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39 「オレは知らない」
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「いやはや、本当に驚きましたな」
少しの沈黙のあとにサディールは口を開いたかと思うと、強い口調で続ける。
「私は皇帝陛下に地下牢を見張っていろと言われただけで、誰がここにいたかは知らんのですよ。まさか、行方不明になっているジーナリア様がこんなところにいるとは驚きですよ」
「嘘だわぁっ!」
ジーナリア様が叫ぶと、サディールは冷たい笑みを浮かべて話しかける。
「ジーナリア様、あなたは混乱しておられるのですよ。少しでも早く医者に診てもらったほうが良いのではないでしょうか」
「あなたが真実を話してくれないから動かないだけよ」
震えて話せなくなっている、ジーナリア様の代わりに答えると、サディールは眉間にシワを寄せる。
「セリーナ妃、私は真実を話しているのですよ」
「そうとは思えないわ」
「調べもせずに嘘だと決めつけるのもどうかと思いますがな」
「そこにいる兵士が知っているのに、上司であるあなたが知らないほうが監督不行き届きなんじゃないの?」
「そうだ。そのことであなたを捕まえても良いんだぞ」
フェイク様に言われた、サディールは顔を歪めた。
ジーナリア様が震えていることに気づき、優しく声をかける。
「ジーナリア様、とにかく、ここから出ましょう」
「……はい」
ジーナリア様は頷くと、ゆっくりと立ち上がろうとした。
でも、中々、立ち上がれない。
よく見てみると、白い肌に鞭で打たれたような痕が残っていることがわかった。
綺麗だなんて思っていたけど、汚れていないだけで、こんな痛々しくなっているだなんて――
「手を貸そう」
「……ありがとうございます」
フェイク様が手袋をした手で手を差し出すと、ジーナリア様はその手を取って、何とか立ち上がった。
「抱き上げても良いが」
「いいえ。わたくしは、皇帝陛下の妻ですから」
「わかった」
ジーナリア様が側妃じゃなかったら、横抱きするシーンが見れたのかしら。
とても絵になりそうだけど、なんだか複雑な気分になるのはなぜだろう。
それだけ、フェイク様を勝手に仲間意識して、心を許してしまっているのかもしれないわ。
浮気だと思われないように気をつけなくちゃ。
側妃でいる間は、たとえ、白い結婚だったとしても、他の男性を思うわけにはいかない。
「……どうかしたのか」
「いえ。こんな時なのに考え事をしていました。申し訳ございません」
私の動きが止まっていたからか、フェイク様が心配げな表情で尋ねてきたので苦笑する。
今は、ジーナリア様のことを考えないと駄目ね。
ジーナリア様を安全な場所に移してから、サディールと戦うことにしなくちゃ。
ジーナリア様を連れて明るい場所に出ると、彼女の顔色がとても悪いことに気がついた。
メイドがジーナリア様を医務室に連れて行こうとした時、皇帝陛下がやって来た。
「おい! 一体、どういうことだ!」
「兄上、それはこっちのセリフですよ」
サディールを見ると、皇帝陛下が来たらこっちのものだと言わんばかりに、顔には笑みが浮かんでいる。
これで安心だなんて、馬鹿な考えだわ。
体調が良くないジーナリア様には悪いけど、この場で話をさせてもらう。
「皇帝陛下、サディールさんに地下牢を見張るように命令したのですよね」
「……何が言いたい」
「サディールさんは皇帝陛下の部下なのですよね。その彼が地下牢の見張り役をし、地下牢にはジーナリア様がいたのです。ということは、ジーナリア様を地下牢に閉じ込めたのは、皇帝陛下ということでよろしいでしょうか」
少しの沈黙のあと、皇帝陛下ははっきりと答える。
「オレは知らない」
「……は?」
聞き返したのはサディールだった。
「オレはジーナリアを捜していた。ジーナリアが地下牢にいたというのなら、サディールがジーナリアを誘拐、監禁したんだろう!」
保身のためか、皇帝陛下はあっさりとサディールを切り捨てた。
ジーナリア様に改めて確認はするけど、この調子だと、皇帝陛下は自分の関与を認めないでしょうね。
「嘘だ! 皇帝陛下! あなたは私を裏切るんですか!」
サディールが叫ぶ。
