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最終話
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「残念な知らせ? これ以上、悲しい事があるんですか」
ニールは情けない顔で座り込んだまま、辺境伯を見上げた。
「お前は、ララベル様との婚約を破棄出来ないように陛下にお願いしたな?」
「…しました…けど…、そ、そんなっ! 嘘でしょう!? そんな事ってあるんですか!」
ニールは立ち上がって絶叫し、自分の父にしがみついた。
(どういう事?)
ララベルが困惑の表情を浮かべると、メフェナム辺境伯は、彼女の方を見て言った。
「おめでとうございます、ララベル様。あなたは自由になりましたよ」
「…あの、一体、どういう…」
そこまで言って、ララベルは意味がわかり、口を自分の両手で覆った。
「まさか…」
「フィアン様は今回の戦の勝利で褒美が与えられる事になりました。そして、陛下から望みを叶えてもらえると聞いた彼は、すぐにこう言ったそうです」
辺境伯は泣き出しそうになっているララベルを優しい目で見つめて続ける。
「ニールの願いを取り消す願いです。ララベル様が婚約破棄を自由に出来る様になり、ララベル様が結婚したいと思う相手と結婚させてあげてほしいとおっしゃったそうです」
(フィアン兄様…)
ララベルの目に涙がたまり、すぐに溢れだした。
フィアンはミーデンバーグ家の人間、もしくは彼をよく知る人間に言わせると、超がつく程、女心に鈍感である。
だから、ララベルの気持ちなど、彼は一切気付いていない。
彼にとってララベルは可愛い妹で、ララベルが自分の事を兄と慕ってくれているといいなあと思っているくらいだ。
そして、ララベルもその事は重々承知している。
ただ、フィアンは、自分の為だけの願いというのであれば、今の状況では、ララベルの幸せを願っただけだった。
「それを聞いたキーギス公爵閣下から、先程、連絡がきた」
辺境伯はうなだれているニールを見て続けた。
「娘は婚約破棄を希望していた。もし、そこにいる娘が婚約破棄を望むなら、婚約破棄の承諾書を作る様にと」
「い、嫌だ! ララベル、婚約破棄なんてしないでくれ! 俺は君を…!」
「愛している? その言葉はジェラ伯爵令嬢にもお伝えしているようですから、それを知ってしまった私の胸には響きません」
(ジェラ伯爵令嬢の件がなければ、私自身が彼を傷付けた事もあったのだから、歩み寄ったかもしれない。だけど、ジェラ伯爵令嬢に手を出して、邪魔になったから殺そうだなんて考える人と、絶対に一緒にはなれない)
ララベルは苦笑して続ける。
「ニール様。今まで申し訳ございませんでした。言い訳かもしれませんが、浮気をなさる前に、一言、相談していただきたかったです。13歳だった私には、フィアン様に対しての気持ちはありましたが、まさか自分が恋をしているという顔を表面に出しているだなんて知らなかったんです。そして、その事があなたを傷付けていたという事も」
(ソフィーもマセていた訳じゃなかったから、恋をしていると可愛く見えるという事を知らなくて、化粧をしているから可愛くなっていると思ってたみたいなのよね…)
「伝えていたら…変わっていた?」
「伝えてくれていて、あなたが私に冷たい態度を取らなければ、違う未来が見えていたと思います」
夜会に一緒に出席できなくなった事を知ったニールは、ララベルと会う度に「君のせいだ」と冷たい態度を取っていた。
本当は「君に会えなくなって悲しい」と伝えたかっただけなのに。
「さようなら、ニール様。ジェラ伯爵令嬢、いえ、ミシェル様とお幸せに」
ジェラ伯爵令嬢の名を聞き、辺境伯は不思議そうな顔をしたが、ララベルが辺境伯に向かって頭を下げると首を縦に振った。
「近い内に承諾書をお送り致します」
「よろしくお願い致します」
辺境伯の言葉にララベルは深々と頭を下げた後「失礼します」と一声掛けてから扉に向かって歩いていく。
「待ってくれ、待ってくれララベル…!!」
ニールが何度も彼女の名を呼ぶ声が聞こえたけれど、ララベルが振り返らずに部屋を出ると、外で待っていた騎士が、躊躇う事なく扉を閉めた。
それから2か月後、ララベルはミーデンバーグ家に遊びに来ていた。
あれだけ長引いていた戦争をスピード解決したという事で、彼らには長期の休みが与えられていた。
