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 ルミナとの再会は、各人各様の変化をもたらした。
 姉のリエリアの場合――

「私がルミナより劣ってるなんてありえないわ。絶対に……絶対にないのよ!」

 大出世を果たしたルミナに影響され、いつも以上に仕事に励むようになった。
 空いた時間に錬金術に関する勉強もするようになる。
 今までの彼女は、自分は優れている、と信じて疑わなかった。
 しかし今、その自信が揺らいでいる。
 立場、環境こそが自身の優位性を示す要素だと彼女は知っていた。
 宮廷で働く自分と、第二王子に認められて大役を任されていたルミナ。
 どちらが優れているか?
 認められているか?
 揺らいだ自信を確信へと変えるため、彼女は生まれて初めての努力を始める。

 きっかけは怒りだった。
 決して褒められた感情ではないけれど、彼女にとってはよい傾向だった。
 元より才能には恵まれている。
 正しく努力し、成長することができれば……。
 彼女はいずれ、王国にとっても大きな存在となるかもしれない。

 その様子を室長は影から見守っていた。
 彼女の変化に、一番に気がついたのは室長だった。
 常に部下たちのことを気にかけ、必要に応じで仕事量を調整したり、時に期待から厳しく接することもある。
 リエリアに対しては、これまでルミナに押し付けていた罰として、彼女と同等の仕事量を割り振っていた。
 
(……変わろうとしているのかしら)

 真意はわからない。
 なぜ努力するようになったのか。
 ルミナに触発されたのだろうか。
 ただ一つ言えるのは、彼女の錬金術師としての研鑽は、たった今始まったのだということ。

(少しだけ、仕事量を減らしましょう)

 彼女が自信をつけられるように。
 ほんの少しずつでも、勉学の時間に当てられる余裕ができるように。
 これをきっかけに彼女が成長してくれたら、ルミナがいなくなった穴もようやく埋まるだろう。
 
 室長はリエリアを見守りながら、自身の仕事に戻る。
 彼女はずっと、心の奥底で引っかかっていた。
 ルミナを追い込んでいたのはリエリアやその周囲だが、自分もその一人なのではないか、と。
 彼女の才能に期待して、成長のために裏で仕事量を変えていた。
 期待からの行為だった。
 決して悪意や、嫌がらせの目的ではない。
 リエリアたちとは違う。
 けれど、それが彼女を追い詰めてしまっていたのなら……。
 そう思わずにはいられなかった。

 ありがとうございました!
 殿下から聞きました! 
 私を推薦してくれたこと! 
 それに仕事のことも、気づいて調整してくださっていたこと!

 ルミナからの言葉が、彼女の心を救った。
 
「感謝すべきは私のほうね」

 よくぞ。
 よくぞ期待に応えてくれたと。
 成長し、巣立った大きな才能に、更なる期待を寄せる。
 彼女ならきっと大丈夫だ。
 恵まれた環境で、ようやく手に入れた居場所で、今度はもっと大きな空へと羽ばたいてく。
 それを見守ることが、今の室長の喜びになっていた。

 この二人にはある種、よい変化が現れた。
 ただ一人……そうはならなかった人間がいる。
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