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21 「ご心配なく」
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イエーヌ様が忠告してくれたおかげで、その日の内にジーナリア様が訪ねてきても、驚くことはなかった。
ジーナリア様は側妃の中では最年長の二十五歳だ。
ロニナに詳しい話を聞いてみたところ、ジーナリア様は五年前にフェイク様と出会ってから、彼のことが好きだったらしい。
フェイク様との結婚を望んでいたそうだけど、皇帝陛下によって邪魔されて今に至るらしい。
メイドたちは本当に情報通だと感心してしまう。
守秘義務違反の気もするけど、別宮の外では話さないとのことなので、まあ良いでしょう。
というか、それを許す私だから話してくれているのだと思う。
私が話さなければ良いだけだものね。
「あなたとこうしてお話するのは初めてですわねー」
ウェーブのかかった艶のある長い黒髪を背中に垂らした、スレンダー体型のジーナリア様は、部屋の中に通すとソファに勝手に座り、私に話しかけてきた。
「そうですわね。お話ができて嬉しいですわ」
「本当にそう思ってるのかしらー?」
「思っていますとも」
ジーナリア様は色白で顔立ちも整っていて美人だ。
ただ、性格の悪さがにじみ出ているのか、あまり近寄りたくない雰囲気を醸し出している。
……性格が悪いのは私も同じだし、人のことは言えないかしら。
ジーナリア様から向けられる敵意は、同族嫌悪というやつもあるかもしれない。
でも、一番の理由は、私が他の側妃と比べてフェイク様と仲が良いからでしょう。
私は頼りにしているけど、フェイク様は表情があまり変わらないから、どう思っているのか全くわからないのよね。
しばらく微笑みあったあと、ジーナリア様が口を開く。
「ご挨拶してから、会った覚えがないですわー。わたくしのことを避けていたんじゃなくってー?」
「私が側妃の中では最下位と聞きましたの。不名誉なことですから、用事がある時以外は部屋からあまり出ないようにしておりましたわ」
「フェイク様とは、よく会っていたみたいですけどー?」
「イエーヌ様とも会っていましたよ」
「……そうなんですのねー」
間延びした話し方も気になるけど、この人は皇帝陛下の側妃なのに、フェイク様のことばかり気にしていて良いのかしら。
……私との会話だけなら良しとしましょう。
「あの、今日はどうして訪ねてきてくださったのでしょうか」
「……皇帝陛下の件に決まってるでしょー」
「……最下位の人間が皇帝陛下に選ばれるわけがありませんから、ご心配なく」
にこりと笑ってみせると、私の嫌味に気がついたのか、ジーナリア様は眉根を寄せる。
「あなた、良い度胸しているわねー。わたくしは他の側妃とも仲良くしているのよー」
「仲良くしたい人と仲良くすれば良いかと思いますわ」
遠回しにあなた方と仲良くする必要はないと伝えてみた。
わかってもらえるかしら。
「……そうねー。わたくしとあなたは仲良くなれそうにないものねー」
「元々、側妃同士が仲良くすることは今までにあまりないそうです。それに私は自分が変わっている人間だと自覚しております。ですから、距離を置くことによって、ジーナリア様方のご迷惑にならないようにしているんです」
「それなら性格を変えたらどうなのー」
「……どう変更しろとおっしゃるのです?」
ジーナリア様は少し考えてから答える。
「最下位なのだから、それ相応の態度を取れるような性格になったらどうなのー?」
「私がランク最下位のほうが、ジーナリア様たちには良いでしょう」
「どういうことー?」
「皆さん、正妃になりたいのですよね?」
「そ、そうよー」
「他の側妃の方たちよりも劣っている自覚がありますから正妃になるつもりはありません。……それに最下位に負けたとなっては、ジーナリア様たちのプライドが心配ですし」
売られた喧嘩を買う必要はないのに買ってしまった気分だわ。
