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「錬金術があるので、作り方は重要じゃないんです。必要なのは素材と、完成品のイメージ。食品なので、特に味ですね」
「そこが一番想像しにくそうだけど……自信ありそうな顔ね」
「ありますよ! こう見えて、昔はグルメだったんです」
「グルメ?」
「あ、なんでもないです」
調子に乗って前世の話をしかけて口を閉じた。
前世では少ないお金をやり繰りして、偶の贅沢で外食したり。
何度も行けるわけじゃないから、事前にいっぱい調べて、おすすめのお店のチェックしたっけ。
今でも覚えている。
辛いことがたくさんあったからこそ、楽しい思い出はより鮮明に。
「試しにいくつか作ってみます」
「見学させてもらうわ」
緊張からワクワクへと内心が移り変わる。
初めての錬成は、いつだってワクワクするものだ。
さっき思い浮かんだし、無難にマヨネーズから作ってみる?
ケチャップのほうが原材料がトマトだし、わかりやすいかな?
スパイス系も、わかる範囲で試してみよう。
「素材、申請しておいてよかった」
予め必要になりそうな素材は、アルマさんに申請して集めてもらった。
香草はポーションづくりで使っていたから揃っている。
野菜や貝類、生モノは用意できなかったから、また今度にしよう。
「卵は……あんまりない。トマトはあるし。先にケチャップかな」
「ケチャップ?」
「酸味が効いたトマトのソース? みたいなものです」
「へぇ、そんなのもあるのね」
この世界にはケチャップもない。
私にとってはポピュラーな調味料やソース系も不足している。
科学技術に関しては、国によって差はあるようだけど、食文化に関しては全体的に遅れているみたいだ。
「確か材料は、トマトと塩と砂糖、あとお酢だったかな。スパイスも使われていたはずだけど、香草で代用できるものを」
考え事をぶつぶつ口に出しながら、試行錯誤して組み合わせを試す。
味を知っているという大きなアドバンテージを活かし、作っては舐め、作っては舐め。
徐々に口の中が酸っぱくなってきた。
七パターンほど作成し、テーブルに並べる。
「一番近いのはこれだけど、ちょっと酸っぱいかな」
私はもう少し甘いのがいい。
砂糖を増やす?
なんだか違うような気がする。
何が足りないのだろう。
今のままだとトマト感が強いから、もう少しソースっぽくするには……。
「醤油とか」
「また知らない単語が出たわね。どこの言葉なの? ラットマン王国の言葉じゃないでしょう?」
「あーえっと、私が勝手に考えた名前、です」
「そういうこともしてるのね。意外だわ」
「あはははっ……」
ちょっと恥ずかしい。
聖女様視点だと、私は自分だけの言語を作っている変な人、になっている。
いつか変なイメージがつかないか心配になる。
「これはこれで使えるから、先に醤油を作ろうかな」
醤油の主な材料はわかる。
大豆、小麦、そしてお塩だ。
大変な手順は、錬金術で全部無視できる。
醤油を自力で作った人が見たら、なんてインチキだと怒るだろうけど。
「できました!」
「これが醤油? 黒いわね」
完成した醤油の小瓶を聖女様が覗き込む。
香りは完全にあの醤油だ。
味も……。
ペロッと舐めて確認する。
「完璧」
懐かしい味だ。
前世の記憶が蘇るような。
「私もいい?」
「はい! どうぞ」
聖女様も恐る恐る、出来上がった醤油を味見した。
この日、初めて――
「美味しいわね」
前世の味が、この世界の人間の舌を唸らせた。
「そこが一番想像しにくそうだけど……自信ありそうな顔ね」
「ありますよ! こう見えて、昔はグルメだったんです」
「グルメ?」
「あ、なんでもないです」
調子に乗って前世の話をしかけて口を閉じた。
前世では少ないお金をやり繰りして、偶の贅沢で外食したり。
何度も行けるわけじゃないから、事前にいっぱい調べて、おすすめのお店のチェックしたっけ。
今でも覚えている。
辛いことがたくさんあったからこそ、楽しい思い出はより鮮明に。
「試しにいくつか作ってみます」
「見学させてもらうわ」
緊張からワクワクへと内心が移り変わる。
初めての錬成は、いつだってワクワクするものだ。
さっき思い浮かんだし、無難にマヨネーズから作ってみる?
ケチャップのほうが原材料がトマトだし、わかりやすいかな?
スパイス系も、わかる範囲で試してみよう。
「素材、申請しておいてよかった」
予め必要になりそうな素材は、アルマさんに申請して集めてもらった。
香草はポーションづくりで使っていたから揃っている。
野菜や貝類、生モノは用意できなかったから、また今度にしよう。
「卵は……あんまりない。トマトはあるし。先にケチャップかな」
「ケチャップ?」
「酸味が効いたトマトのソース? みたいなものです」
「へぇ、そんなのもあるのね」
この世界にはケチャップもない。
私にとってはポピュラーな調味料やソース系も不足している。
科学技術に関しては、国によって差はあるようだけど、食文化に関しては全体的に遅れているみたいだ。
「確か材料は、トマトと塩と砂糖、あとお酢だったかな。スパイスも使われていたはずだけど、香草で代用できるものを」
考え事をぶつぶつ口に出しながら、試行錯誤して組み合わせを試す。
味を知っているという大きなアドバンテージを活かし、作っては舐め、作っては舐め。
徐々に口の中が酸っぱくなってきた。
七パターンほど作成し、テーブルに並べる。
「一番近いのはこれだけど、ちょっと酸っぱいかな」
私はもう少し甘いのがいい。
砂糖を増やす?
なんだか違うような気がする。
何が足りないのだろう。
今のままだとトマト感が強いから、もう少しソースっぽくするには……。
「醤油とか」
「また知らない単語が出たわね。どこの言葉なの? ラットマン王国の言葉じゃないでしょう?」
「あーえっと、私が勝手に考えた名前、です」
「そういうこともしてるのね。意外だわ」
「あはははっ……」
ちょっと恥ずかしい。
聖女様視点だと、私は自分だけの言語を作っている変な人、になっている。
いつか変なイメージがつかないか心配になる。
「これはこれで使えるから、先に醤油を作ろうかな」
醤油の主な材料はわかる。
大豆、小麦、そしてお塩だ。
大変な手順は、錬金術で全部無視できる。
醤油を自力で作った人が見たら、なんてインチキだと怒るだろうけど。
「できました!」
「これが醤油? 黒いわね」
完成した醤油の小瓶を聖女様が覗き込む。
香りは完全にあの醤油だ。
味も……。
ペロッと舐めて確認する。
「完璧」
懐かしい味だ。
前世の記憶が蘇るような。
「私もいい?」
「はい! どうぞ」
聖女様も恐る恐る、出来上がった醤油を味見した。
この日、初めて――
「美味しいわね」
前世の味が、この世界の人間の舌を唸らせた。
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