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第一部
21.悪魔たちの村へ行きます
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ルーリアが暮らしていた村は、アクトスから遥か西の辺境にある。
そこは人類にとって劣悪な環境だが、亜人種にとっては安全で安心できる場所だった。
迫害を受けている亜人種たちは、人間から隠れるように暮らすしかない。
かつて強大な力を持っていた悪魔でさえ、時代の流れには逆らえなかった。
俺とルーリアは地図を広げ、場所の確認をする。
「この辺りか?」
「う~ん、たぶんそうなのじゃ」
「たぶんって、自分がいた場所だろ?」
「し、仕方ないじゃろ! 地図なんてちゃんと見たことないのじゃから」
「えっ、じゃあどうやって王都まで攻め込んできたんだ?」
「適当に人が多そうな場所を回ったらついたのじゃ!」
偶然ってことね。
こんな魔王に滅ぼされかけていたのか……王国は。
「やれやれ……で、場所は大体この辺として、問題は移動手段だな」
「なぜ問題なのじゃ?」
「普通に遠すぎる。速い馬車でも数週間はかかるし、探しながらとなればもっとだ」
ルーリアはよく一人でこの距離を移動してきたな。
俺だったら途中で面倒になって、引き返すかさぼっているだろうに。
「せめて数日で移動できる手段があればいいんだけど」
「む、それなら良いものがおるぞ!」
「良いもの?」
「妾のペットじゃ!」
ルーリアのペットってモンスターか?
確かに翼をもつモンスターでもいれば、馬車より早く移動できるな。
たぶん飛竜か何かだろう。
「ちなみに何?」
「レッドドラゴン!」
「ど、ドラゴン!?」
予想の斜め上を言っていた。
彼女のモンスター生成能力は、強大な力を持つドラゴンさえ生み出せるのか。
思わず声に出て驚いてしまった俺に、ルーリアは自慢げな表情を見せる。
「特別に見せてやるのじゃ! 広い場所へ行くぞ」
「あ、ああ……」
動揺したまま俺はルーリアと外に出る。
向かったのは街の外にある森の中。
広い場所で、かつ人に見られないことを優先して、少し深い場所に来ている。
「さぁ来るがよい! 妾のしもべよ!」
ルーリアがそう言うと、彼女の影が大きく広がり、黒い沼が出現する。
そこからどっぽりと音をたてて、巨大な翼が先に顔を出す。
首、胴体まで見えた頃には、見上げなければならない高さに立ってしていた。
「本当にレッドドラゴンを……」
「どうじゃ! すごいじゃろ?」
「ああ、素直に驚くよ」
子供だとか、色々言ったけど、素質は魔王で間違いない。
それを改めて実感させられる。
思い返せば王都へ侵攻したときも、強力なモンスターをチラホラみかけたな。
「こいつに乗れば、どのくらいで着きそうだ?」
「う~ん、前に住んでた村なら二日で行けると思うのじゃ」
「二日? さすがドラゴン」
馬車なんて比較にならない速度ってことか。
良い感じだぞ。
行き帰りで最低四日くらい、探索に時間がかかっても長くて一週間って所か。
そのくらいなら家を空けても問題ないだろう。
「ルーリア、ここで少し待っててくれるか?」
「む、どこに行くのじゃ?」
「クロエに伝えてくるんだよ。ちょっと西の果てに行ってくるって」
「わかったのじゃ!」
一旦家に戻った俺は、事情をクロエに説明して森へと戻った。
クロエは文句ひとつ言わず、大きなため息だけついて見送ってくれたよ。
