19 / 26
第一部
19.それなら一緒に来いよ
しおりを挟む
襲撃された村は業火に焼かれた。
優れた魔法の才能を持つ悪魔たちでも、数の力には勝てない。
数千人いた同胞は半数以下となり、生き残った者たちは西へと逃げた。
しかし、逃げた先でも彼女たちは襲われてしまった。
どこへ逃げても、何度抗っても、人間は彼女たちを追いかけた。
そんな折、彼女は立ち上がった。
襲い掛かる人間たちを、モンスターを生み出すことで返り討ちにしたのだ。
彼女は人間たちに宣言した。
「妾は魔王ルーリアじゃ! これ以上貴様ら人間の好きにはさせんぞ!」
堂々たる宣言に、人間たちは撤退していった。
そして、一抹の平穏が訪れた。
が、それも長くは続かなかった。
魔王が誕生したという知らせが広がり、複数の国で徒党を組み、今まで以上の大舞台で人間たちが攻め込んできたのだ。
彼女はモンスターの群れを生み出し応戦した。
何とか退けることには成功したものの、多くの犠牲者を出してしまう。
それでも同胞を守るために奮闘した彼女を、誰も責めるはずはない。
と、思っていたのは彼女だけだった。
「お前が魔王などと名乗るからだぞ!」
「そうだ! 上手くやり過ごしていれば、いつか忘れていたかもしれないのに」
「そもそもお前のような子供が魔王を名乗る方が間違っている」
「まったくだ。余計なことを……」
同胞たちは彼女を責めた。
責任を押し付け、仲間の死を彼女のせいにしたのだ。
孤立し一人ぼっちになった彼女は、悲嘆の中歩き出した。
こうなってのもすべて人間が攻めてきたからだ。
彼らさえいなければ、自分が孤立することなどなかった。
悪魔として、魔王として人間を滅ぼす。
そうすれば、皆もきっとわかってくれる。
そう信じてここまでやってきた。
「なるほどな」
笑えない話だ。
少なくとも、小さな女の子が抱え込んでいい内容じゃない。
人間の身勝手さと、同胞たちの手のひら返しに踊らされて、彼女はたった一人で戦っていたんだ。
仲間なんていない。
そう言っていた彼女は、本当に一人ぼっちだった。
理解した途端、同情してしまうのは仕方のないことだろう。
「なぁお前、もしよ――」
「話は終わったのじゃ。早く妾を殺すがよい」
「は? 今なんて?」
「殺せと言っておるのじゃ! 妾にはもう何もない。帰る場所もない。お前たち人間に捕まるくらいなら、殺されたほうがマシじゃ!」
「お前……」
悲しそうな瞳が印象的で、流れ出る涙がより切なさを醸し出す。
彼女は本気で言っている。
惨めな思いをしたくないと、その声と表情が語っている。
それほどまでに絶望し、追い込まれてしまっている。
こんなにも小さな女の子が死を望む。
「そんなの……間違ってるだろ」
「何がじゃ? 何が間違いなのじゃ! 妾は間違ってなどおらん!」
「ああ、お前は間違ってなんかないよ」
「へっ……?」
「間違っているのはお前じゃない。お前をここまで追い込んだ世界だ」
亜人種差別、人間優位の繁栄。
これによって作り上げられた世界そのものが間違っている。
争いが絶えなかった千年前とは違う理由で、世界に対して嫌悪感を抱く。
どうして誰も気づかない。
どうして誰も変えようとしない。
俺はこんな世界にするために、身を粉にして戦ったのか?
俺が剣術を極めたかったのは、こんな世界を守るためなのか?