仲間割れが始まりそうだし、ジーナリア様を先に医務室に移動させることにした。
少しの沈黙のあとにサディールは口を開いたかと思うと、強い口調で続ける。
「私は皇帝陛下に地下牢を見張っていろと言われただけで、誰がここにいたかは知らんのですよ。まさか、行方不明になっているジーナリア様がこんなところにいるとは驚きですよ」
「嘘だわぁっ!」
ジーナリア様が叫ぶと、サディールは冷たい笑みを浮かべて話しかける。
「ジーナリア様、あなたは混乱しておられるのですよ。少しでも早く医者に診てもらったほうが良いのではないでしょうか」
「あなたが真実を話してくれないから動かないだけよ」
震えて話せなくなっている、ジーナリア様の代わりに答えると、サディールは眉間にシワを寄せる。
「セリーナ妃、私は真実を話しているのですよ」
「そうとは思えないわ」
「調べもせずに嘘だと決めつけるのもどうかと思いますがな」
「そこにいる兵士が知っているのに、上司であるあなたが知らないほうが監督不行き届きなんじゃないの?」
「そうだ。そのことであなたを捕まえても良いんだぞ」
フェイク様に言われた、サディールは顔を歪めた。
ジーナリア様が震えていることに気づき、優しく声をかける。
「ジーナリア様、とにかく、ここから出ましょう」
「……はい」
ジーナリア様は頷くと、ゆっくりと立ち上がろうとした。
でも、中々、立ち上がれない。
よく見てみると、白い肌に鞭で打たれたような痕が残っていることがわかった。
綺麗だなんて思っていたけど、汚れていないだけで、こんな痛々しくなっているだなんて――
「手を貸そう」
「……ありがとうございます」
フェイク様が手袋をした手で手を差し出すと、ジーナリア様はその手を取って、何とか立ち上がった。
「抱き上げても良いが」
「いいえ。わたくしは、皇帝陛下の妻ですから」
「わかった」
ジーナリア様が側妃じゃなかったら、横抱きするシーンが見れたのかしら。
とても絵になりそうだけど、なんだか複雑な気分になるのはなぜだろう。
それだけ、フェイク様を勝手に仲間意識して、心を許してしまっているのかもしれないわ。
浮気だと思われないように気をつけなくちゃ。
側妃でいる間は、たとえ、白い結婚だったとしても、他の男性を思うわけにはいかない。
「……どうかしたのか」
「いえ。こんな時なのに考え事をしていました。申し訳ございません」
私の動きが止まっていたからか、フェイク様が心配げな表情で尋ねてきたので苦笑する。
今は、ジーナリア様のことを考えないと駄目ね。
ジーナリア様を安全な場所に移してから、サディールと戦うことにしなくちゃ。
ジーナリア様を連れて明るい場所に出ると、彼女の顔色がとても悪いことに気がついた。
メイドがジーナリア様を医務室に連れて行こうとした時、皇帝陛下がやって来た。
「おい! 一体、どういうことだ!」
「兄上、それはこっちのセリフですよ」
サディールを見ると、皇帝陛下が来たらこっちのものだと言わんばかりに、顔には笑みが浮かんでいる。
これで安心だなんて、馬鹿な考えだわ。
体調が良くないジーナリア様には悪いけど、この場で話をさせてもらう。
「皇帝陛下、サディールさんに地下牢を見張るように命令したのですよね」
「……何が言いたい」
「サディールさんは皇帝陛下の部下なのですよね。その彼が地下牢の見張り役をし、地下牢にはジーナリア様がいたのです。ということは、ジーナリア様を地下牢に閉じ込めたのは、皇帝陛下ということでよろしいでしょうか」
少しの沈黙のあと、皇帝陛下ははっきりと答える。
「オレは知らない」
「……は?」
聞き返したのはサディールだった。
「オレはジーナリアを捜していた。ジーナリアが地下牢にいたというのなら、サディールがジーナリアを誘拐、監禁したんだろう!」
保身のためか、皇帝陛下はあっさりとサディールを切り捨てた。
ジーナリア様に改めて確認はするけど、この調子だと、皇帝陛下は自分の関与を認めないでしょうね。
「嘘だ! 皇帝陛下! あなたは私を裏切るんですか!」
サディールが叫ぶ。
仲間割れが始まりそうだし、ジーナリア様を先に医務室に移動させることにした。
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