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穴
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ランドセルを置いて家を出ると道路に穴を見つけた。マンホール、ではない。さっきまでこんな物は無かったし、蓋が空いていたら三角コーンなりで囲われているはずだ。それに、縁らしきものもない。ただただアスファルトをくり抜いたような穴。
間違っても落ちないようにそろりと距離を詰めていく。穴の中が見えてくる。
それが視界に入った違和感にじっとりと暑さの所為だけではない汗が流れた。穴の筈なのに、中がまったく見えない。外からの光があるはずなのに側面も、当然底も見えない。
今度はじりじりと後退る。急に動けば、大きな音を立てれば、その穴から何かが飛び出して襲ってくるような気がした。
家の門の所から顔を出して穴の観察を続ける。自分の恐怖とは裏腹に上を車が通っても、隣を自転車が通っても穴は何もしなかった。だから、今度は石を手に取って再び穴へと近づいた。
再び穴の中が見える位置まで近づいて今度は手に持っていた石を中に投げ入れて大急ぎで下がる。
何も起こらない。
もう一度石を持って、今度は投げ込んだ石をじっと見ていた。石は急に見えなくなることもなく、普通の井戸に放り込んだ時のように段々と光が届かなくなって、小さくなって見えなくなった。
また門の所まで下がって穴を見る。まるで穴など無い様に犬の散歩をした人が隣を歩いて行った。犬も臭いを嗅ぐこともなく素通りしていった。
何事も無いまま時間が過ぎて、今度は猫が近づいてきた。猫は穴に気づいたらしく鼻先を近づけると。
バクリ
穴が立ち上がって猫を飲み込んだ。突然の事に驚いていると穴はニンマリと、三日月の様な口を見せた。
気づかれた。
弾かれた様に走って家の中に入る。急いで玄関のドアを閉めて鍵を掛ける。間違ってもドアが開いてしまわないように、背を預けて座り込んだ。激しく脈打つ心臓の音が外に聞こえてしまわないように、上から押さえつける。
入ってくると思った穴はドアノブを鳴らす事すら無かった。あそこからあまり動けないのか、ドアに触れないのかは分からない。それでも入って来られないならそれでいい。少なくとも家の中は安全だ。
猫が食べられる光景が浮かんだ。アレがこちらを見て口を釣り上げて笑う。治まったはずの心臓がまた跳ねた。それを何とか抑えて自分の部屋に向かおうと視線を上げると――
なんで
なんで、廊下に
穴が
穴がゆっくりと立ち上がり、ニンマリと笑った口が大きく開いて。
バクリ
間違っても落ちないようにそろりと距離を詰めていく。穴の中が見えてくる。
それが視界に入った違和感にじっとりと暑さの所為だけではない汗が流れた。穴の筈なのに、中がまったく見えない。外からの光があるはずなのに側面も、当然底も見えない。
今度はじりじりと後退る。急に動けば、大きな音を立てれば、その穴から何かが飛び出して襲ってくるような気がした。
家の門の所から顔を出して穴の観察を続ける。自分の恐怖とは裏腹に上を車が通っても、隣を自転車が通っても穴は何もしなかった。だから、今度は石を手に取って再び穴へと近づいた。
再び穴の中が見える位置まで近づいて今度は手に持っていた石を中に投げ入れて大急ぎで下がる。
何も起こらない。
もう一度石を持って、今度は投げ込んだ石をじっと見ていた。石は急に見えなくなることもなく、普通の井戸に放り込んだ時のように段々と光が届かなくなって、小さくなって見えなくなった。
また門の所まで下がって穴を見る。まるで穴など無い様に犬の散歩をした人が隣を歩いて行った。犬も臭いを嗅ぐこともなく素通りしていった。
何事も無いまま時間が過ぎて、今度は猫が近づいてきた。猫は穴に気づいたらしく鼻先を近づけると。
バクリ
穴が立ち上がって猫を飲み込んだ。突然の事に驚いていると穴はニンマリと、三日月の様な口を見せた。
気づかれた。
弾かれた様に走って家の中に入る。急いで玄関のドアを閉めて鍵を掛ける。間違ってもドアが開いてしまわないように、背を預けて座り込んだ。激しく脈打つ心臓の音が外に聞こえてしまわないように、上から押さえつける。
入ってくると思った穴はドアノブを鳴らす事すら無かった。あそこからあまり動けないのか、ドアに触れないのかは分からない。それでも入って来られないならそれでいい。少なくとも家の中は安全だ。
猫が食べられる光景が浮かんだ。アレがこちらを見て口を釣り上げて笑う。治まったはずの心臓がまた跳ねた。それを何とか抑えて自分の部屋に向かおうと視線を上げると――
なんで
なんで、廊下に
穴が
穴がゆっくりと立ち上がり、ニンマリと笑った口が大きく開いて。
バクリ
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