全部ふざけるな、だ。
「提案がある」
「……提案?」
「ああ。もしよかったら、俺の家に来ないか?」
「な、なな、何を言っておるのじゃ!」
「そう驚くなよ。別に取って食うつもりはないからさ」
「ふざけるな! 何を企んでおるのじゃ!」
「何も企んでないって」
唐突な提案だったこともあり、ルーリアはひどく疑っている様子だった。
俺は誤解されないように説明する。
「俺の所にもさ。同じよう人間に迫害されて、嫌な思いをした奴らがいるんだよ。そういう奴らが集まって、一緒に暮らしてるんだ。人数なら亜人のほうが多いくらいだぞ」
「な、なぜじゃ?」
「なぜって?」
「お前は……人間じゃろ? 人間は亜人が嫌いなんじゃろ?」
「大多数の人間はそうだな。でも、俺は違うよ」
俺は亜人に対して偏見を持っていない。
千年前も、今も変わらない。
理由は、俺が元々この世界の人間ではないからだ。
亜人なんていない世界で生まれて、創作物の中だけに登場していた彼らは、俺にとってあこがれだった。
千年前は争いが絶えなかった所為で、亜人とも戦う羽目になったけど……
「俺はむしろ、お前たちみたいなやつらが好きだ」
「す……」
「だから放っておけない。このまま見捨てたくもない」
俺は彼女に手を差し伸べる。
「お前が望むなら、俺がずっと傍にいてやろう。お前に危害を加える奴は、俺が真っ先にぶっとばしてやる。寂しい想いはさせない」
言葉がどこまで届くのか。
閉ざされつつある彼女の心まで、ちゃんと伝わってくれるのか。
俺は信じて語り掛ける。
「で、でも……妾は人間を……」
「そうだな。でもさ? そいつらだって、お前の仲間に手をかけたんだ。お相子ってことで良いと思うけど?」
「……いいのかな?」
「いいさ。俺が許す」
何の権利もないけどね。
まぁ、もしも俺の仲間が傷つけられていたら、同じようには言えなかったと思うけど。
そう言う意味では、運が良かったということだ。
「で? 来てくれるか?」
「ほ、本当に良いのか? 妾がいても」
「何度も言わせるなよ。俺が良いって言ってるんだ。それ以上はない」
俺は語り掛けた。
言葉は胸に響き、彼女の手を動かす。
そうしてようやく、互いの手がつながった。
優れた魔法の才能を持つ悪魔たちでも、数の力には勝てない。
数千人いた同胞は半数以下となり、生き残った者たちは西へと逃げた。
しかし、逃げた先でも彼女たちは襲われてしまった。
どこへ逃げても、何度抗っても、人間は彼女たちを追いかけた。
そんな折、彼女は立ち上がった。
襲い掛かる人間たちを、モンスターを生み出すことで返り討ちにしたのだ。
彼女は人間たちに宣言した。
「妾は魔王ルーリアじゃ! これ以上貴様ら人間の好きにはさせんぞ!」
堂々たる宣言に、人間たちは撤退していった。
そして、一抹の平穏が訪れた。
が、それも長くは続かなかった。
魔王が誕生したという知らせが広がり、複数の国で徒党を組み、今まで以上の大舞台で人間たちが攻め込んできたのだ。
彼女はモンスターの群れを生み出し応戦した。
何とか退けることには成功したものの、多くの犠牲者を出してしまう。
それでも同胞を守るために奮闘した彼女を、誰も責めるはずはない。
と、思っていたのは彼女だけだった。
「お前が魔王などと名乗るからだぞ!」
「そうだ! 上手くやり過ごしていれば、いつか忘れていたかもしれないのに」
「そもそもお前のような子供が魔王を名乗る方が間違っている」
「まったくだ。余計なことを……」
同胞たちは彼女を責めた。
責任を押し付け、仲間の死を彼女のせいにしたのだ。
孤立し一人ぼっちになった彼女は、悲嘆の中歩き出した。
こうなってのもすべて人間が攻めてきたからだ。
彼らさえいなければ、自分が孤立することなどなかった。
悪魔として、魔王として人間を滅ぼす。
そうすれば、皆もきっとわかってくれる。
そう信じてここまでやってきた。
「なるほどな」
笑えない話だ。
少なくとも、小さな女の子が抱え込んでいい内容じゃない。
人間の身勝手さと、同胞たちの手のひら返しに踊らされて、彼女はたった一人で戦っていたんだ。
仲間なんていない。
そう言っていた彼女は、本当に一人ぼっちだった。
理解した途端、同情してしまうのは仕方のないことだろう。
「なぁお前、もしよ――」
「話は終わったのじゃ。早く妾を殺すがよい」
「は? 今なんて?」
「殺せと言っておるのじゃ! 妾にはもう何もない。帰る場所もない。お前たち人間に捕まるくらいなら、殺されたほうがマシじゃ!」
「お前……」
悲しそうな瞳が印象的で、流れ出る涙がより切なさを醸し出す。
彼女は本気で言っている。
惨めな思いをしたくないと、その声と表情が語っている。
それほどまでに絶望し、追い込まれてしまっている。
こんなにも小さな女の子が死を望む。
「そんなの……間違ってるだろ」
「何がじゃ? 何が間違いなのじゃ! 妾は間違ってなどおらん!」
「ああ、お前は間違ってなんかないよ」
「へっ……?」
「間違っているのはお前じゃない。お前をここまで追い込んだ世界だ」
亜人種差別、人間優位の繁栄。
これによって作り上げられた世界そのものが間違っている。
争いが絶えなかった千年前とは違う理由で、世界に対して嫌悪感を抱く。
どうして誰も気づかない。
どうして誰も変えようとしない。
俺はこんな世界にするために、身を粉にして戦ったのか?
