上 下
26 / 55

25  「質問がある」

しおりを挟む
 ジーナリア様の部屋に行く途中で、ロニナに礼を言うと、泣き出しそうな顔で話しかけてくる。

「お怪我はされていませんか?」
「大丈夫だから心配しないで」
「本当に酷いです。話を聞くこともなく、あんなことをするだなんて」

 まずいと思った瞬間、フェイク様が口を開く。
 
「誰が聞いているかわからないから、その話はここでするな」
「も、申し訳ございません! ありがとうございます」

 皇帝陛下を悪く言っていたなんて本人に知られたら、ロニナの命は奪われてしまう。
 フェイク様に私からもお礼を言ったところで、ジーナリア様の部屋に着いた。

 まずは、私から先に話をしようと思って、ロニナに部屋の扉を叩いてもらうと、メイド服姿の若い女性が部屋から出てきた。

「ジーナリア様に何かご用でしょうか」

 私に優しくなったメイドも多いけど、彼女は違った。

 睨みつけるとまではいかないけど、不機嫌そうな表情で尋ねてきたので、こちらは笑顔で応える。

「私が言わなくても内容はわかるでしょう」
「ジーナリア様はお忙しいお方です。そんな理由でお会いできると思わないでください」

 フェイク様がいると警戒されるので、メイドからは見えない柱の影で待ってもらっている。
 だから、メイドはふてぶてしい態度で言い返してきた。

「しょうがないわね。話の内容は、どうして、《《妄想の話》を皇帝陛下に事実のように話したのか知りたいと伝えてちょうだい」
「妄想?」

 メイドの眉間に深い皺が刻まれた。

 こんな顔をされるだなんて、このメイドに完全になめられているわね。

 権力を自分から誇示したくないけど、なめられるのは気に食わない。

「ねえ、いくらジーナリア様のメイドだからって、私にそんな顔を見せても良いと思ってるの?」
「も、申し訳ございません!」
「悪いと思うのなら、さっき言ったことを、そのままジーナリア様に伝えてちょうだい」
「で、ですが、妄想の話をジーナリア様がするだなんて思えません」
「あなたに聞いてるんじゃないの。ジーナリア様からの答えを聞きたいのよ」

 メイドもさすがにこれ以上はまずいとわかったのか、軽く一礼して部屋の中に戻っていった。

 少し待たされたあと、ジーナリア様が部屋から出てきて話しかけてくる。

「私が妄想の話を皇帝陛下にしたと言っているそうねー」
「そうです。あなたが妄想の話を皇帝陛下にしたせいで、頬を叩かれました」
「まあ!」

 ジーナリア様は喜びの感情を隠さない。

 普段なら腹が立つところだけど、今はそうは思わないし、フェイク様が見ていることを知らないのだと思うと、笑ってしまいそうになる。

「妄想ではありませんわ。あなたがわたくしに言ったことを忘れただけだわー」
「いつどこで、私がそんな話をしたとおっしゃるんです?」
「先日、会った時に話していたわよー」
「そうでしたか」

 そっちがその気なら、こっちも同じ手を使わせてもらうわ。
 笑顔でジーナリア様に話しかける。

「そういえばその時、ジーナリア様はフェイク様の話ばかりしていましたわね」
「そんなことないわー。それこそ、あなたの妄想なんじゃないのー?」
「そうかもしれませんわね」

 ふふふっと笑うジーナリア様に、私は失笑して続ける。

「では、ジーナリア様がフェイク様をお慕いしているという妄想話を皇帝陛下に伝えてまいります。ジーナリア様も私と同じ目に遭うかもしれませんから、お気をつけくださいませね」
「ちょっと待ちなさいよー!」

 背を向けようとした私を、ジーナリア様が焦った顔になって呼び止めてきたので振り返る。

「妄想話を話されるのが嫌なら、私についての話も間違っていたと皇帝陛下に伝えてもらえますわね?」
「私は間違った話なんかしていないわー!」
「そうですか。あなたは妄想の話を皇帝陛下にされたのです。なら、私が皇帝陛下に妄想の話をしても、あなたにどうこう言われる筋合いはありませんわ」
「どうしてそんな生意気な態度が」

 ジーナリア様は途中で言葉を止めた。
 フェイク様がいることに気がついたようで、みるみるうちに表情が弱々しいものに変わっていく。

「ど、どうしてフェイク様が」
「ジーナリア妃に質問がある」
「な、なんでしょうかー」
「言った言ってないについては、俺には判断のしようがないことだから問うことはしない。俺が知りたいのは、あなたがその話を兄上にすることによって、セリーナ妃が危険な状況に陥ることになるとわからなかったのかということだ。それとも、わかっていてやったのか?」
「……あ」

 ジーナリア様は口を押さえて、フェイク様を見つめた。

 そうよね。
 あなたは私が邪魔だから、なりふり構わずに馬鹿な手を打っただけ。

 でも、それが目的でやっただなんて、フェイク様や皇帝陛下には口が裂けても言えないわよね。 

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

処理中です...