といっても、それは王家からの命令に対しての免除という休みであり、彼らの家の仕事がなくなったわけでもなく、ミーデンバーグ家はとても忙しくしていた。
今日はララベルが来るという事と、たまには休みが必要だという事で、ソフィアとフィアンは自由日となっている。
ニールはあれから、妊娠が発覚したジェラ伯爵令嬢と婚約した。
事情を知った辺境伯から、無理矢理、婚約させられたのだ。
その際、ジェラ伯爵令嬢は笑顔でニールにこう言った。
『好きな人が他の方を思っている辛さは、あなたもご存知ですよね? なら、私の気持ちもわかって下さるはずです』
ニールはその言葉を聞いて、涙を流した。
ニールがフィアンの死を望んでいたという話については、フィアン本人が気にしておらず「せっかく生まれてきたのに、お父さんが犯罪者扱いじゃ嫌だろ?」と軽く流してしまった。
もちろん、家族を大事にしなければどうなるか…という脅しはかけていたが。
「結局、ララベルはどうするつもりなの?」
庭が見えるテラスで紅茶を飲みながら、話をしていた際、ソフィアに尋ねられ、ララベルは庭で植木の手入れを庭師と一緒にしているフィアンを見ながら答える。
「弟が、公爵の爵位を継ぎたいと言ってくれているんですの」
「本当に!?」
「そうなんです。ですから、どうしようか迷っているところですわ」
「でも、女公爵にならないのなら、お兄様のお嫁さんになれるぅっ」
ララベルが慌てて、ソフィアの口を手でおさえた為、変な言葉尻になってしまったが、意味はわかっているので、ララベルは言う。
「ソフィーってば声が大きいですわ!」
「ごめんなさい」
ソフィアが素直に謝ると、ララベルはテーブルに乗り出していた上半身を戻し、席に座り直す。
「本人に聞こえたらどうするんですの」
「俺がどうした?」
「ひいぃっ!」
ララベルとソフィアの声が重なった。
なぜなら、先程まで目を細めないと見えない位置にいたフィアンが、すぐ近くにいたからだ。
「俺の名前が聞こえた気がしたんだが?」
「忘れてたわ。お兄様、お母様と同じで、視力も聴力も良いのよ」
「内緒話もできませんわね」
「人が一杯のところなら無理だぞ。ここは静かだからな」
空いていた椅子に座ると、フィアンはガーデニング手袋を脱いだ。
ソフィアが魔法で水を出し、その水でフィアンは手を洗うと、テーブルの真ん中に置かれていた一口サイズのクッキーを手にとって、口の中に放り込んだ。
「ねぇ、フィアン兄様。最近、婚約者探しはどうなってますの?」
「それを聞くか?」
フィアンの顔が一瞬にして曇り、シュンと大きな肩を落として、自分から話し始める。
「また断られた…。断られた回数は、もう手と足の指を足しても足りない…」
「お兄様が私のお兄様でなければ、私が立候補するのに…。どこかに良い令嬢いないかなぁ。お兄様の事をわかってくれる令嬢」
ソフィアがニコニコしながら、ララベルを見る。
「い、いますわ!」
親友が背中を押してくれた事もあり、一か八かでララベルが声を上げると、フィアンががばりと顔を上げてララベルに尋ねる。
「どこに!?」
「ここにいますわ!」
「ここ? ララベルとソフィーしかいないが? 俺に見えてないだけか? え? まさか、嘘だろ? もしかして、亡くなってる人が見えるのか…?」
「ちょっと、お兄様!」
勇気を出したララベルだったが、フィアンはまさか、ララベルの事を言っているのだと思わなかったらしく、幽霊か何かだと勘違いした様だった。
その為、ソフィアが怒って立ち上がる。
「そんなんだから、婚約者が出来ないんですよ! お見合いの席でもそんな感じなのでは!?」
「そうだけど、今の何がいけないんだよ!?」
「鈍すぎます!」
ソフィアが立ち上がって、フィアンの両頬をつねる。
「痛い! やめろ、ソフィー! お前の力は本気出したら本当にゴリラに近いだろ!」
「わかってますよ、お母様譲りですから! だから妹ゴリラって言ってるじゃないですか! というか、お兄様よりマシです!」
「嘘つけ、7歳くらいまでは癇癪起こして、何度もテーブルを叩き割ってただろ!」
「それは言わない約束でしょう!?」
ミーデンバーグ兄妹のやり取りを見ながら、ララベルは、ため息を吐く。
(ああ…。私がいますって言えば良かったのかしら? でも、この調子だと、そう言っても気付かなさそうね…。それに、今でも十分幸せだわ)
「2人共、喧嘩は止めて下さいませ! お茶くらいゆっくり飲ませてください!」
ララベルの怒声が、ミーデンバーグ家の庭に響いた。
それから、数ヶ月後。
フィアンの元に釣書が届き、家族揃って、談話室で確認する事になった。
