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4 「何をしていらっしゃるの?」
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ミルエットには部屋の外にいてもらい、ちょうど良いタイミングで現れたメイドを部屋の中に呼んで話を聞いてみる。
「あなたが私の世話をしてくれるの?」
「はい! ロニナと申します。よろしくお願いいたします」
いかにも気の弱そうな見た目のロニナは、一礼したあとに続ける。
「私以外のメイドは他の側妃様の所へ行っているので、何かございましたら、全てわたくしにお申し付けください」
可哀想に。
この子は貧乏くじを引かされたというわけね。
「この別宮に、メイドは何人くらいいるのかしら」
「他に側妃様が5人いらっしゃいますので、一人につき10人がお世話させていただくことになっていますので、50人程でしょうか」
「私には何人のメイドがいるの?」
「……あの、申し訳ございません。わたくし1人になります」
「だから全てと言ったのね。でも、1人だったら休みがないじゃないの」
「メイドの多くは男爵家の令嬢です。ですが、わたくしだけ平民なんです。みんな、平民のわたくしと仕事をするのが嫌だと言うんです」
メイド個人の意見がまかり通るのもおかしな話ね。
上もそれを認めているのかしら。
「メイド長がいるでしょう。彼女はなんと言っているの」
「側妃様に迷惑をかけなければそれで良いと言っていました」
「じゃあ、私が迷惑だといえば良いのね?」
「そ、それは……」
ロニナは眉尻を下げて俯いた。
それはそれで、ロニナが怒られるということね。
貴族が平民と一緒に働くだなんて嫌だというこだわりは若い年代には特に多い。
ここのメイドも若い人ばかりなんでしょう。
だから、ロニナを辞めさせたいのね。
「ここの給金は良いの?」
「はい! わたくしがここに長く勤められれば、祖母の薬代にできますので頑張りたいんです!」
薬は貴族でも高いと思う値段だから、平民のロニナが普通に働いて買えるようなものではない。
彼女のおばあさんに薬を買ってあげたいけど、私のここでのお小遣いはそう多くはなさそうだし、まだ、もらえるかどうかもわからない。
確実でないことを口にするわけにはいかないわ。
「……じゃあ、体を壊さない働き方をしてもらわないと駄目ね」
「頑張りますので、よろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、よろしくね」
改めて挨拶を交わしたあと、別宮内を歩きながら、ここでの暮らしについて、ロニナから説明を受けることになった。
ミルエットも付いてこようとしたけど、部屋の前で待っているか、自分の部屋に戻るように指示した。
不服そうな顔をしていたけど「嫌なら私の世話をしなくて良い」と言うと、自分の部屋に戻ると言って、私の部屋の前から去っていった。
ミルエットと別れたあとは、まずはダイニングルームに案内してもらうことにした。
「他の五人の側妃様は、すでにここで暮らしておられまして、食事は自室でとっておられます。セリーナ様のものも運びますね」
「歩くのは嫌いじゃないの。ダイニングルームに行って食べるわ。そのほうが片付けも楽なはずよ」
「よ、よろしいんですか?」
「かまわないわ。そういえば、他の側妃は二階に住んでいるのよね」
「はい。申し訳ございませんが二階は」
「近寄らないようにすれば良いんでしょう。わかっているから安心して」
「ありがとうございます」
ロニナはホッとしたように頷くと、私以外の側妃について、簡単に特徴などを教えてくれた。
話の切りの良いところで、ロニナの足が止まる。
ダイニングルームに着いたのかと思ったけれど、彼女の視線の先を追うと、そうではないことがわかった。
大きな2枚扉の前に女性が二人立っている。
ピンク色のドレスを着た女性が一方的に、黒のドレスを着た女性に怒っていて、怒られている女性は涙を流して足元を見つめていた。
「あの、側妃の方々です」
ロニナが小声で言った時、怒っている女性がこちらを向いたので目が合った。
無視するわけにもいかないので、軽く一礼してから話しかける。
「何をしていらっしゃるの?」
「……あなたには関係ないことだわ」
「そうかもしれませんけど、そちらの方、泣いておられるので、どうしても気になりますわ」
「……場所を変えましょう」
ピンク色のドレスの女性は、黒色のドレスの女性にそう言うと、私に背を向けて歩いていく。
黒色のドレスの女性も泣きながら、その後を追いかけていった。
メイドも侍女の姿も見えないから、内密の話だったのかしら。
……にしても、私以外の側妃もくせのありそうな人ばかりね。
