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第一部

5.こっち見てんじゃねーよ

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 冒険者の街アクトス。
 王都から荷物いっぱいの馬車を走らせ、三日後の昼に到着した。
 道中は危険に見舞われることもなく、無事にここまでたどり着けたのは僥倖と言える。
 到着してすぐ、俺たちは宿を探した。
 何せ人数が多い。
 狭い部屋も、別々の宿になるのも困る。
 四苦八苦しながら探し回って、部屋は別々だけど同じ宿を取ることは出来た。

 その翌日。
 俺たちは冒険者組合と呼ばれる建物へと足を運んだ。
 冒険者組合は、冒険者がクエストを受注したり、情報を交換したりする場所だ。
 新しく冒険者になるためには、組合で登録をしなくてはならない。

「わざわざ登録しないと駄目なんて面倒くさいね~」
「ユミル、口じゃなくて足を動かして」
「は~い」

 腕をブラブラと大きく振って歩くユミル。
 それを見てため息をつくクロエ。
 屋敷でもよく見かける光景で、格好もメイド服のままだ。
 他の皆も同じで、屋敷と同じ服装を着ている。
 俺も貴族っぽい服のままだから、街中を歩いているとかなり目立つ。

「……いや、目立つのは別の理由か」
「どうかされましたか?」
「何でもないよ」

 この様子だと、気づいているのは俺だけか。
 すれ違う人たちが、チラチラと視線を向けて話している。
 確かに珍しいだろうな。

 しばらく歩き、大通りに出る。
 そこから道なりに進めば、横長の木造建築が見えてくる。
 看板にはデカデカと『冒険者組合』と書かれていた。

「ここですね」
「ああ、入ろうか」

 俺を先頭にして、冒険者組合へと足を踏み入れる。
 扉を開けるとベルが鳴り、誰かが入ってきたことを伝える。
 中にいた人たちの視線が、一斉にこちらへ向く。
 入ってすぐ目の前に、受付カウンターと書かれた窓口があった。
 俺たちは視線を感じながら、受付へと近づく。

「冒険者組合にようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、冒険者登録をしたいんですけど」
「登録ですね。失礼ですが、手数料が500トロンかかりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。今回ご登録されるのは何名様でしょう?」
「え~ 八人ですね」

 俺を含めた全員だ。
 一応登録だけしておいて、実際に誰がクエストを受けるかは後で決める。
 少なくとも今は、アカツキとシトナを戦わせるつもりはない。

「かしこまりました。では、こちらにお名前を記入してください」

 渡された名簿に、全員分の名前を書いていく。
 それをざっと確認して、受付嬢が言う。

「ありがとうござうます。ジョブ認定の準備をして参りますので、少々お待ちください」

 それをざっと確認して、受付嬢は奥へ消えていった。
 ユミルが俺に尋ねてくる。

「ねぇジーク様! ジョブ認定って何?」
「ん? ああ、そのままの意味だよ。剣士とか魔法使いってあるだろ? それを組合ではジョブって呼んでいて、何が合っているのか調べてくれるんだと」
「へぇ~ そんなのあるんだねぇ~」

 俺もここへ来る前に調べて知ったことだ。
 まぁ認定と言っても、特別な力を与えてくれるわけではないらしい。
 特殊な装置を使って、個人のデータを集計し、その人にあったジョブが何なのかがわかる。
 聞いた話だと、本人すら気づいていない才能も浮き彫りにされるとか。
 俺はたぶん剣士だと思うけど、他の皆が何になるのか、ちょっと楽しみではある。

 いや、今はそれよりも……

「なぁおい、あれ見ろよ。すげー集まりだな」
「ああ、笑えるな~ どっかの貴族のぼんぼんかぁ?」
「亜人なんて連れてるぜ。ここを奴隷商会か何かと間違えてんじゃねーの?」
「かもしれねーなぁ~」

 最初から気付いていた視線に、コソコソと声も聞こえてくる。
 街で感じていたものと同じだ。
 千年前と違って、現代での亜人種の立場は非常に弱い。
 数が減り、これまでの戦争で人類に負けた経緯から、家畜と同じ扱いをされることもある。
 彼らにとって、亜人を連れているということは、奴隷かペットを連れているようにしか見えないんだ。

「おっ! 亜人じゃない女もいるじゃねーか」
「ホントだ。中々良い女だな~」
「メイド服着てるぜぇ。金払ったら俺たちにもわけてくれたり?」
「あるかもな! ちょっくら頼んでみるかぁ?」

 ゲラゲラと笑い声が聞こえる。
 街中では気付かなかった彼女たちにも、下衆な声は聞こえてしまっていた。
 チラッと表情を見て、落ち込んでいるのがわかる。

「よっしゃ! 俺が聞いてきてやるよ!」
「おおーいいね! 頼んだぜ」

 ああ、腹が立つ。
 こんなにも腹が立ったのは、二度目の生では初めてかもしれない。
 良くないな、とても良くないぞ。

 話していた男の一人が、こちらに向かって歩いてくる。
 声をかけようと手を振りながら、ニヤニヤした顔で近づいてくる。

 やめてくれ。
 そんな顔をされたら――

「なぁあんた! ちょっ――っ!?」

 勢い余って、殺してしまいたくなる。
 
 その場にいた全員が、背筋が凍る感覚を味わった。
 蛇に睨まれたカエルのように、ピタリと固まって動かない。
 俺の発する殺気が、それほどまでに強力だったから。

「何か……用か?」
「なっ、なな、なんでもない」

 男は震えながら答えた。
 そのまま逃げるように組合を出ていく。
 他の話していた男たちも、後に続くように出ていった。
 関係ない冒険者も、次々に席を立つ。
 別窓口の受付嬢たちを除き、気づけば組合の中には、俺たち以外の姿がなくなっていた。
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