といっても、フィアン以外は誰だかわかっているので、ニヤニヤしている。
そんな家族の姿に不思議そうにしながらも釣書の相手の名前を見たフィアンは、思わず二度見した。
「……え!? ララベル!?」
フィアンの驚きの声が室内に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ここからは、あとがきです。
元々は拙作の「私に喧嘩を売った事を後悔してもらいましょう」のスピンオフとして書き始めたものでしたので、本作のヒロインのララベルの心情を、私の中ではなくなりかけていた乙女心を何とか探し出して頑張りました。
ちなみに、前作のヒロインは今回の話にも出ているソフィアでした。
前作は1か月前に書いた話なのに、すっかり細かい設定が頭から抜け落ちていたので、スピンオフ、と書くと、この時のと違う! と言われると困るという事で、スピンオフと銘打っておりません。
前作を読んでくださっていて、細かい設定が気にならない方はスピンオフとして、前作を知らない、特に興味ない方は、今回の話は普通の短編として読んでいただけると幸いです。
ララベルが婚約者がいるのに好きな人が忘れられない事に対して、過激な意見(ブロックさせてもらいました)をいただいていたのですが、フラレたり、他に好きな人ができない限り、そう簡単に好きだった人を忘れられないよなと、思った経験もあり、ララベルもフィアンを忘れられていないという設定にしたのと、フィアンに対するニールの劣等感を強くさせたかった為、そして最終話のジェラ伯爵令嬢の言葉につながらせたかった為でもあります。
ですので、引っかかられていた方もそこはご了承いただきたいと思います。
あと、王命に関しても、ラストに使いたかったので、突っ込まれたくなかったため、注意書きをしておりました。
ニールも素直になっていれば、また違った結果だったかなと思います。
でも、やりすぎちゃったので、責任はとらないと駄目ですよね…。
生まれてくる子供に罪はないですから。
一番の勝者は、あの彼女かもしれませんね…。
少しでも楽しんでいただけていたら光栄です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
ニールは情けない顔で座り込んだまま、辺境伯を見上げた。
「お前は、ララベル様との婚約を破棄出来ないように陛下にお願いしたな?」
「…しました…けど…、そ、そんなっ! 嘘でしょう!? そんな事ってあるんですか!」
ニールは立ち上がって絶叫し、自分の父にしがみついた。
(どういう事?)
ララベルが困惑の表情を浮かべると、メフェナム辺境伯は、彼女の方を見て言った。
「おめでとうございます、ララベル様。あなたは自由になりましたよ」
「…あの、一体、どういう…」
そこまで言って、ララベルは意味がわかり、口を自分の両手で覆った。
「まさか…」
「フィアン様は今回の戦の勝利で褒美が与えられる事になりました。そして、陛下から望みを叶えてもらえると聞いた彼は、すぐにこう言ったそうです」
辺境伯は泣き出しそうになっているララベルを優しい目で見つめて続ける。
「ニールの願いを取り消す願いです。ララベル様が婚約破棄を自由に出来る様になり、ララベル様が結婚したいと思う相手と結婚させてあげてほしいとおっしゃったそうです」
(フィアン兄様…)
ララベルの目に涙がたまり、すぐに溢れだした。
フィアンはミーデンバーグ家の人間、もしくは彼をよく知る人間に言わせると、超がつく程、女心に鈍感である。
だから、ララベルの気持ちなど、彼は一切気付いていない。
彼にとってララベルは可愛い妹で、ララベルが自分の事を兄と慕ってくれているといいなあと思っているくらいだ。
そして、ララベルもその事は重々承知している。
ただ、フィアンは、自分の為だけの願いというのであれば、今の状況では、ララベルの幸せを願っただけだった。
「それを聞いたキーギス公爵閣下から、先程、連絡がきた」
辺境伯はうなだれているニールを見て続けた。
「娘は婚約破棄を希望していた。もし、そこにいる娘が婚約破棄を望むなら、婚約破棄の承諾書を作る様にと」
「い、嫌だ! ララベル、婚約破棄なんてしないでくれ! 俺は君を…!」
「愛している? その言葉はジェラ伯爵令嬢にもお伝えしているようですから、それを知ってしまった私の胸には響きません」
