上 下
57 / 57

身を引いたつもりが逆効果でした

しおりを挟む
 ピクニックに向かう当日の朝。
 待ち合わせ場所は私達が住んでる屋敷の前だったので、お昼ごはんのサンドイッチが入った籠を持ち、張り切ってリアと待っていたら、ラス様が1番に現れた。
 その後、しばらく待っても他の皆が来ないので、しびれをきらしたリアがユウマくん達を呼びにいったため、私とラス様の2人で待つ事になった。

「ユーニさん、遅くなりましたが、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。愛想つかされないように頑張ります」
「そんな事はありえないですよ」
「わかりませんよ。世の中には性格が良くて可愛い子なんて、いっぱいいますから」
「相変わらずですね」

 ラス様が微笑んで言うけれど、意味がわからずに聞き返す。

「どういう意味ですか」
「そのままの意味です」
「教えて下さいよ!」
「教えれば、1つ願いをきいてくれますか?」
「出来ることであれば」

 ラス様のお願いなんて珍しい。
 出来るなら叶えてあげたいけど、わざわざ、そんな前置きがあるくらいだから、難しい事なんだろうか?

「簡単ですよ。私が言う言葉に対して、私に答えを返さずに忘れてしまって下さい」
「それだけでいいんですか?」
「それだけでいいです」
「なら、良いですよ! で、相変わらず、の意味は?」

 首を傾げて尋ねると、ラス様はさらりと答える。

「ユーニさんは自己評価が低いんですよ」
「う。だって、周りがすごいじゃないですか。イケメンは多いし、可愛い子も多いし」
「では、普通の人はだめなんですか?」
「そんな事ないですよ! 人によって好みがあって、って」

 そこまで言って、私は思い出す。

 こんな話をユウヤくんともしていた事を。

「ユウヤにはあなたしかいないんです。自信を持って下さい」
「ありがとうございます」

 籠を抱きしめるようにして持ち直してから、ラス様に促す。

「で、ラス様は何を聞いてほしいんですか? 聞いた事に答えを返さなくて忘れたらいいんですよね?」
「そうです」
「では、ラス様、どうぞ!」

 私の言葉にラス様は優しく笑うと、

「耳を貸して下さい」

 そう言って、私の耳の位置に彼の口がくるように屈んだ。

「ドキドキしますね」

 人に聞かれたくない話なのかな?

 ラス様が耳元で囁いた。

「━━━っ?!」

 驚きのあまり、持っていた籠を地面に落としてしまう。

「何してるんですか」

 ラス様が呆れた声で言い、地面に転がったサンドイッチを拾い始める。

 本来なら、私が拾わないといけないのに。
 でも。
 すぐには動けなかった。

 聞き間違いでなければ、ラス様はこう言った。





『あなたが好きです』





「うあああ?! え、ラス様、えっ?!」

 熱が出たの? と自分で思うくらいに身体が熱くなる。

「答えないし、忘れるという約束ですよ」
「いや、えっ、だ、えっ?!」
「どれだけ動揺してるんですか」

 ラス様はまた呆れた顔でそう言うと、屋敷に向かって歩き出す。

「・・・・・ラス様?」
「これでは食べられないでしょう。新しいものをもらってきます」
「なら私が!」
「大丈夫ですから。ユウヤ達が来たら先に向かって下さい。後から追いかけます」
「でも!」

 言いかけてやめた。

 ラス様の耳が赤くなっているのに気が付いたから。
 ここは、素直にお願いする事にしよう。
 私もどんな顔したら良いかわからないし。

「お願いします。でも、待ってますから」
「先に行っていいですよ」

 ラス様は振り返らずに、屋敷の中に入っていった。
 1人残された私は、嫌でもさっきの出来事を思い出す。

「うわあああ」

 ラス様が私を?
 え?
 もしかして、聞き間違い?
 え?
 どういう事?
 好き?
 恋愛の意味でって事であってる?!
 忘れるなんて無理でしょ!