俺が剣術を極めたかったのは、こんな世界を守るためなのか?
全部ふざけるな、だ。
「提案がある」
「……提案?」
「ああ。もしよかったら、俺の家に来ないか?」
「な、なな、何を言っておるのじゃ!」
「そう驚くなよ。別に取って食うつもりはないからさ」
「ふざけるな! 何を企んでおるのじゃ!」
「何も企んでないって」
唐突な提案だったこともあり、ルーリアはひどく疑っている様子だった。
俺は誤解されないように説明する。
「俺の所にもさ。同じよう人間に迫害されて、嫌な思いをした奴らがいるんだよ。そういう奴らが集まって、一緒に暮らしてるんだ。人数なら亜人のほうが多いくらいだぞ」
「な、なぜじゃ?」
「なぜって?」
「お前は……人間じゃろ? 人間は亜人が嫌いなんじゃろ?」
「大多数の人間はそうだな。でも、俺は違うよ」
俺は亜人に対して偏見を持っていない。
千年前も、今も変わらない。
理由は、俺が元々この世界の人間ではないからだ。
亜人なんていない世界で生まれて、創作物の中だけに登場していた彼らは、俺にとってあこがれだった。
千年前は争いが絶えなかった所為で、亜人とも戦う羽目になったけど……
「俺はむしろ、お前たちみたいなやつらが好きだ」
「す……」
「だから放っておけない。このまま見捨てたくもない」
俺は彼女に手を差し伸べる。
「お前が望むなら、俺がずっと傍にいてやろう。お前に危害を加える奴は、俺が真っ先にぶっとばしてやる。寂しい想いはさせない」
言葉がどこまで届くのか。
閉ざされつつある彼女の心まで、ちゃんと伝わってくれるのか。
俺は信じて語り掛ける。
「で、でも……妾は人間を……」
「そうだな。でもさ? そいつらだって、お前の仲間に手をかけたんだ。お相子ってことで良いと思うけど?」
「……いいのかな?」
「いいさ。俺が許す」
何の権利もないけどね。
まぁ、もしも俺の仲間が傷つけられていたら、同じようには言えなかったと思うけど。
そう言う意味では、運が良かったということだ。
「で? 来てくれるか?」
「ほ、本当に良いのか? 妾がいても」
「何度も言わせるなよ。俺が良いって言ってるんだ。それ以上はない」
俺は語り掛けた。
言葉は胸に響き、彼女の手を動かす。
そうしてようやく、互いの手がつながった。
0
お気に入りに追加
856
あなたにおすすめの小説
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます
染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。
といっても、ほとんど前と一緒ですが。
変わり者で、落ちこぼれ。
名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。
それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。
ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。
そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。
そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。
父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。
これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。
隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。
8/26HOTラインキング1位達成!
同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~
夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】
かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。
エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。
すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。
「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」
女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。
そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と
そしてエルクに最初の選択肢が告げられる……
「性別を選んでください」
と。
しかしこの転生にはある秘密があって……
この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる