上 下
52 / 55

51  「考えればわかることです」

しおりを挟む
 呆気にとられていると、先に我に返ったフェイク様が尋ねる。

「兄上、あなたは一体、何を言っているのですか?」
「そのままの意味だ。このまま罪を認めたら、オレは処分されてしまうのだろう?」
「……そうですね。皇帝のままではいられないでしょう」
「それは嫌だと言っているんだ! オレは皇帝なんだ。少しくらい悪いことをしたって許されるだろう!」
「皇帝陛下、何をおっしゃっておられるのですか? 皇帝だからこそ、国民の手本になるような動きをしなければならないのです」

 子どもしか言わないようなことを言うので窘めると、皇帝陛下は私を睨みつける。

「何を言ってるんだ。皇帝だからこそ好き勝手できるんだろう! 国民に知られることが厄介だというのであれば、なおさら、オレの罪をもみ消すべきだ」

 開き直るだなんて思っていなかったわ。

 呆れて物が言えなくなっていると、皇帝陛下は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「約束通りに罪は認めた。だから見なかったことにしろ。そうしてくれれば、お前たちには不自由のない生活をさせてやる」
「そんなことを言われましても、魅力的だとは思いません」
「俺も同意見です」

 私たちに冷たくあしらわれた皇帝陛下は声を荒らげて訴える。

「お前たちは本当に馬鹿だな! 俺が罪を犯していたなんて知ったら、国民たちはショックを受けるぞ! 他国にだって示しがつかない! わかるだろう! 一番賢い方法は、お前たちが何も言わないことなんだ!」
「開き直りにもほどがありますわ。そこまでわかっているのであれば、どうして馬鹿なことをしたんですか。あなたにとって馬鹿な私でさえ、そんなことをすれば自分の立場が悪くなるということくらいわかります」
「オレを馬鹿にするな!」
「馬鹿にしているように聞こえたのであれば申し訳ございません。ですが、考えればわかることです」

 きっぱりと答えると、皇帝陛下はフェイク様に尋ねる。

「……フェイク、お前、まさか、オレの代わりに皇帝になろうとしているのか!?」
「いいえ。兄上が皇帝の座を退いた時には、兄上を止められなかった責任を取って、皇位の継承を辞退します」
「何だと!?」
「兄上が皇位についた時点で、この家系は終わりだったんですよ。次の皇帝は違う家に任せましょう」
「いい、い、嫌だ! オレは皇帝なんだ!」

 皇帝陛下は何度も首を横に振ったあと、急に笑顔になって叫ぶ。

「あ、ああ、そうだ。フェイク! セリーナ! 発言を撤回しなければ、俺に無礼を働いた罪でお前らを処刑してやる!」

 本当にこの人は救いようのない人ね。

「残念ですが兄上、あなたの願いは叶いません」
「な、何だと?」
「あなたがどんなに俺たちの処刑を願っても、その前にあなたを皇帝の座から引きずりおろすからです」

 フェイク様が微笑むと、「それなら今すぐに決めてやる!」そう言って、皇帝陛下は部屋から出て行った。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

私が張っている結界など存在しないと言われたから、消えることにしました

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私エルノアは、12歳になった時に国を守る結界を張る者として選ばれた。  結界を張って4年後のある日、婚約者となった第二王子ドスラが婚約破棄を言い渡してくる。    国を守る結界は存在してないと言い出したドスラ王子は、公爵令嬢と婚約したいようだ。  結界を張っているから魔法を扱うことができなかった私は、言われた通り結界を放棄する。  数日後――国は困っているようで、新たに結界を張ろうとするも成功していないらしい。  結界を放棄したことで本来の力を取り戻した私は、冒険者の少年ラーサーを助ける。  その後、私も冒険者になって街で生活しながら、国の末路を確認することにしていた。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

処理中です...