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 魔物とにらみ合うリベル。
 その様子を、言われた地点でレントと騎士たちが見守っている。

「殿下、本当にお一人で大丈夫なのですか?」
「不満か?」
「いえ、そんなことは!」
「ははっ、冗談だ。心配してくれてありがとう。だが、いらない心配だよ」

 レントはリベルの背中を見つめる。
 その視線には期待と、確信が宿っていた。

「彼女がやれると言ったんだ。ならやれる。俺はそれを……信じている」

 誰も知らない。
 目の前にいる彼女こそが、かの勇ましき女王である。
 彼女は女王時代、できないことを口にしなかった。
 どんな方法であっても必ず結果を残す。
 有言実行の王であった。
 そんな彼女を、レントは心から尊敬している。

  ◇◇◇

 人間と変わらない。
 生きるために場所を探し、肉を食らい、争っている。
 彼らに恨みはないけれど、ここは人間にとっても必要な場所だ。
 安々と渡せない。
 だから――

「ごめんなさいね」

 私は湖の反対岸へとたどり着いた。
 ちょうど対極に、魔物たちがいる。
 この位置、角度。
 あとは魔法を発動するだけだ。

 私は両手を前に突き出す。

「炎よ」

 通常、精霊使いが扱える属性は一つだけだ。
 そこも魔法が使える魔女との差。
 私は、やろうと思えば元素を操れる。
 しかし、この場にはレント以外にも人目があり、私がカモフラージュで身に付けている精霊の腕輪は、炎属性の赤に染まっていた。
 故に、この場で扱えるのは炎の魔法のみ。
 周りは森だ。
 無暗に炎を使えば、大火事になってしまうだろう。
 だから、狙いは魔物ではない。

「もっと大きく」

 生成した火球をより大きくして、湖の上に浮かばせる。
 炎は生来、動物に恐怖を与えるものだ。
 炎は怖い。
 炎を上手く扱い、生活に取り入れている動物は数えるほどしかいない。
 人間もその一つ。
 魔物も種類には寄るけど、基本的には動物と同じだ。
 彼らは本能的に炎を恐れる。
 故にこれは威嚇だ。
 ここに、お前たちを脅かす炎があるという。

「さぁ、落とすわ!」

 生成した巨大な火球を、そのまま湖に落下させた。
 落下した火球は水とぶつかり反応し、爆発反応を起こす。
 その反応によって押し出された水は高波となり、魔物たちがいる方角へと流れた。
 つまりは洪水だ。
 根がしっかりした木は耐えられても、動物や魔物はひとたまりもない。
 大洪水によって魔物たちは、森の外へと押し出される。

「ふぅ……任務完了ね」

 森の外へと魔物を追い出した。
 彼らは見たはずだ。
 湖に浮かぶ太陽のような炎の塊を。
 それが降り注ぎ、大洪水を起こした。
 こんな恐ろしい場所に住もうなんて、人間でも考えない。
 彼らは新たな棲家を探して移動する。
 この辺りにホード以外の街はない。
 一先ず、人がいない場所を見つけてくれることを願うばかりだ。

 私はレントの元へと戻る。

「魔物を追い出し、恐怖を与えたか。これならここを縄張りにすることはないな」
「言いつけ通り、任務は果たしました」
「ああ、よかったよ。ただ……」

 じとっと私を見つめるレントは、ずぶ濡れだった。
 後ろの騎士たちも同様に。

「お前、わざとだろ?」
「まさか。偶然です」
「……」

 さっきのお返しだよ。
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