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10 「退治させてもらうわ!」
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あくまでも私は皇帝陛下の側妃なので、義理の弟といえど、独身男性のフェイク様の部屋で二人きりになることはできない。
気分転換にとフェイク様を中庭に連れ出し、詳しい話を聞いてみる。
「何か、困っていらっしゃるようですわね」
「……話を聞いたのか」
「話とはどういうことでしょう? 私が聞いているのは、夕食を軽食にしなければならない理由ですわ」
キャリーさんが話したということはわかっていると思うけど、私の口から言うのは違うと思った。
だから、そう聞いてみると、フェイク様も納得してくれたようで「君だから話すが」と前置きしてから話し始めた。
ジュリエッタのミスの対応を押し付けられたけど、どうしたら良いか迷っているらしい。
「嫌な思いをすることがわかっているのに、誰かに国王の相手をしてくれとは言い出しにくい」
「嫌な思いというのは具体的にはどのようなことなのでしょう」
「さりげなく体に触れてくるらしい。調子に乗ると、尻や胸を堂々と触るそうだ。本人は悪気がないから困る」
「そういう方は貴族にもいらっしゃいますわね」
「異国ではセクハラオヤジと呼ばれているらしい」
「せくはらおやじ、ですか」
セクハラってどういう意味なのかしら。
でも、きっと良い言葉ではないわよね。
「調子にのった時以外でも、酒に酔ったらメイドの体を触りまくるらしい。彼女たちは逆らうわけにはいかないから我慢していると聞いた。それから、彼はメイドにはパワハラオヤジと呼ばれているそうだ」
「ぱわはら」
異国には独特の言葉があるのね。
中庭の白いガゼボに近付いてきたところで、ふんっ、ふんっという声が聞こえてきた。
何の音だろうとフェイク様と思わず顔を見合わせる。
声が聞こえてくるガゼボの中を見てみると複数のメイドとイエーヌ様がいた。
イエーヌ様はなぜか、丸いシルバートレイを持って素振りをしていた。
「これでっ、あの、おんなをっ、退治、してやるわっ!」
あの女というのは私のことかしら。
どうやら、シルバートレイで私を殴る練習をしているらしい。
彼女達には見えにくい位置に立ち、その樣子をもう少しだけ眺める。
「わたしの、手でっ、悪を退治するのよ!」
メイド達に話しかけているみたいだけど、誰も返事をしない。
はんのうにこまっているみたいね。
フェイク様が小声で尋ねてくる。
「君はどうして、彼女に嫌われているんだ」
「たぶん、性格が合わないだけですわ」
「……そうか。イエーヌ嬢誰かと考え方が違うと、その人を悪だと思う人間なんだな」
頷くフェイク様に、軽く頭を下げる。
「話をしてまいりますので、少しだけお待ちいただけますか」
フェイク様が頷いたことを確認し、一人で近づいていくと、気がついたイエーヌ様が叫ぶ。
「近づかないでちょうだい! 近づけば容赦なく退治させてもらうわ!」
イエーヌ様はシルバートレイを持った手を前に突き出して叫んだ。
気分転換にとフェイク様を中庭に連れ出し、詳しい話を聞いてみる。
「何か、困っていらっしゃるようですわね」
「……話を聞いたのか」
「話とはどういうことでしょう? 私が聞いているのは、夕食を軽食にしなければならない理由ですわ」
キャリーさんが話したということはわかっていると思うけど、私の口から言うのは違うと思った。
だから、そう聞いてみると、フェイク様も納得してくれたようで「君だから話すが」と前置きしてから話し始めた。
ジュリエッタのミスの対応を押し付けられたけど、どうしたら良いか迷っているらしい。
「嫌な思いをすることがわかっているのに、誰かに国王の相手をしてくれとは言い出しにくい」
「嫌な思いというのは具体的にはどのようなことなのでしょう」
「さりげなく体に触れてくるらしい。調子に乗ると、尻や胸を堂々と触るそうだ。本人は悪気がないから困る」
「そういう方は貴族にもいらっしゃいますわね」
「異国ではセクハラオヤジと呼ばれているらしい」
「せくはらおやじ、ですか」
セクハラってどういう意味なのかしら。
でも、きっと良い言葉ではないわよね。
「調子にのった時以外でも、酒に酔ったらメイドの体を触りまくるらしい。彼女たちは逆らうわけにはいかないから我慢していると聞いた。それから、彼はメイドにはパワハラオヤジと呼ばれているそうだ」
「ぱわはら」
異国には独特の言葉があるのね。
中庭の白いガゼボに近付いてきたところで、ふんっ、ふんっという声が聞こえてきた。
何の音だろうとフェイク様と思わず顔を見合わせる。
声が聞こえてくるガゼボの中を見てみると複数のメイドとイエーヌ様がいた。
イエーヌ様はなぜか、丸いシルバートレイを持って素振りをしていた。
「これでっ、あの、おんなをっ、退治、してやるわっ!」
あの女というのは私のことかしら。
どうやら、シルバートレイで私を殴る練習をしているらしい。
彼女達には見えにくい位置に立ち、その樣子をもう少しだけ眺める。
「わたしの、手でっ、悪を退治するのよ!」
メイド達に話しかけているみたいだけど、誰も返事をしない。
はんのうにこまっているみたいね。
フェイク様が小声で尋ねてくる。
「君はどうして、彼女に嫌われているんだ」
「たぶん、性格が合わないだけですわ」
「……そうか。イエーヌ嬢誰かと考え方が違うと、その人を悪だと思う人間なんだな」
頷くフェイク様に、軽く頭を下げる。
「話をしてまいりますので、少しだけお待ちいただけますか」
フェイク様が頷いたことを確認し、一人で近づいていくと、気がついたイエーヌ様が叫ぶ。
「近づかないでちょうだい! 近づけば容赦なく退治させてもらうわ!」
イエーヌ様はシルバートレイを持った手を前に突き出して叫んだ。
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