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28  『のんびり暮らせると思ったのに』

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「イエーヌ妃がいないほうが話はしやすいが、何のために彼女に来てもらったかわからなくなったな」
「本当にそうですわね。根は悪い人ではないので、皇帝陛下にうっかり話さないか心配ですが……」
「彼女は自分が可愛いようだから、そこは大丈夫だろう」
「そうですわね」

 苦笑して頷くと、フェイク様は私に承諾を得てから自分の側近に中に入るように命令した。

 ノックの後に入ってきた側近は一礼したあと、扉の前に立った。
 二人きりにならないようにしてくれたようだ。

「以前、セリーナ妃が兄上に暴力をふるわれたことがあった時に俺の所にきてくれたのは、そこにいる男の遠い親戚なんだ」
「……そういうことだったのですね」

 あの側近はフェイク様とつながっているのね。
 だけど、それが皇帝陛下や皇帝陛下側の人間に知られてしまえば、その人の命が危ないし、万が一のことを考えて口には出さないことにした。

「どうやって、側近に選ばれたのでしょうか」
「従順なふりをさせている。兄上は自分に逆らう人間は近くには置かないからな」
「口答えをして、暗殺されたりすることはあるんでしょうか」
「少なくとも、俺は確認していない。ただ、宮殿から追い出された人間や閑職に追いやられた人間は多くいる」
「ということは、今の皇帝陛下の周りにいる人物は逆らおうにも逆らえない状況でしょうか」
「そうだな」

 皇帝陛下の一番の側近はサディールという初老の男で、元々は暗殺部隊にいた人間なのだそうだ。

 自分自身が恨みを買っているため、警備がしっかりしている宮殿で働き、彼の家も宮殿の中庭にあるという。

 彼についての詳しい経歴は明かされていなかったから、フェイク様に教えてもらって、初めて知った。

 サディールは皇帝陛下に反旗を翻せば敵が増えるため、皇帝陛下側に付き、怪しい人物をあぶり出しては遠回しに脅して追い出すのだそうだ。

「私が怪しい動きをすればどうなるでしょうか」
「真実を知らなければ命まで奪われることはないだろう」
「……フェイク様は大丈夫なんですか?」
「俺は兄上の味方でもないし敵でもない。今のところは無害な人間扱いだ。好かれてはいないけどな」

 皇帝陛下のところに自分のスパイを送っているということは、本当は無害だなんて思っていないんでしょう。

 フェイク様も自分の身が危なくなることを恐れて対策をしているのね。

 側妃になればのんびり暮らせると思ったのに……。

 皇帝陛下が真っ白なわけがないと思っていた。

 だけど、ジーナリア様のことを知ってしまった以上、さすがに黙ってはいられないわね。

 イエーヌ様のことも気になるし――

 自分や周りの安全を確保しつつ、ジーナリア様を解放するにはどうしたら良いのか考えなくちゃいけないわ。

 今日はミリエットが休みだから、少し、動いてみましょう。
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