(ジェラ伯爵令嬢の件がなければ、私自身が彼を傷付けた事もあったのだから、歩み寄ったかもしれない。だけど、ジェラ伯爵令嬢に手を出して、邪魔になったから殺そうだなんて考える人と、絶対に一緒にはなれない)
ララベルは苦笑して続ける。
「ニール様。今まで申し訳ございませんでした。言い訳かもしれませんが、浮気をなさる前に、一言、相談していただきたかったです。13歳だった私には、フィアン様に対しての気持ちはありましたが、まさか自分が恋をしているという顔を表面に出しているだなんて知らなかったんです。そして、その事があなたを傷付けていたという事も」
(ソフィーもマセていた訳じゃなかったから、恋をしていると可愛く見えるという事を知らなくて、化粧をしているから可愛くなっていると思ってたみたいなのよね…)
「伝えていたら…変わっていた?」
「伝えてくれていて、あなたが私に冷たい態度を取らなければ、違う未来が見えていたと思います」
夜会に一緒に出席できなくなった事を知ったニールは、ララベルと会う度に「君のせいだ」と冷たい態度を取っていた。
本当は「君に会えなくなって悲しい」と伝えたかっただけなのに。
「さようなら、ニール様。ジェラ伯爵令嬢、いえ、ミシェル様とお幸せに」
ジェラ伯爵令嬢の名を聞き、辺境伯は不思議そうな顔をしたが、ララベルが辺境伯に向かって頭を下げると首を縦に振った。
「近い内に承諾書をお送り致します」
「よろしくお願い致します」
辺境伯の言葉にララベルは深々と頭を下げた後「失礼します」と一声掛けてから扉に向かって歩いていく。
「待ってくれ、待ってくれララベル…!!」
ニールが何度も彼女の名を呼ぶ声が聞こえたけれど、ララベルが振り返らずに部屋を出ると、外で待っていた騎士が、躊躇う事なく扉を閉めた。
それから2か月後、ララベルはミーデンバーグ家に遊びに来ていた。
あれだけ長引いていた戦争をスピード解決したという事で、彼らには長期の休みが与えられていた。
といっても、それは王家からの命令に対しての免除という休みであり、彼らの家の仕事がなくなったわけでもなく、ミーデンバーグ家はとても忙しくしていた。
今日はララベルが来るという事と、たまには休みが必要だという事で、ソフィアとフィアンは自由日となっている。
ニールはあれから、妊娠が発覚したジェラ伯爵令嬢と婚約した。
事情を知った辺境伯から、無理矢理、婚約させられたのだ。
その際、ジェラ伯爵令嬢は笑顔でニールにこう言った。
『好きな人が他の方を思っている辛さは、あなたもご存知ですよね? なら、私の気持ちもわかって下さるはずです』
ニールはその言葉を聞いて、涙を流した。
ニールがフィアンの死を望んでいたという話については、フィアン本人が気にしておらず「せっかく生まれてきたのに、お父さんが犯罪者扱いじゃ嫌だろ?」と軽く流してしまった。
もちろん、家族を大事にしなければどうなるか…という脅しはかけていたが。
「結局、ララベルはどうするつもりなの?」
庭が見えるテラスで紅茶を飲みながら、話をしていた際、ソフィアに尋ねられ、ララベルは庭で植木の手入れを庭師と一緒にしているフィアンを見ながら答える。
「弟が、公爵の爵位を継ぎたいと言ってくれているんですの」
「本当に!?」
「そうなんです。ですから、どうしようか迷っているところですわ」
「でも、女公爵にならないのなら、お兄様のお嫁さんになれるぅっ」
ララベルが慌てて、ソフィアの口を手でおさえた為、変な言葉尻になってしまったが、意味はわかっているので、ララベルは言う。
「ソフィーってば声が大きいですわ!」
「ごめんなさい」
ソフィアが素直に謝ると、ララベルはテーブルに乗り出していた上半身を戻し、席に座り直す。
「本人に聞こえたらどうするんですの」
「俺がどうした?」
「ひいぃっ!」
ララベルとソフィアの声が重なった。
なぜなら、先程まで目を細めないと見えない位置にいたフィアンが、すぐ近くにいたからだ。
「俺の名前が聞こえた気がしたんだが?」
「忘れてたわ。お兄様、お母様と同じで、視力も聴力も良いのよ」
「内緒話もできませんわね」
「人が一杯のところなら無理だぞ。ここは静かだからな」
空いていた椅子に座ると、フィアンはガーデニング手袋を脱いだ。
ソフィアが魔法で水を出し、その水でフィアンは手を洗うと、テーブルの真ん中に置かれていた一口サイズのクッキーを手にとって、口の中に放り込んだ。
「ねぇ、フィアン兄様。最近、婚約者探しはどうなってますの?」
「それを聞くか?」
フィアンの顔が一瞬にして曇り、シュンと大きな肩を落として、自分から話し始める。
