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 アルザード王国の王都西部。
 森と山に囲まれた先に集落があり、その規模は王都に次ぐ。
 広大な自然に囲まれたのどかな街、ホード。
 人口は王都の半分以下だが、穏やかに暮らせる街として人気がある。

「これで合っているかしら?」
「さすが、よく知っているな」
「アルザードの情報は一通り目を通してあるわ。私が知っている範囲だけど」

 女王時代に身に付けた知識だ。
 近隣諸国の主要都市の情報は、余すことなくインプットしている。
 万が一、戦争になってもいいように。
 自国を守るために身に付けた知識を、まさかその国を守るために使うことになるとは思わなかった。
 本当に何が起こるかわからない人生だ。

「もうすぐ到着する」
「馬車で二時間ってところね。それにしてもっ!」

 ガタンと揺れる。
 お尻が浮いて、少し痛い。

「異常に揺れるわね」
「普段は使わないルートを使っているからな。整備が不完全なんだ」
「そういうこと」

 本来の距離感なら、馬車で三時間はかかるはずだ。
 それを二時間に短縮したのは、有事の際にしか使わない別のルートが用意されているから。
 行商人や一般人は使わない特別な道順。
 普段は使わないから、整備が行き届いていない理由もわかる。

「それと、今は周囲に人がいる。悪いが相応の態度で接してくれ」
「そうね」

 ごほんと咳払いをする。
 今の私は彼の側役だ。
 私が彼にお仕えしている身分で、馴れ馴れしく話していては周囲に示しがつかない。

「何なりとご命令ください。レント様」
「うっ……」
「どうかされましたか?」
「なぜだろうな? お前にかしこまられると、背筋が凍ったような寒気がする」
「……我がまま言わないでくれる?」
「慣れるまで時間がかかりそうだ」

 思っていた反応と違ったけど、中々面白い。
 偶にメイドっぽく振る舞って、彼をからかってみよう。
 そんなことを考えていた。
 これから危険な場所へと向かうのに、一切の緊張をしていない。
 不思議と安心感を抱いていた。
 それはきっと、彼も同じなのだろう。

「落ち着いていますね」
「ん? 慣れているからな」
「さすがレント様です」
「うっ……こっちには慣れないな」
「ふふっ」

 やはり面白い。
 彼の弱点の一つとしてしっかり記憶しておこう。

「慣れもあるが、今はお前もいるからな」
「私ですか?」
「ああ、負ける気がしない」
「あまり私のことを当てにしないでくださいませ」
「ダメだな。すごく当てにしている」
「……意地悪なお方ですね」
「お返しだ」

 からかったのが彼にはバレていたようだ。
 ほどほどにしないと、後の仕返しが怖いかも。
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