彼女には一番苦労をかけているし、帰ったら労わないとな。
「ジーク!」
「ああ、行こうか」
「うむ!」
ドラゴンに乗って空を飛ぶ。
なんて体験を、普通の人間がすることはないだろう。
千年前は飛竜に乗ったくらいの経験はあるけど、こんなに巨大なドラゴンの背に乗ったのなんて初めてだ。
「おぉ、やっぱ速いな!」
「そうじゃろ~ 妾の自慢の乗り物じゃ!」
頬をきる風が心地いい。
流れる雲を抜けながら、景色としての大地を眺める。
高速で空を飛んでいる実感に浸りながら、俺たちは西へと向かった。
二日はあっという間に過ぎる。
途中に休憩も挟んで、半日遅れで目的の付近にたどり着く。
上空から探してみると、ルーリアが指をさした。
「あそこじゃ」
「よし。降りよう」
上空からでは景色しか見えない。
最初に住んでいた村だし、彼女の話通りなら、ここには誰もいないはずだ。
現に近づくと、襲撃された悲惨な痕跡だけが残っている。
「酷いな。これ全部襲われたときに?」
「……うん」
「そうか」
小さな村だったのだろう。
規模からして、暮らしていた悪魔は百もいない。
ひっそりと隠れるように暮らしていた彼らを、どこかの国が襲った。
家も、畑も、道もボロボロになっている。
「ここからどっちに逃げたのか覚えてるか?」
「もっと西じゃ。あっちのほう」
彼女が指をさした方角に目を向ける。
木々が不自然に倒され、大人数が移動した形跡が残っていた。
逃げる彼らを、大群が追っていった様子が想像できる。
俺たちは痕跡を頼りに悪魔たちを探す。
ずっと西へ、西へと逃げた痕跡だけが残されている。
どこかに定住していればいいが、この様子だとしつこく追われたようだな。
「みんな……」
ルーリアが心配そうに先を見つめる。
自分に責任を擦り付けた悪魔たちを、彼女は心配できるのか。
出来ることなら、ちゃんと会わせてあげたい。
それで、ちゃんと彼女に謝らせてやる。
密かに意気込んでいた俺だったが、現実というものはいつの時代の残酷で、どうしようもない。
「っ……嫌じゃ」
「嘘だろ」
俺たちが見たのは地獄のような光景だ。
たどり着いた先で、荒れ果てた地の真ん中に、悪魔の死体が山積みされている。
死体の山の頂上に、誰かが座っていた。
そこは人類にとって劣悪な環境だが、亜人種にとっては安全で安心できる場所だった。
迫害を受けている亜人種たちは、人間から隠れるように暮らすしかない。
かつて強大な力を持っていた悪魔でさえ、時代の流れには逆らえなかった。
俺とルーリアは地図を広げ、場所の確認をする。
「この辺りか?」
「う~ん、たぶんそうなのじゃ」
「たぶんって、自分がいた場所だろ?」
「し、仕方ないじゃろ! 地図なんてちゃんと見たことないのじゃから」
「えっ、じゃあどうやって王都まで攻め込んできたんだ?」
「適当に人が多そうな場所を回ったらついたのじゃ!」
偶然ってことね。
こんな魔王に滅ぼされかけていたのか……王国は。
「やれやれ……で、場所は大体この辺として、問題は移動手段だな」
「なぜ問題なのじゃ?」
「普通に遠すぎる。速い馬車でも数週間はかかるし、探しながらとなればもっとだ」
ルーリアはよく一人でこの距離を移動してきたな。
俺だったら途中で面倒になって、引き返すかさぼっているだろうに。
「せめて数日で移動できる手段があればいいんだけど」
「む、それなら良いものがおるぞ!」
「良いもの?」
「妾のペットじゃ!」
ルーリアのペットってモンスターか?
