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17  波乱のパーティー ①

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 シルーク侯爵家のパーティーの日まで、三十日程の余裕しかなかったので、仕立て屋を屋敷に呼び、キリュウ様とわたしの服を急ぎで仕上げてもらうことになりました。

 キリュウ様のご両親が亡くなってから、トイズ辺境伯家での仕立てがなくなっていたため、今回の依頼は厳しい納期にも関わらず、割増賃金もいらないと言ってくれるくらいに、喜んで引き受けてくれました。

 トイズ辺境伯家御用達というだけで、店の評価が上がるらしいです。

 その間に社交性を身につけるために、わたしは初めてお茶会に参加してみました。

 わたしよりも十歳以上年上の方で、わたしの過去を知っている方だったため、色々と配慮したお茶会を開いてくださいました。

 わたし合わせて4人という、少人数のお茶会にしてくれて、わたしが話をしやすいように色々と気を遣ってくれて、とてもありがたいものです。

「アーシャ様の良くない噂がまわっていますから、お伝えしていきたいのですが」

 各々の話を一とおりしたあと、主催してくれた方が、重い表情で言った。

「良くない噂ですか」
「はい。もちろん、わたくしたちや多くの方は信じておりませんわ」

 そう前置きしたあと、わたしがキリュウ様やレディシト様を弄んでいる悪女だという噂が流れていることを教えてくれた。

「わ、わたしが悪女!」
「アーシャ様の悪い噂が流れるだろうと、事前にトイズ辺境伯から連絡がきていましたの。ですから、皆さん、このことかと思って信じておりません」
「お話してみたら、余計に嘘だと感じましたわ。アーシャ様がそんな酷い方だとは思えません」
「嘘を信じた方もいらっしゃるかと思いますが、アーシャ様と話をすれば、真実に気づくと思いますわ」

 優しくて嬉しい言葉をかけられて、胸が熱くなりました。

 トイズ辺境伯家の人たち以外にも、わたしを信じてくれる人がいるんですね。

「……教えていただきありがとうございます。そして、わたしを信じていただき、ありがとうございます」
「礼を言われることではありませんわ。どうしてもお礼を言いたいのでしたら、トイズ辺境伯にどうぞ。あなたのことをとても大事にしているようですから」

 主催の婦人はにこりと微笑んだ。

 キリュウ様はやられる前にやれ、と言っていました。

 ということは悪い噂を流しているのはメイナーの実家であるセイブル家だと、皆さんに遠回しに伝えていそうですね。

 メイナーが嘘をついていたということは、リブトラル伯爵家から貴族界に流れていますし、この噂もメイナー、もしくはセイブル伯爵家がついた嘘だと多くの人は気づくでしょう。

「それにしても、本当に酷い話ですわ。お友達って自然とできるものですし、損得勘定が悪いとは言いませんが、普通はそんなことを考えずに仲良くなるものですわ」

 婦人は苦笑して続ける。

「アーシャ様、そんな酷い人ばかりだと思わないでくださいませね」
「はい。ありがとうございます」

 この日、わたしは主催の婦人だけでなく、招待されていた令嬢たちとも文通をしたり、お茶会に出席する約束をしたのでした。



*****



 トイズ辺境伯家に戻り、帰宅したことと、今日のお茶会内容を話せる分だけ話をするために、キリュウ様の執務室に向かいました。

「今日はいつもと雰囲気が違うな」
「お出かけでしたので、エルザが頑張ってくれたんです」

 ナチュラルメイクしかしていませんが、何もしていないよりも、とても明るい印象になっています。

「そのドレスも似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」

 褒められるとは思っていなかったので、ドキドキしながら、必要だと思われる話だけ報告しました。

「セイブル伯爵家は嘘をつけばつくほど、自分たちの立場が悪くなることはわかっていなさそうだな」
「はい。メイナーもそうですが、セイブル伯爵夫妻は自分のやることは何でも正しいと思い込んでいますから、領民にも評判が悪いそうです」
「……最悪だな。まあ、今回の娘の件で、セイブル伯爵家はそう長くないかもしれない」
「……どういうことでしょうか」
「セイブル伯爵家の子どもはメイナー嬢しかいない。だから、親戚に後を継がせるつもりのようだが、果たして継いでくれるか、ってとこだな」

 そうですよね。
 いくら代替わりしたとはいえ、悪評は、中々消えないものですから。

 頷いた時、バタバタという慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、扉がノックされた。

「どうした」
「あ、あの、セイブル伯爵家から、お手紙が届いています!」 

 最近、雇い始めた若いフットマンで、興奮しているのか、声が震えています。

「アーシャ宛か?」
「い、いえ! キリュウ様宛です!」

 わたしとキリュウ様は思わず顔を見合わせました。

 セイブル伯爵家がキリュウ様に何を言っていたのでしょうか。

 わたしの悪口だけなら良いのですが――

 手紙を受け取るキリュウ様を見て、なんだか嫌な予感がしたのでした。




◇◆◇◆◇◆
(メイナー視点)

 ティータイムに、お母様に呼び出され、談話室で現在の状況を教えてもらった。

 レディシト様の評判を落とすのは上手くいっているけれど、アーシャのほうは上手くいっていないと、お母様から聞かされた。

 リブトラル伯爵家がわたしのことを嘘つきだと言いふらしたことや、トイズ辺境伯ががアーシャについての嘘の噂を流すと、多くの貴族に連絡を入れていたらしい。

 そのせいで、私たちが悪者になっているのだと言う。

 今までは、ぼんやりしていたアーシャが相手だったから楽だった。

 でも、今回はトイズ辺境伯がバックにいるから厄介だわ。

 アーシャの実家も、手のひらを返して「うちの娘はあのトイズ辺境伯の心を射止めた、すごい女性だ」と言いふらしているから使えない。

 ……そうだわ。
 トイズ辺境伯を奪ってしまえばいいんじゃないかしら?
  
 そうすれば、アーシャの味方はいなくなる。

 レディシト様だって、アーシャがトイズ辺境伯の婚約者になったから惜しいと思い始めたのよ。

 きっとそう。

 レディシト様が私よりもアーシャを選ぶだなんてありえない。

「メイナー、そんなに怖い顔をしてどうしたの?」
「アーシャの嘘を信じるだなんて、みんな、酷いと思っていたんです」
「本当にそうね。あなたはとても優しいのに」
「ありがとうございます。お母様」

 涙を拭うふりをしてから、お願いする。

「私がうそつきではないと証明したいんです。トイズ辺境伯と話をする機会を作っていただけませんか」
「……そうね。ちゃんと話をすれば、わかってくれるかもしれないわね」

 お母様は頷くと、トイズ辺境伯に至急で話したいことがあると連絡を入れてくれたのだった。

 アーシャなんかと婚約するくらいなんだもの。

 私が落とせないわけないわ。

 残念だったわね、アーシャ。
 
 あなたの幸せな生活、私のものにさせてもらうわ。

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