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私は腕輪を受け取り、左腕に装着する。
ここで精霊使いになれる者は、はめ込まれた水晶の色が変わる。
例えば炎なら赤、水なら青に。
私は変化しない。
「やっぱり精霊使いの才能はないわね」
「悲観することないさ。俺もなかったからな」
「代わりにあなたは聖人でしょ? そっちのほうが特異だわ」
「リベルだって、今は魔女だ」
お互い、精霊使いが霞むような存在になっていた。
私たちは呆れたように笑う。
「とりあえず水晶は魔法で赤くしておくわ」
「あとで赤い水晶を作って嵌め直そう」
「そうね」
やっぱり何度も使った炎の魔法が一番イメージしやすい。
今後も使う機会が……ないことを祈りたい。
「乾いたわよ」
「ん、ありがとう」
乾いた服を軽くはたいて、埃をとってから着替える。
その様子を見つめながら思う。
「鍛えているのね」
「ん?」
「腹筋とか割れてたわ」
「ああ、毎日訓練はしているよ」
私の記憶にある幼い彼は、どちらかといえばひ弱で泣き虫だった。
腕相撲で私に負けるくらい弱かったのに、今やったら絶対に勝てない自信がある。
「成長したわね」
「急にどうしたんだよ」
「別に、昔の思い出に浸っていただけよ」
「なんだそれ。さて、続きをしようか」
「続きって、何するの? もう魔法は見せたでしょう?」
これ以上何をすればいいのだろうか。
キョトンと首を傾げる私に、レントはニヤっと笑みを浮かべる。
なんだか嫌な予感がした。
「次は実戦だ」
「実戦って……まさか……」
「はいこれ、リベルの分」
投げ渡されたのは、木剣だった。
嫌な予感が明確になる。
レントも木剣を握っていた。
というか、すでに構えていた。
「えぇ……戦うの? あなたと?」
「昔を思い出すだろ?」
「……そういう意味じゃなかったんだけど……」
確かに昔、小さい頃の話だ。
王族たるもの、いざという時に自分を守れる術は必要になる。
だから私も、小さいころ頃から剣術の稽古は受けていた。
これが意外と楽しくて、覚えたてだったこともあり、レントと遊び感覚で何度か相掛かり稽古をしたことがある。
基本的には、私の全勝だった。
「あの頃のリベンジだ」
「大人気ないわよ」
「側役なんだから、いざという時に俺を守ってもらわないとな? それじゃ行くぞ!」
「ちょっ! もう!」
私は仕方なく木剣を握り、彼の剣を受け止める。
楽しそうに笑う彼を見て、つられて笑う。
そういう意味じゃなかったけど、確かにあの頃を思い出した。
まだ女王でもなくて、重圧もなく、生まれ直した世界を純粋に楽しめていた頃を……。
ここで精霊使いになれる者は、はめ込まれた水晶の色が変わる。
例えば炎なら赤、水なら青に。
私は変化しない。
「やっぱり精霊使いの才能はないわね」
「悲観することないさ。俺もなかったからな」
「代わりにあなたは聖人でしょ? そっちのほうが特異だわ」
「リベルだって、今は魔女だ」
お互い、精霊使いが霞むような存在になっていた。
私たちは呆れたように笑う。
「とりあえず水晶は魔法で赤くしておくわ」
「あとで赤い水晶を作って嵌め直そう」
「そうね」
やっぱり何度も使った炎の魔法が一番イメージしやすい。
今後も使う機会が……ないことを祈りたい。
「乾いたわよ」
「ん、ありがとう」
乾いた服を軽くはたいて、埃をとってから着替える。
その様子を見つめながら思う。
「鍛えているのね」
「ん?」
「腹筋とか割れてたわ」
「ああ、毎日訓練はしているよ」
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「成長したわね」
「急にどうしたんだよ」
「別に、昔の思い出に浸っていただけよ」
「なんだそれ。さて、続きをしようか」
「続きって、何するの? もう魔法は見せたでしょう?」
これ以上何をすればいいのだろうか。
キョトンと首を傾げる私に、レントはニヤっと笑みを浮かべる。
なんだか嫌な予感がした。
「次は実戦だ」
「実戦って……まさか……」
「はいこれ、リベルの分」
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嫌な予感が明確になる。
レントも木剣を握っていた。
というか、すでに構えていた。
「えぇ……戦うの? あなたと?」
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「……そういう意味じゃなかったんだけど……」
確かに昔、小さい頃の話だ。
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だから私も、小さいころ頃から剣術の稽古は受けていた。
これが意外と楽しくて、覚えたてだったこともあり、レントと遊び感覚で何度か相掛かり稽古をしたことがある。
基本的には、私の全勝だった。
「あの頃のリベンジだ」
「大人気ないわよ」
「側役なんだから、いざという時に俺を守ってもらわないとな? それじゃ行くぞ!」
「ちょっ! もう!」
私は仕方なく木剣を握り、彼の剣を受け止める。
楽しそうに笑う彼を見て、つられて笑う。
そういう意味じゃなかったけど、確かにあの頃を思い出した。
まだ女王でもなくて、重圧もなく、生まれ直した世界を純粋に楽しめていた頃を……。
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