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12  後手にまわるのはお断り

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 マゼケキ様が落ちたのは、城の中央にある大きな階段でした。
 高さもあり、打ちどころが悪かったらしく、意識不明とのことです。

「マゼケキ殿下が階段から落ちるところを見た人はいるの?」
「今、聞いた話だと大きな音がして見に行ったら、マゼケキが倒れていたらしいから、落ちるところを見た人はいない」
「二人だけの時は良いけど、人がいる時はマゼケキ殿下と呼んでよね」
「わかってるよ」

 レイディスは頷いてから話を続けます。

「宰相、もしくはオリンドル公爵令嬢の騎士が犯人だろうな」
「騎士は城内をうろつけないでしょう」

 彼は私達が一度、ペリアド王国を去った時に捕まってはいます。
 でも、関与を認めなかったことや、オリンドル公爵が助けたことにより、監視付きではありますが釈放されています。

 城に忍び込めば何とかなるかもしれませんが、さすがにそこまで危ない橋を渡らないでしょう。

「フェイアンナ様のためとはいえ、そこまでするとは思えないわ」
「となると、残りは一人だけだな」
「でも、そこまでする必要があるかしら」
「知られたくない何かを知っている可能性がある」
「……そう言われればそうね。私の殺害計画に関与していたなら、マゼケキ様のように口の軽そうな人に知られているのは嫌でしょうから」

 そうなると、口封じをされていく人は、マゼケキ様だけじゃなくなります。
 でも、騎士やフェイアンナ様に手を出せば、自分の命が危なくなるので静観しているといったところでしょうか。

「……お前はやっぱり国に戻ったほうがいい」
「まだ、私が何かされたわけじゃないわ」
「何かされてからじゃ遅いだろ! お前、一度、殺されてるのにどうしてそんなに呑気なんだよ!?」
「呑気に見えるようにしているだけよ! 思い出したら恐怖しかないから!」

 声を荒らげて言い返すと、レイディスは眉尻を下げます。

「大声を出して悪かった」
「こちらこそごめんなさい。あなたが言いたいことはわかるわ。だけど、私だって怖いものは怖いの。思い出すと逃げ出したくなる。だけど、それは王女がするべき行動じゃない。だから、考えないようにしているだけ」
「自分の身を守ることだって王女のやるべき行動だろ」
「わかっているけど、ここに来た以上はペリアド王国の立場で考えないといけないでしょう」
「どうせ見捨てるのに、そこまでやらないといけないのか」
「馬鹿な性格ですから」

 そこまで言って、レイディスの情けない話を思い出しました。

 ここに来てやっと、侍女に話を聞いてみたら、仮定の話だと何度も念押ししてから教えてもらえました。

 それは、レイディスが昔から私のことが好きで、自分以外の誰かと結婚するところを見たくなかったのではないかという話でした。

 お兄様とお姉様に確認の手紙を送ってみたところ、それで間違いないだろうとも返ってきました。
 
 私は知りませんでしたが、レイディスは昔から私との結婚を望んでくれていたらしく、お父様の許可が下りたら、その話をしてくれるつもりだったようです。

 ですが、お父様が認めなかったそうです。

 マゼケキ様達のことや、自分が殺されたことなどを思うと、レイディスと婚約していればそんなことにはならなかったのだと、お父様を恨みたい気持ちにもなります。

 今、レイディスは私のことをどう思っているのでしょう。
 一緒に付いてきてくれているということは、恋愛面では私のことはもう好きじゃないということですよね?
 もしくは、私が結婚しないとわかっているからなのかしら。

「どうかしたのか」

 私が黙って見つめていたからか、レイディスが不思議そうな顔をして尋ねてきました。

 昔から一緒にいることが多かったけれど、恋愛面で意識したことはありませんでした。
 だけど、私のことを好きだったと知ると、変に意識してしまいます。

「自分が本当に馬鹿だったと反省していたところです」
「反省してるようには見えなかったけどな」
「何度も反省しているからかもしれません。話題を変えるけど、宰相が絡んでいるとわかっているのに、このまま泳がせるのは良くないかしら」
 
 脅しをかけたから大人しくなるかと思ったら、見込み違いでした。

 後手に回るのはこれで終わりにしなければなりません。

「レイディス、考えがあるんだけど聞いてくれる?」
「嫌だと言っても、どうせ言うんだろ。話せよ」
「ありがとう」

 微笑んだあと、宰相を表舞台に引っ張り出すための案を、レイディスに話したのでした。
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