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 翌日。
 私はレントと共に、東にある小さな村を訪れていた。
 村は大きな二つの山に挟まれ、渓谷の近くに位置する。
 最近、渓谷に野盗が屯し、近隣住民の生活を脅かしているそうだ。
 事前情報によると、野盗たちは数匹の魔物を飼っている。
 魔物は人間には懐かないが、強者に対しては本能的に服従する。
 その性質を利用し、魔物を使って悪だくみをする人間もいる。
 私が女王だった時代も、魔物をオークションにかけている闇市場とかがあった。

「あんな凶暴なのを飼って何が楽しいのかしらね」
「同感だな。危険なだけだ」
「ところで、なんで私たちだけなの?」

 今回は野盗退治に赴いている。
 のだが、なぜか参加しているのは私とレントの二人だけだった。
 以前のように騎士団を引き連れている、というわけでもない。
 
「魔物の群れよりは楽かもしれないけど、数もそこそこいるって話じゃない。二人だけっておかしくないかしら?」
「……出発前に説明したじゃないか」
「そうだったかしら?」
「聞いていなかったのか」
「聞いてた……気がする。あーなんとなく思い出してきたわ」

 セミラミスが去った後、彼女と邂逅したことや話した内容をレントに伝えた。
 それはもう驚いていた。
 ついでに怒られた。

 そういう時はすぐに俺を呼んでくれ。
 どこでも駆け付けるから、と。

 セミラミスの結界の中だったし、呼んでも来れなかったと思うけど。
 言い訳も面倒なので、そうするわと一言答えた。
 そして重要なのは、セミラミスが最後に言い残したことだ。 

「お前の近くにもう一人の魔女がいる。それが事実だとしたら、身近に置く人間には慎重にならないといけない」
「だからって、騎士まで置いておく必要ある? 魔女は女性よ」
「それが嘘かもしれないだろ? 魔女と見せかけて、魔人。もしくはもっと別の何かかもしれない」
「嘘はついてないように見えたけど」

 直感的に、彼女は本当のことを言っていた気がする。
 ただの勘なので、根拠はない。
 セミラミスの発言、性格からの憶測だ。
 レントが警戒するのも理解はできる。
 
「私はいいの?」
「お前が一番信用できるだろ」
「ハッキリ言うのね」
「当たり前だ。俺はお前が、アリエルだったことを知っている。だから傍に置いているし、信用できる」

 彼はまっすぐ私の眼を見ながらそう語った。
 信用してもらえるのはありがたいけど、あまり信用され過ぎるのも困りものだ。
 今日みたいに、面倒な場に駆り出される。

 私たちは平然と歩みを進め、野盗のアジトにたどり着く。

「なんだてめぇら? ここに何しに来やがった」
「俺はレント・アルザードだ。お前たちを拘束しにきた」
「アルザード……王族がたった二人で乗り込んできただぁ? 馬鹿なんじゃねーのか!」

 野盗たちが武器をとって集まってくる。
 すでに臨戦態勢だ。

「馬鹿はお前たちだ。俺が剣を抜くまでもない」
「あん?」
「ちょっと、レント」
「制圧するだけだ。魔物より楽だろう?」
「……」

 最初からそのつもりで連れてきたわけね。
 とにかく私を働かせたいらしい。
 私はため息をこぼす。

「おいおい、女を献上して許してもらおうってか? そんなもんで」
「うるさい。だまって凍りなさい」
「はがっ!」

 一瞬にして冷気を放ち、野盗たちを氷漬けにする。
 確かに制圧で、他に目がないのなら、こういうこともできる。
 
「さすが。一緒に来てもらって正解だったな」
「……」

 なんだかムカつく。
 いいように使われているみたいで……。
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