「また断られた…。断られた回数は、もう手と足の指を足しても足りない…」
「お兄様が私のお兄様でなければ、私が立候補するのに…。どこかに良い令嬢いないかなぁ。お兄様の事をわかってくれる令嬢」
ソフィアがニコニコしながら、ララベルを見る。
「い、いますわ!」
親友が背中を押してくれた事もあり、一か八かでララベルが声を上げると、フィアンががばりと顔を上げてララベルに尋ねる。
「どこに!?」
「ここにいますわ!」
「ここ? ララベルとソフィーしかいないが? 俺に見えてないだけか? え? まさか、嘘だろ? もしかして、亡くなってる人が見えるのか…?」
「ちょっと、お兄様!」
勇気を出したララベルだったが、フィアンはまさか、ララベルの事を言っているのだと思わなかったらしく、幽霊か何かだと勘違いした様だった。
その為、ソフィアが怒って立ち上がる。
「そんなんだから、婚約者が出来ないんですよ! お見合いの席でもそんな感じなのでは!?」
「そうだけど、今の何がいけないんだよ!?」
「鈍すぎます!」
ソフィアが立ち上がって、フィアンの両頬をつねる。
「痛い! やめろ、ソフィー! お前の力は本気出したら本当にゴリラに近いだろ!」
「わかってますよ、お母様譲りですから! だから妹ゴリラって言ってるじゃないですか! というか、お兄様よりマシです!」
「嘘つけ、7歳くらいまでは癇癪起こして、何度もテーブルを叩き割ってただろ!」
「それは言わない約束でしょう!?」
ミーデンバーグ兄妹のやり取りを見ながら、ララベルは、ため息を吐く。
(ああ…。私がいますって言えば良かったのかしら? でも、この調子だと、そう言っても気付かなさそうね…。それに、今でも十分幸せだわ)
「2人共、喧嘩は止めて下さいませ! お茶くらいゆっくり飲ませてください!」
ララベルの怒声が、ミーデンバーグ家の庭に響いた。
それから、数ヶ月後。
フィアンの元に釣書が届き、家族揃って、談話室で確認する事になった。
といっても、フィアン以外は誰だかわかっているので、ニヤニヤしている。
そんな家族の姿に不思議そうにしながらも釣書の相手の名前を見たフィアンは、思わず二度見した。
「……え!? ララベル!?」
フィアンの驚きの声が室内に響き渡った。
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最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ここからは、あとがきです。
元々は拙作の「私に喧嘩を売った事を後悔してもらいましょう」のスピンオフとして書き始めたものでしたので、本作のヒロインのララベルの心情を、私の中ではなくなりかけていた乙女心を何とか探し出して頑張りました。
ちなみに、前作のヒロインは今回の話にも出ているソフィアでした。
前作は1か月前に書いた話なのに、すっかり細かい設定が頭から抜け落ちていたので、スピンオフ、と書くと、この時のと違う! と言われると困るという事で、スピンオフと銘打っておりません。
前作を読んでくださっていて、細かい設定が気にならない方はスピンオフとして、前作を知らない、特に興味ない方は、今回の話は普通の短編として読んでいただけると幸いです。
ララベルが婚約者がいるのに好きな人が忘れられない事に対して、過激な意見(ブロックさせてもらいました)をいただいていたのですが、フラレたり、他に好きな人ができない限り、そう簡単に好きだった人を忘れられないよなと、思った経験もあり、ララベルもフィアンを忘れられていないという設定にしたのと、フィアンに対するニールの劣等感を強くさせたかった為、そして最終話のジェラ伯爵令嬢の言葉につながらせたかった為でもあります。
ですので、引っかかられていた方もそこはご了承いただきたいと思います。
あと、王命に関しても、ラストに使いたかったので、突っ込まれたくなかったため、注意書きをしておりました。
ニールも素直になっていれば、また違った結果だったかなと思います。
でも、やりすぎちゃったので、責任はとらないと駄目ですよね…。
生まれてくる子供に罪はないですから。
一番の勝者は、あの彼女かもしれませんね…。
少しでも楽しんでいただけていたら光栄です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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