「うう~っ!」

 しゃがみ込んで唸っていると、戻ってきたリアから声をかけられた。

「どうしたの? 気分悪いの?」
「いや、ううん。大丈夫」

 慌てて立ち上がると少し離れた所で、こちらの様子をうかがっていた、ユウマくんとアレン王子が手を振ってくれた。

 2人の足元には白いパラソルがたたんで置かれている。

 もしかして、王子達が運ぶの?
 でも、行く人は決まってるし、ジンさん一人では辛いよね。

「みんな集まった?」

 ユウマくん達に手を振り返してから尋ねると、リアが答えてくれる。

「あとはジンさんとミランダ様、かな。あれ、ラス様は?」
「あ、私がサンドイッチ駄目にしちゃって、新しいのを貰いに行ってくれてる」
「え、ラス様が?」

 リアが聞き返してきた時、ユウヤくんがカーペットを持って、近寄ってきたかと思うと言った。

「リアちゃん、ユウマが呼んでる」
「え? なんで?」
「さあ?」

 リアは不思議そうにしながらも、ユウマくんの所へ駆けていく。
 それを見送ったあと、ユウヤくんが聞いてきた。

「ラスから何か言われたか?」
「へっ?! な、なんで?!」
「いや、ちゃんと気持ちにきりをつけたいって、事前報告があったから」
「ええ?!」

 もしかして、ユウヤくん達が遅くなったのは、ラス様の話を知ってたから?

「ユーニ」
「ん?」

 ユウヤくんは持っていたカーペットをなぜか、少し広げて、その角を私に差し出す。

「ちょっと持っててくれ」
「うん」

 意味がわからないまま、私は腕を上げてカーペットの角を持つ。

 ユウヤくんが腕を軽くあげているせいか、カーペットは私の身体を片方包み込むような感じになってしまった。

「ユウヤく」

 どうしたの?

 と、聞こうとしたけど、聞けなかった。
 私の唇がユウヤくんのそれによって塞がれたから。

「う、わ」

 唇がはなれると、私はカーペットをはなし、その場にぺたんと座り込んだ。

「大丈夫か?!」
「・・・・・大丈夫」


 ラス様の衝撃から冷めてきていた身体がまた、一瞬にして熱くなってしまった。
 私は座り込んだ状態で、ユウヤくんを睨む。

 人に見られないようにカーペットで隠してくれたんだろうけど、人前は恥ずかしい。

「嫌だったか」
「嫌じゃない、けど」
「そっか」

 ユウヤくんの笑顔に心臓が早鐘を打つ。

 このままでは、心臓がもたない。

「ユーニ様、どうかなさいました?!」

 ミランダ様がジンさんにエスコートされて合流したようで、座り込んでいる私に駆け寄ってきてくれた。
 ジンさんも後から来て、私に手を差し出してくれる。

「立てますか?」
「ありがとうございます」

 ジンさんの手を借りて立ち上がると、彼は辺りを見回す。

「どうかしました?」
「いや、兄が見当たらないので」
「あ、私がやらかしまして、サンドイッチの新しいのを取りに行ってくれてるんです」
「そうですか。では、僕が兄を待ちますので、皆様は先に行かれますか?」

 ジンさんが爽やかな笑みを浮かべて促してくれたけど、私は首を横に振る。

「私が待っておきますよ」
「オレはラスに話したい事があるから待ってるし、先に行けよ」
「じゃあ、私とユウヤくんで待つから、皆は先に行く?」
「私もお待ちしますよ?」
「私も待つよ」

 ミランダ様とリアが言うと、アレン王子も続いた。

「僕もラス兄さまを待ちます」
「つーか、ラスを待って、皆で行けばいいだけだろ。オレ、呼んでくるわ」

 ユウマくんが屋敷に向かって歩き出す。

 なんだろう。
 この空気感がとても心地よい。

 しばらくすると、ユウマくんがラス様と一緒に外に出てきた。
 2人の手には私が持っていたよりも大きな籠。
 ラス様は待っている私達を見て言った。

「先に行くように言付けましたが?」
「みんな、ラス様と行きたいんですよう」

 リアがおどけて、かごを持っていないラス様の腕にしがみつく。

「ありがとうございます、リア様」
「そろそろ、様はなしにしません? リアでいいですよ」
「では、リアさん、で良いですか?」
「譲歩しましょう」
「おい、リア、いいかげんはなれろ」

 不貞腐れるユウマくんなど気にせず、リアとラス様が笑う。

「お気をつけて」
「いってらっしゃいませ!」

 エミリーさん達が屋敷の前で手を振ってくれた。

「よし、行くか」
「うん!」

 ユウヤくんと並んで歩き出す。

 再会した時には、まさかこんな事になるとは思わなかった。
 私の試練はまだまだこれから。
 でも、きっと大丈夫。
 私には、私を支えてくれる人がいるから。

 これからも私は、大好きで大切な人達と一緒に前に向かって進んでいく。





end
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

処理中です...