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52  「喜んだものです」

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 その後、皇帝陛下は不敬を理由に私たちを処刑すると、重鎮たちの前で言い放ったそうだ。
 でも、彼がもう終わりだということは皆がわかっていたので「とりあえず、会議にかけます」とあしらわれただけだった。

 その間にも、ジーナリア様の聞き取り調査なども進み、皇帝陛下がジーナリア様を監禁したという証拠は集められていった。

 なんだかんだと言って、あの人は皇帝陛下だから、そう簡単に裁くことができず、現在は査問会議の日程を決めているところだった。

 そんなこともあって、皇帝陛下を裁くよりも先に、サディールのほうに動きがあった。

 サディールは皇帝陛下に付いていたら、自分の立場が悪くなるだけだと感じ取り、部下を連れて逃げようとした。
 でも、彼に付いていこうというものはいなかった。

 昔は凄腕だったといっても、今では体力の衰えもあり、自分一人で動くことは難しい。

 それはわかっていたはずなのに、彼は夜中に一人で逃げ出した。

 そして、数日後には、何者かの手によって彼は物言わぬ姿となって、近くの川辺に捨てられていた。

 暗殺者は時には必要悪だと言われる時もある。

 でも、彼の場合は必要以上に無関係な人を殺しすぎて、多くの恨みを買ったのだ。

 何の罪もない家族を殺された人が彼に恨みを持ち、仇を討つことは、この国の法律では禁止されていない。
 だから、サディールの件は誰が彼を殺したかは、警察も本腰を入れて調べるつもりはないようだった。

「サディールの件は自業自得だわ。そう思うでしょう?」

 ある日の昼下がり、すっかり私に懐いてしまったイエーヌ様は、入室を許可するなり同意を求めてきた。

「そうですわね。悪いことをしてはいけないということですわ」
「あなたは呑気そうで本当に羨ましいわ! あなただって知っているんでしょう? 皇帝陛下の立場が危ないということを!」
「知っていますわ」
「なら、わたしたちの立場だって危ないということだってわかるでしょう!?」
「皇帝陛下が罰される件で、側妃には何の罪もないということは、みなさんわかっておられますわよ」

 ロニナにお茶を淹れてもらい、ソファに腰掛けると、イエーヌ様は大人しく向かい側に座って反論する。

「でも、ここにはいられなくなるわ」
「イエーヌ様は実家に戻りたくないんですか?」
「そういうわけじゃないけど、ここでの暮らしは居心地が良いのよ。ほとんど何もしなくて良いというのは魅力的だしね」
「私もそう思って側妃になった時は喜んだものです」

 苦笑しながら頷いた時だった。

 扉がノックされたので返事をすると、今までまったく仕事をしてくれていなかった、私の侍女、ミリエットの声が返ってくる。

「ジュリエッタ様がお見えになっています」
「何の用かしら」
「それは直接会って話すとおっしゃっています。どういたしましょうか」

 皇帝陛下の立場が危ういとわかってからのミリエットの態度は一変し、気持ち悪いくらいに私に媚びへつらうようになっていた。

「今、イエーヌ様が来ていることは知っているでしょう? どうしても話したいなら待ってもらってちょうだい」
「承知いたしました」

 ミリエットは不満を言うこともなく、部屋から離れていった。

 私は子供をあやす係でもなんでもないのに、どうして、イエーヌ様やジュリエッタのような、精神年齢の低い人ばかりが集まってくるのかしら。

 小さなため息を吐いてから、イエーヌ様の話に集中することにした。
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