよ。」 ちょっと待ってくださいな。 私、今から貴方と結婚するはずでは? 「あ、あの・・・?それではこの婚約は・・・?」 「ああ、安心してくれ。婚約破棄してくれ、なんて言うつもりはないよ。」 大人しいシエリならば、自分の浮気に文句はつけないだろう。 ウルブスがシエリを婚約者に選んだのはそれだけの理由だった。 これからどうしたらいいのかと途方にくれるシエリだったがーー。

貴方とはここでお別れです

下菊みこと
恋愛
ざまぁはまあまあ盛ってます。 ご都合主義のハッピーエンド…ハッピーエンド? ヤンデレさんがお相手役。 小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

私がもらっても構わないのだろう?

Ruhuna
恋愛
捨てたのなら、私がもらっても構わないのだろう? 6話完結予定

そんなあなたには愛想が尽きました

ララ
恋愛
愛する人は私を裏切り、別の女性を体を重ねました。 そんなあなたには愛想が尽きました。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

従妹を甘やかす婚約者に意趣返しするお話

下菊みこと
恋愛
従兄と結託してやり返すお話。 元サヤではありません。 御都合主義のハッピーエンドです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...