確かに翼をもつモンスターでもいれば、馬車より早く移動できるな。
たぶん飛竜か何かだろう。
「ちなみに何?」
「レッドドラゴン!」
「ど、ドラゴン!?」
予想の斜め上を言っていた。
彼女のモンスター生成能力は、強大な力を持つドラゴンさえ生み出せるのか。
思わず声に出て驚いてしまった俺に、ルーリアは自慢げな表情を見せる。
「特別に見せてやるのじゃ! 広い場所へ行くぞ」
「あ、ああ……」
動揺したまま俺はルーリアと外に出る。
向かったのは街の外にある森の中。
広い場所で、かつ人に見られないことを優先して、少し深い場所に来ている。
「さぁ来るがよい! 妾のしもべよ!」
ルーリアがそう言うと、彼女の影が大きく広がり、黒い沼が出現する。
そこからどっぽりと音をたてて、巨大な翼が先に顔を出す。
首、胴体まで見えた頃には、見上げなければならない高さに立ってしていた。
「本当にレッドドラゴンを……」
「どうじゃ! すごいじゃろ?」
「ああ、素直に驚くよ」
子供だとか、色々言ったけど、素質は魔王で間違いない。
それを改めて実感させられる。
思い返せば王都へ侵攻したときも、強力なモンスターをチラホラみかけたな。
「こいつに乗れば、どのくらいで着きそうだ?」
「う~ん、前に住んでた村なら二日で行けると思うのじゃ」
「二日? さすがドラゴン」
馬車なんて比較にならない速度ってことか。
良い感じだぞ。
行き帰りで最低四日くらい、探索に時間がかかっても長くて一週間って所か。
そのくらいなら家を空けても問題ないだろう。
「ルーリア、ここで少し待っててくれるか?」
「む、どこに行くのじゃ?」
「クロエに伝えてくるんだよ。ちょっと西の果てに行ってくるって」
「わかったのじゃ!」
一旦家に戻った俺は、事情をクロエに説明して森へと戻った。
クロエは文句ひとつ言わず、大きなため息だけついて見送ってくれたよ。
彼女には一番苦労をかけているし、帰ったら労わないとな。
「ジーク!」
「ああ、行こうか」
「うむ!」
ドラゴンに乗って空を飛ぶ。
なんて体験を、普通の人間がすることはないだろう。
千年前は飛竜に乗ったくらいの経験はあるけど、こんなに巨大なドラゴンの背に乗ったのなんて初めてだ。
「おぉ、やっぱ速いな!」
「そうじゃろ~ 妾の自慢の乗り物じゃ!」
頬をきる風が心地いい。
流れる雲を抜けながら、景色としての大地を眺める。
高速で空を飛んでいる実感に浸りながら、俺たちは西へと向かった。
二日はあっという間に過ぎる。
途中に休憩も挟んで、半日遅れで目的の付近にたどり着く。
上空から探してみると、ルーリアが指をさした。
「あそこじゃ」
「よし。降りよう」
上空からでは景色しか見えない。
最初に住んでいた村だし、彼女の話通りなら、ここには誰もいないはずだ。
現に近づくと、襲撃された悲惨な痕跡だけが残っている。
「酷いな。これ全部襲われたときに?」
「……うん」
「そうか」
小さな村だったのだろう。
規模からして、暮らしていた悪魔は百もいない。
ひっそりと隠れるように暮らしていた彼らを、どこかの国が襲った。
家も、畑も、道もボロボロになっている。
「ここからどっちに逃げたのか覚えてるか?」
「もっと西じゃ。あっちのほう」
彼女が指をさした方角に目を向ける。
木々が不自然に倒され、大人数が移動した形跡が残っていた。
逃げる彼らを、大群が追っていった様子が想像できる。
俺たちは痕跡を頼りに悪魔たちを探す。
ずっと西へ、西へと逃げた痕跡だけが残されている。
どこかに定住していればいいが、この様子だとしつこく追われたようだな。
「みんな……」
ルーリアが心配そうに先を見つめる。
自分に責任を擦り付けた悪魔たちを、彼女は心配できるのか。
出来ることなら、ちゃんと会わせてあげたい。
それで、ちゃんと彼女に謝らせてやる。
密かに意気込んでいた俺だったが、現実というものはいつの時代の残酷で、どうしようもない。
「っ……嫌じゃ」
「嘘だろ」
俺たちが見たのは地獄のような光景だ。
たどり着いた先で、荒れ果てた地の真ん中に、悪魔の死体が山積みされている。
死体の山の頂上に、誰かが座っていた。
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