上 下
11 / 55

10  「退治させてもらうわ!」

しおりを挟む
 あくまでも私は皇帝陛下の側妃なので、義理の弟といえど、独身男性のフェイク様の部屋で二人きりになることはできない。

 気分転換にとフェイク様を中庭に連れ出し、詳しい話を聞いてみる。

「何か、困っていらっしゃるようですわね」
「……話を聞いたのか」
「話とはどういうことでしょう? 私が聞いているのは、夕食を軽食にしなければならない理由ですわ」

 キャリーさんが話したということはわかっていると思うけど、私の口から言うのは違うと思った。
 だから、そう聞いてみると、フェイク様も納得してくれたようで「君だから話すが」と前置きしてから話し始めた。

 ジュリエッタのミスの対応を押し付けられたけど、どうしたら良いか迷っているらしい。

「嫌な思いをすることがわかっているのに、誰かに国王の相手をしてくれとは言い出しにくい」
「嫌な思いというのは具体的にはどのようなことなのでしょう」
「さりげなく体に触れてくるらしい。調子に乗ると、尻や胸を堂々と触るそうだ。本人は悪気がないから困る」
「そういう方は貴族にもいらっしゃいますわね」
「異国ではセクハラオヤジと呼ばれているらしい」
「せくはらおやじ、ですか」

 セクハラってどういう意味なのかしら。

 でも、きっと良い言葉ではないわよね。
 
「調子にのった時以外でも、酒に酔ったらメイドの体を触りまくるらしい。彼女たちは逆らうわけにはいかないから我慢していると聞いた。それから、彼はメイドにはパワハラオヤジと呼ばれているそうだ」
「ぱわはら」

 異国には独特の言葉があるのね。

 中庭の白いガゼボに近付いてきたところで、ふんっ、ふんっという声が聞こえてきた。

 何の音だろうとフェイク様と思わず顔を見合わせる。

 声が聞こえてくるガゼボの中を見てみると複数のメイドとイエーヌ様がいた。

 イエーヌ様はなぜか、丸いシルバートレイを持って素振りをしていた。

「これでっ、あの、おんなをっ、退治、してやるわっ!」

 あの女というのは私のことかしら。

 どうやら、シルバートレイで私を殴る練習をしているらしい。

 彼女達には見えにくい位置に立ち、その樣子をもう少しだけ眺める。

「わたしの、手でっ、悪を退治するのよ!」

 メイド達に話しかけているみたいだけど、誰も返事をしない。

 はんのうにこまっているみたいね。

 フェイク様が小声で尋ねてくる。

「君はどうして、彼女に嫌われているんだ」
「たぶん、性格が合わないだけですわ」
「……そうか。イエーヌ嬢誰かと考え方が違うと、その人を悪だと思う人間なんだな」

 頷くフェイク様に、軽く頭を下げる。

「話をしてまいりますので、少しだけお待ちいただけますか」

 フェイク様が頷いたことを確認し、一人で近づいていくと、気がついたイエーヌ様が叫ぶ。

「近づかないでちょうだい! 近づけば容赦なく退治させてもらうわ!」

 イエーヌ様はシルバートレイを持った手を前に突き出して叫んだ。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...