でも、なめられているのも嫌なのよ。
笑顔で見つめると、ジーナリア様は無言で私を睨みつけてきた。
ジーナリア様は側妃の中では最年長の二十五歳だ。
ロニナに詳しい話を聞いてみたところ、ジーナリア様は五年前にフェイク様と出会ってから、彼のことが好きだったらしい。
フェイク様との結婚を望んでいたそうだけど、皇帝陛下によって邪魔されて今に至るらしい。
メイドたちは本当に情報通だと感心してしまう。
守秘義務違反の気もするけど、別宮の外では話さないとのことなので、まあ良いでしょう。
というか、それを許す私だから話してくれているのだと思う。
私が話さなければ良いだけだものね。
「あなたとこうしてお話するのは初めてですわねー」
ウェーブのかかった艶のある長い黒髪を背中に垂らした、スレンダー体型のジーナリア様は、部屋の中に通すとソファに勝手に座り、私に話しかけてきた。
「そうですわね。お話ができて嬉しいですわ」
「本当にそう思ってるのかしらー?」
「思っていますとも」
ジーナリア様は色白で顔立ちも整っていて美人だ。
ただ、性格の悪さがにじみ出ているのか、あまり近寄りたくない雰囲気を醸し出している。
……性格が悪いのは私も同じだし、人のことは言えないかしら。
ジーナリア様から向けられる敵意は、同族嫌悪というやつもあるかもしれない。
でも、一番の理由は、私が他の側妃と比べてフェイク様と仲が良いからでしょう。
私は頼りにしているけど、フェイク様は表情があまり変わらないから、どう思っているのか全くわからないのよね。
しばらく微笑みあったあと、ジーナリア様が口を開く。
「ご挨拶してから、会った覚えがないですわー。わたくしのことを避けていたんじゃなくってー?」
「私が側妃の中では最下位と聞きましたの。不名誉なことですから、用事がある時以外は部屋からあまり出ないようにしておりましたわ」
「フェイク様とは、よく会っていたみたいですけどー?」
「イエーヌ様とも会っていましたよ」
「……そうなんですのねー」
間延びした話し方も気になるけど、この人は皇帝陛下の側妃なのに、フェイク様のことばかり気にしていて良いのかしら。
……私との会話だけなら良しとしましょう。
「あの、今日はどうして訪ねてきてくださったのでしょうか」
「……皇帝陛下の件に決まってるでしょー」
「……最下位の人間が皇帝陛下に選ばれるわけがありませんから、ご心配なく」
にこりと笑ってみせると、私の嫌味に気がついたのか、ジーナリア様は眉根を寄せる。
「あなた、良い度胸しているわねー。わたくしは他の側妃とも仲良くしているのよー」
「仲良くしたい人と仲良くすれば良いかと思いますわ」
遠回しにあなた方と仲良くする必要はないと伝えてみた。
わかってもらえるかしら。
「……そうねー。わたくしとあなたは仲良くなれそうにないものねー」
「元々、側妃同士が仲良くすることは今までにあまりないそうです。それに私は自分が変わっている人間だと自覚しております。ですから、距離を置くことによって、ジーナリア様方のご迷惑にならないようにしているんです」
「それなら性格を変えたらどうなのー」
「……どう変更しろとおっしゃるのです?」
ジーナリア様は少し考えてから答える。
「最下位なのだから、それ相応の態度を取れるような性格になったらどうなのー?」
「私がランク最下位のほうが、ジーナリア様たちには良いでしょう」
「どういうことー?」
「皆さん、正妃になりたいのですよね?」
「そ、そうよー」
「他の側妃の方たちよりも劣っている自覚がありますから正妃になるつもりはありません。……それに最下位に負けたとなっては、ジーナリア様たちのプライドが心配ですし」
売られた喧嘩を買う必要はないのに買ってしまった気分だわ。
でも、なめられているのも嫌なのよ。
笑顔で見つめると、ジーナリア様は無言で私を睨みつけてきた。
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