かかわらないようにしなくちゃ。
そう思ったのに、数日後、私はまた、同じ場面に出くわすことになる。
「あなたが私の世話をしてくれるの?」
「はい! ロニナと申します。よろしくお願いいたします」
いかにも気の弱そうな見た目のロニナは、一礼したあとに続ける。
「私以外のメイドは他の側妃様の所へ行っているので、何かございましたら、全てわたくしにお申し付けください」
可哀想に。
この子は貧乏くじを引かされたというわけね。
「この別宮に、メイドは何人くらいいるのかしら」
「他に側妃様が5人いらっしゃいますので、一人につき10人がお世話させていただくことになっていますので、50人程でしょうか」
「私には何人のメイドがいるの?」
「……あの、申し訳ございません。わたくし1人になります」
「だから全てと言ったのね。でも、1人だったら休みがないじゃないの」
「メイドの多くは男爵家の令嬢です。ですが、わたくしだけ平民なんです。みんな、平民のわたくしと仕事をするのが嫌だと言うんです」
メイド個人の意見がまかり通るのもおかしな話ね。
上もそれを認めているのかしら。
「メイド長がいるでしょう。彼女はなんと言っているの」
「側妃様に迷惑をかけなければそれで良いと言っていました」
「じゃあ、私が迷惑だといえば良いのね?」
「そ、それは……」
ロニナは眉尻を下げて俯いた。
それはそれで、ロニナが怒られるということね。
貴族が平民と一緒に働くだなんて嫌だというこだわりは若い年代には特に多い。
ここのメイドも若い人ばかりなんでしょう。
だから、ロニナを辞めさせたいのね。
「ここの給金は良いの?」
「はい! わたくしがここに長く勤められれば、祖母の薬代にできますので頑張りたいんです!」
薬は貴族でも高いと思う値段だから、平民のロニナが普通に働いて買えるようなものではない。
彼女のおばあさんに薬を買ってあげたいけど、私のここでのお小遣いはそう多くはなさそうだし、まだ、もらえるかどうかもわからない。
確実でないことを口にするわけにはいかないわ。
「……じゃあ、体を壊さない働き方をしてもらわないと駄目ね」
「頑張りますので、よろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、よろしくね」
改めて挨拶を交わしたあと、別宮内を歩きながら、ここでの暮らしについて、ロニナから説明を受けることになった。
ミルエットも付いてこようとしたけど、部屋の前で待っているか、自分の部屋に戻るように指示した。
不服そうな顔をしていたけど「嫌なら私の世話をしなくて良い」と言うと、自分の部屋に戻ると言って、私の部屋の前から去っていった。
ミルエットと別れたあとは、まずはダイニングルームに案内してもらうことにした。
「他の五人の側妃様は、すでにここで暮らしておられまして、食事は自室でとっておられます。セリーナ様のものも運びますね」
「歩くのは嫌いじゃないの。ダイニングルームに行って食べるわ。そのほうが片付けも楽なはずよ」
「よ、よろしいんですか?」
「かまわないわ。そういえば、他の側妃は二階に住んでいるのよね」
「はい。申し訳ございませんが二階は」
「近寄らないようにすれば良いんでしょう。わかっているから安心して」
「ありがとうございます」
ロニナはホッとしたように頷くと、私以外の側妃について、簡単に特徴などを教えてくれた。
話の切りの良いところで、ロニナの足が止まる。
ダイニングルームに着いたのかと思ったけれど、彼女の視線の先を追うと、そうではないことがわかった。
大きな2枚扉の前に女性が二人立っている。
ピンク色のドレスを着た女性が一方的に、黒のドレスを着た女性に怒っていて、怒られている女性は涙を流して足元を見つめていた。
「あの、側妃の方々です」
ロニナが小声で言った時、怒っている女性がこちらを向いたので目が合った。
無視するわけにもいかないので、軽く一礼してから話しかける。
「何をしていらっしゃるの?」
「……あなたには関係ないことだわ」
「そうかもしれませんけど、そちらの方、泣いておられるので、どうしても気になりますわ」
「……場所を変えましょう」
ピンク色のドレスの女性は、黒色のドレスの女性にそう言うと、私に背を向けて歩いていく。
黒色のドレスの女性も泣きながら、その後を追いかけていった。
メイドも侍女の姿も見えないから、内密の話だったのかしら。
……にしても、私以外の側妃もくせのありそうな人ばかりね。
かかわらないようにしなくちゃ。
そう思ったのに、数日後、私はまた、同じ場面に出くわすことになる。
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