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第一部

12.久しぶりに王都へ戻ります

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 クエストボードに張られた依頼書には、現状で分かっている情報が開示されていた。
 王国軍は現在までに、二度大規模な殲滅作戦を実施している。
 一度目は魔王誕生の知らせがあってすぐのこと。
 王国騎士団の三割を投入し、魔王軍が勢力を広める前に叩こうとした。

 しかし、結果は惨敗に終わる。
 すでに魔王軍は、圧倒的とも言える戦力を保持していた。
 騎士団員が目にしたのは、視界を埋め尽くすモンスターの群れ。
 確認が出来ただけで、約五万体以上。
 数の力に押し負け、敢え無く騎士団は撤退した。

 二度目の作戦は、順当な計画のもとに遂行された。
 侵攻ルート上に罠を設置し、先手を取れるように、遠距離砲台も用意した。
 作戦に参加したのは、有志を含めて約一万人。
 周到な準備もあって、勝算は高いと思われた。

 が、結果は惨敗に終わってしまった。

 侵攻する魔王軍は、勢力をさらに広げていたのだ。
 その数なんと――十万体。
 一度目の倍の戦力を揃え、準備された策を全て真っ向から踏みつけた。
 後がなくなった王国は、近隣の冒険者組合に支援要請を出し、三度目の作戦に挑もうとしている。

「今回は最大の戦力である『勇者』が投入される……か」
 
 勇者って言っても、あいつのことだろ?
 だから大丈夫みたいな書き方してあるけど、全然説得力がないな。

 クロエと一緒にギルドボードの依頼書を眺めながら、呆れて笑ってしまった。
 要するに、二度の作戦失敗で戦力が不足しているから、冒険者も手伝ってほしいという話だ。
 言い回しは違うけど、お前たちも無関係じゃないだろ、的な一文も添えられていた。

「ジーク様、どうされますか?」
「一旦戻って皆にも伝えよう」
「かしこまりました」

 俺とクロエは組合所を出る。
 ここで俺は、本来の目的を思い出す。

「あっ、違うな。その前に買い物を済ませていこう」

 今日は五日に一回のオフ日だ。
 元々は夕飯の買い出しに行くつもりで、クロエと街に出たんだった。
 店に向う道中に組合所を通ったら、異様に混み合ってたから気になって現在に至る。

「材料買わずに帰ったら、ユミル辺りが怒るだろうからな」
「そうですね」

 クロエは小さく微笑み、店の方向へと振り向く。
 そのまま二人で買い物を済ませ、夕日がきれいに見える頃、家の扉を開けた。

「ただいまー」
「ただいま戻りました」
「あっ! ジーク様おっかえり~ クロエちゃんも!」
「お兄ちゃん、やっと帰ってきたの」
 
 出迎えてくれたのはユミルとシトナ。
 二人の手には、それぞれモップと雑巾が握られている。
 チラッと床や棚を見ると、ピカピカに磨かれているのがわかった。

「掃除は終わったみたいだな」
「もっちろん!」
「頑張ったのは私。ユミルはさぼってただけ」
「ちょっ、シトナちゃん!? なんでホントのこと言っちゃうの?」
「本当のこと……ね」

 クロエが冷めた目でユミルを見つめる。
 ギクッと反応したユミルは、小さく縮こまって謝る。

「ごめんなさい」
「罰としてお風呂掃除三日間」
「え、ひ……一人?」

 クロエは無言で頷く。

「……はい」

 ユミルは反論することなく、しょぼんとしながら返事をした。
 それから夕食の準備をして、全員で食卓を囲む。
 食事の時は全員が揃うし、話をするにはもってこいのタイミングだ。
 その場で俺は、組合所で見聞きしたことを伝えた。

「王国の要請か……受けるのか?」
「そのつもりだよ」

 グレンの質問に答えると、彼は目を細めて考えだす。
 何となく、彼が何を考えているのかはわかる。
 世界中で当たり前になっている亜人種差別。
 王国はその中心と言っても良い。
 亜人種は王都へ入れない。
 王都内で見かけるのは、奴隷として飼われている者だけ。
 ここにいる中にも、同じ扱いを受けていた者がいる。

「確かに王国を助ける義理はない。でも、侵攻ルート上にこの街もあるから、無関係ってわけじゃないんだよ。まぁだから、そういう理由で俺は参加する」

 正直に言えば、俺だって王国を助けたいとは思わない。
 自業自得だけど、散々な噂を立てられたからな。
 俺の仲間たちを侮辱する奴らを、許すなんてこともありえない。

「強制はしない。嫌なら待っていてくれ」
「いいや。ジークが参加するなら、オレたちも参加するぞ」
「うむ、グレンの言う通りである。主殿と共に歩むことこそ、我らの望み」

 グレンとリガルドがそう言うと、他の皆も同じ意見だと続く。
 結果的に全員参加で、魔王軍との戦いに参加することとなった。

 そして五日後――

 俺たちは二か月半ぶりに、王都の街に訪れていた。

「戻って来たのか……ここへ」

 見上げる青空に、街を覆う壁が入り込む。
 俺たちがいるのは王都外周に平原。
 戦いの地はここから西に向かった先、平原と渓谷の境となる。
 すでに王国の軍は作戦地点で待機済み。
 要請を受けた冒険者は、一旦王都へ集められていた。

「冒険者諸君! まずは助力に感謝する」

 姿を見せたのは騎士団長だった。

「先ほど報告があった。もう間もなく、魔王軍が渓谷を抜けてくる。魔王とはわが国最強の剣士……勇者ミゲル・エイルワース殿が戦う! そのためにはまず、モンスターの大群を突破しなくてはならない! 冒険者の皆には、可能な限りモンスターを殲滅してほしい」
「はっ! それくらい余裕だぜ」
「いつもやってることだからなぁ!」

 粋がる男冒険者たち。
 ガヤガヤと騒がしくなる様子を見て、騎士団長が笑う。

「ふっ、頼もしいかぎりだ。では行こう!」

 彼を先頭に、冒険者の一団は作戦エリアに向った。
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