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4 親友と好きな人と婚約者
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帰りも魔石を使って、家に戻ると、侍女が駆け寄ってきて、ララベルに言った。
「おかえりなさいませ、お嬢様。お客様がお見えです」
「お客様?」
特にそんな予定がなかったので、ララベルが首を傾げると、侍女は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「誰かわかれば、とても喜ばれると思いますよ」
侍女だけでなく、ララベルを見た他のメイド達も嬉しそうに「さぁさぁ」とララベルを応接室の方に連れて行く。
(一体、何があるのかしら? もしかして、私の大好きなケーキが用意されているとか? でも、お客様と言っているし…)
ノックをしてから、ララベルが部屋に足を踏み入れると、正面のソファーから、彼女の親友が笑顔で立ち上がった。
「ララベル!」
「ソフィー!?」
「あなたのご両親から招待されたの。今日、こちらに泊まらせてもらうからよろしくね!」
「本当に!? 嬉しいですわ! ソフィーに早速、聞いてほしい事がありますのよ! お茶を用意してもらいますわね!」
ララベルは思いがけない親友との再会に心から喜び、両親に感謝した。
今日、ララベルがニールに会いに行く事は両親も知っていたから、彼女を元気付ける為のサプライズだった。
「もちろん! 聞くのは聞くんだけど…」
「聞いてくださいな。ニール様に会いに行ったんですけれど、フィアン兄様の事をゴリラだなんて言うんですのよ!?」
「それ、他の人にも言われているのを知っているわ。ねぇ、お兄様?」
ソフィアの言葉に、ララベルはびくりと身体を震わせた。
「ああ、俺、ゴリラ界ではイケメンだと思ってるんだけど、どうだ?」
ララベルはソフィアに気を取られていて気が付かなかったが、応接の奥の窓際にフィアンがいた。
どうやら、窓の外を眺めていた様だった。
そんな彼が、少年の様な笑みを浮かべながら、ララベル達の元に近寄ってくる。
「とてもイケメンだと思います。ただ、そうなると私もゴリラなのよね…」
「兄がゴリラだから、妹もゴリラだろうな」
ソフィアとフィアンはとても仲が良い兄妹で、どちらかというとフィアンはシスコン気味だ。
ソフィアは大きく息を吐くと続ける。
「というわけで、お父様には報告しておくわ。お兄様がゴリラという事は、お父様もお母様もゴリラで、私もゴリラという事ですからね。別にゴリラは嫌いじゃないけど」
「俺もゴリラは嫌いじゃない。言わせたい奴に言わせておけばいいんじゃないか?」
「お兄様! そんな調子じゃ、将来、ゴリラが公爵になったって言われますよ!」
「父上もゴリラなら、もう公爵になってるだろ。ゴリラ公爵」
「お父様だけが人間で、お母様がゴリラというならわかるけど」
「母上に言うぞ」
「止めて下さい!」
ソフィア達の父は、見た目は若々しく整った顔立ちで、スラリとした体型のため、ゴリラには全く見えないし、父親似のソフィアもゴリラとは程遠い見た目だ。
普段と変わらない兄妹のやり取りに、ララベルは笑みをこぼす。
それに気が付いたソフィアが眉を寄せる。
「お兄様、ララベルに笑われたじゃないですか」
「いいじゃないか。ララベルは笑った方が可愛い」
フィアンがにっと笑みを浮かべて、ララベルを見た。
彼が自分の事を妹の様に可愛がってくれているだけで、女性として可愛いと言ってくれているわけじゃないとわかっていながらも、ララベルの胸が高鳴った。
「当然ですわ」
素直じゃない言葉を返した後、メイドにお茶をいれるように頼んでから、ソファーに座って話をする事にした。
以前は、ソフィアに、ニールの事を話せなかったララベルだったが、状況が変わり、ソフィアにはニールの話を自分の口から話し、フィアンはソフィアから聞いて、ニールの浮気の件を知っていた。
今の状況では、ほとんどの貴族の間で知れ渡っている。
「もっと早くに言ってくれれば良かったのに。どうする? 今度、俺とあいつが同じ場所に出兵する事があったら、シメとこうか」
「どうやって?」
ララベルの代わりにソフィアが聞き返すと、フィアンが笑顔で答える。
「ヘッドロックするだけ」
「お兄様! 首をへし折ったりしないでくださいね? 殺人になりますから」
「でも、そうなれば、ララベルは奴から解放されるよな?」
ソフィアの言葉に答えてから、フィアンが思案顔になる。
「フィアン兄様、お気持ちは嬉しいですけれど、そんな事になったら、フィアン兄様のお名前に傷が付いてしまいます」
「バレないようにするよ」
「そういう問題ではありませんわ!」
ララベルが軽く睨むと、フィアンは笑って頷く。
「俺の妹は二人共怖いなあ」
妹という言葉に、ララベルの胸がちくりと痛んだ。
(こんな状態だから、ニール様に浮気だなんて言われてしまうのね…)
「ララベル?」
ソフィアがララベルの表情が曇った事に気付いて、彼女に声を掛けた。
「ごめんなさい。少し考え事をしていましたわ」
「今日はメフェナム卿の所に行って疲れたのね…。少し休む?」
「大丈夫よ! せっかく、ソフィーとフィアン兄様が来てくれているんだから」
「無理するなって…」
フィアンは立ち上がり、ララベルの所までやって来て、彼女の頭を撫でる。
「今日は俺はもう帰るよ」
「どうしてですの!? 泊まっていかれるのではないんですか?」
「泊まるのはソフィーだけだよ」
「私がいるからといって、お兄様が泊まったりして、メフェナム卿に何か言われても腹が立つでしょう?」
苦笑するソフィアに、ララベルは無言で頷く。
(後で、ソフィーに、ニール様に私の気持ちがバレてしまった事を伝えないと)
「じゃあな。明日また、ソフィーを迎えに来るから」
「お見送りいたしますわ」
「別にいいぞ」
「それが礼儀ですから」
「なら、お願いしようか」
ソフィアと一緒に、フィアンを見送るため、ポーチまで出て来た時だった。
門の方から一人の男性が歩いて来るのが見えた。
いち早く、それが誰だか気付いたのは、視力が優れているフィアンだった。
「噂の人物がお出ましか」
フィアンが呟き、ララベルは困惑する。
「誰かわかりますの?」
ララベルの視力では相手が誰かはっきりとはわからないので尋ねると、ソフィアが答える。
「メフェナム卿よ」
「どうして…」
(フィアン兄様を見たら、何を言い出すかわからないわ!)
ララベルが心配した通り、ニールは走って近寄って来ると、ララベルに向かって叫んだ。
「ほら、やっぱり浮気しているじゃないか!」
「何を言っているんですの!?」
「私が見えてないのかしら。それとも、本当に私の事もゴリラだと思ってるの?」
苛立つララベルの横で、ソフィアがぽつりと呟いた。
「おかえりなさいませ、お嬢様。お客様がお見えです」
「お客様?」
特にそんな予定がなかったので、ララベルが首を傾げると、侍女は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「誰かわかれば、とても喜ばれると思いますよ」
侍女だけでなく、ララベルを見た他のメイド達も嬉しそうに「さぁさぁ」とララベルを応接室の方に連れて行く。
(一体、何があるのかしら? もしかして、私の大好きなケーキが用意されているとか? でも、お客様と言っているし…)
ノックをしてから、ララベルが部屋に足を踏み入れると、正面のソファーから、彼女の親友が笑顔で立ち上がった。
「ララベル!」
「ソフィー!?」
「あなたのご両親から招待されたの。今日、こちらに泊まらせてもらうからよろしくね!」
「本当に!? 嬉しいですわ! ソフィーに早速、聞いてほしい事がありますのよ! お茶を用意してもらいますわね!」
ララベルは思いがけない親友との再会に心から喜び、両親に感謝した。
今日、ララベルがニールに会いに行く事は両親も知っていたから、彼女を元気付ける為のサプライズだった。
「もちろん! 聞くのは聞くんだけど…」
「聞いてくださいな。ニール様に会いに行ったんですけれど、フィアン兄様の事をゴリラだなんて言うんですのよ!?」
「それ、他の人にも言われているのを知っているわ。ねぇ、お兄様?」
ソフィアの言葉に、ララベルはびくりと身体を震わせた。
「ああ、俺、ゴリラ界ではイケメンだと思ってるんだけど、どうだ?」
ララベルはソフィアに気を取られていて気が付かなかったが、応接の奥の窓際にフィアンがいた。
どうやら、窓の外を眺めていた様だった。
そんな彼が、少年の様な笑みを浮かべながら、ララベル達の元に近寄ってくる。
「とてもイケメンだと思います。ただ、そうなると私もゴリラなのよね…」
「兄がゴリラだから、妹もゴリラだろうな」
ソフィアとフィアンはとても仲が良い兄妹で、どちらかというとフィアンはシスコン気味だ。
ソフィアは大きく息を吐くと続ける。
「というわけで、お父様には報告しておくわ。お兄様がゴリラという事は、お父様もお母様もゴリラで、私もゴリラという事ですからね。別にゴリラは嫌いじゃないけど」
「俺もゴリラは嫌いじゃない。言わせたい奴に言わせておけばいいんじゃないか?」
「お兄様! そんな調子じゃ、将来、ゴリラが公爵になったって言われますよ!」
「父上もゴリラなら、もう公爵になってるだろ。ゴリラ公爵」
「お父様だけが人間で、お母様がゴリラというならわかるけど」
「母上に言うぞ」
「止めて下さい!」
ソフィア達の父は、見た目は若々しく整った顔立ちで、スラリとした体型のため、ゴリラには全く見えないし、父親似のソフィアもゴリラとは程遠い見た目だ。
普段と変わらない兄妹のやり取りに、ララベルは笑みをこぼす。
それに気が付いたソフィアが眉を寄せる。
「お兄様、ララベルに笑われたじゃないですか」
「いいじゃないか。ララベルは笑った方が可愛い」
フィアンがにっと笑みを浮かべて、ララベルを見た。
彼が自分の事を妹の様に可愛がってくれているだけで、女性として可愛いと言ってくれているわけじゃないとわかっていながらも、ララベルの胸が高鳴った。
「当然ですわ」
素直じゃない言葉を返した後、メイドにお茶をいれるように頼んでから、ソファーに座って話をする事にした。
以前は、ソフィアに、ニールの事を話せなかったララベルだったが、状況が変わり、ソフィアにはニールの話を自分の口から話し、フィアンはソフィアから聞いて、ニールの浮気の件を知っていた。
今の状況では、ほとんどの貴族の間で知れ渡っている。
「もっと早くに言ってくれれば良かったのに。どうする? 今度、俺とあいつが同じ場所に出兵する事があったら、シメとこうか」
「どうやって?」
ララベルの代わりにソフィアが聞き返すと、フィアンが笑顔で答える。
「ヘッドロックするだけ」
「お兄様! 首をへし折ったりしないでくださいね? 殺人になりますから」
「でも、そうなれば、ララベルは奴から解放されるよな?」
ソフィアの言葉に答えてから、フィアンが思案顔になる。
「フィアン兄様、お気持ちは嬉しいですけれど、そんな事になったら、フィアン兄様のお名前に傷が付いてしまいます」
「バレないようにするよ」
「そういう問題ではありませんわ!」
ララベルが軽く睨むと、フィアンは笑って頷く。
「俺の妹は二人共怖いなあ」
妹という言葉に、ララベルの胸がちくりと痛んだ。
(こんな状態だから、ニール様に浮気だなんて言われてしまうのね…)
「ララベル?」
ソフィアがララベルの表情が曇った事に気付いて、彼女に声を掛けた。
「ごめんなさい。少し考え事をしていましたわ」
「今日はメフェナム卿の所に行って疲れたのね…。少し休む?」
「大丈夫よ! せっかく、ソフィーとフィアン兄様が来てくれているんだから」
「無理するなって…」
フィアンは立ち上がり、ララベルの所までやって来て、彼女の頭を撫でる。
「今日は俺はもう帰るよ」
「どうしてですの!? 泊まっていかれるのではないんですか?」
「泊まるのはソフィーだけだよ」
「私がいるからといって、お兄様が泊まったりして、メフェナム卿に何か言われても腹が立つでしょう?」
苦笑するソフィアに、ララベルは無言で頷く。
(後で、ソフィーに、ニール様に私の気持ちがバレてしまった事を伝えないと)
「じゃあな。明日また、ソフィーを迎えに来るから」
「お見送りいたしますわ」
「別にいいぞ」
「それが礼儀ですから」
「なら、お願いしようか」
ソフィアと一緒に、フィアンを見送るため、ポーチまで出て来た時だった。
門の方から一人の男性が歩いて来るのが見えた。
いち早く、それが誰だか気付いたのは、視力が優れているフィアンだった。
「噂の人物がお出ましか」
フィアンが呟き、ララベルは困惑する。
「誰かわかりますの?」
ララベルの視力では相手が誰かはっきりとはわからないので尋ねると、ソフィアが答える。
「メフェナム卿よ」
「どうして…」
(フィアン兄様を見たら、何を言い出すかわからないわ!)
ララベルが心配した通り、ニールは走って近寄って来ると、ララベルに向かって叫んだ。
「ほら、やっぱり浮気しているじゃないか!」
「何を言っているんですの!?」
「私が見えてないのかしら。それとも、本当に私の事もゴリラだと思ってるの?」
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